第27話:気になる店

 一旦宿に戻り、部屋に荷物を置いてから再び外出した。

 今日は予定よりもかなり早く完売したからな。特にやることも無かったし、町中を散策しようと思ったのだ。


 しかし本当に広い町だな。王都だけあって人口もかなり多いだろうな。ここまで規模が大きいと迷子になりそうだ。

 しばらくの間は町中の道を覚えることにするか。どうせ長く住む予定なんだし、覚えといて損は無い。ま、時間はタップリあるんだ。ゆっくり行こう。

 そんなことを考えつつ、辺りをブラつくことにした。




 歩いてから数十分後。気になる店を発見した。

 店というのは外見でどういう物を売っているのかだいだい察しが付く。

 果物が並んでいるなら果物屋だし、服が飾ってあるなら服屋だ。とまぁそんな感じで判断をしていた。

 だけど外見では何の店なのかさっぱり分からない建物があった。その店には看板が高い位置にぶら下がっていたけど、それを見てもどういう店なのか不明だった。看板には人の形をした絵が書いてあるだけだったからだ。

 あれはなんだろう。小さく文字が書いてあるみたいだけど、生憎この世界の文字はまだ覚えていない。


 もしかして質屋だったり?

 ……いや違うな。質屋は一度訪れたことがあるから何となく分かる。あの店は質屋という感じではない。なら何の店だ?

 ……気になるな。建物もそれなり大きいし、安物を売ってそうな雰囲気じゃないことは確かだ。だからこそ気になる。

 とりあえず入ってみるか。どうせ見るだけならタダだしな。


 店のドアを開けて中に入ると、広いスペースに数人がくつろいでる光景が目に入った。もしかしてここは喫茶店かな?

 店の入り口で立ち止まっていると、奥の方から店主らしき男がこっちに向かってきた。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件でございますか?」

「あ、えっと……ちょっと見学したいだけなんですけど……」

「ああ、品定めでございますか。それならごゆっくりどうぞ」


 そういってさっき見ていた広いスペースに手を伸ばした。


「あちらにあるのはどれもがよく、わたくしが自信を持って選び抜いたものばかりでございます。なのできっと気に入ると思いますよ」

「は、はぁ……」


 とは言ってもなぁ。あそこには数人が暇そうにしているだけで、売り物らしき商品が見当たらないんだよな……

 というかここでは何を売ってるのかさっぱり分からん。とりあえずあの広いスペースに行ってみるか。


 その場所に近づくと、中で居座っていた大男がこっちに向いてきた。


「おう、兄ちゃん。もしかして買いに来たのか?」

「えっと……なんというか……覗きに来ただけというか……」

「だったらオレなんてどうよ? 力仕事なら誰よりも自信があるぞ。絶対お買い得だと思うぜ?」


 ……? 何を言っているんだこの人は?

 話の内容が理解できない。というか何を売っているのか全然分からん……


「あの……俺はここには初めてきたんだけど……」

「ほほう。だったら尚更オススメだぞ。絶対損はさせないからオレにしとけって!」


 やはり意味不明だ。何なんだこの人は。

 こうなったら聞いてみるか。


「ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」

「おう! 何でも聞きな! ちなみにオレは大樽を担ぐ程度なら――」

「ここって何屋なの?」

「…………へっ?」

「…………」

「…………」


 あれ。なんだこの空気は。

 聞いたらまずかった?


「も、もしかして兄ちゃんは、何も知らずここに入ったのか……?」

「はい……」

「……おいおい。まさか冷やかしじゃないだろうな?」

「い、いや! 本当に知らなかったんだって!」

「…………」


 大男は無言になった後、ため息を付いてから店主に振り向いた。


「おい! どうなってんだ! なんで何も教えて無いんだよ!」

「い、いえ……わたくしも知っているとばかり……」

「全く……しっかりしてくれよ……」


 そんなやりとりをしたと思えばすぐにこっちを向いてきた。


「何もを知らねぇみたいだから教えてやるよ。いいか? ここはな……」

「ここは……?」


 返ってきた答えは予想外のものだった。


「ここはな…………奴隷屋なんだよ」

「…………はい?」


 え……?

 奴隷屋……?

 まさか奴隷って……あの奴隷……?


「マ、マジで……?」

「何をそんなに驚いているんだ?」

「い、いやだって……」


 おいおい。奴隷屋なんてのが存在するとか初めて聞いたぞ。

 そうか。ここに居る人はみんな奴隷の人なのか。道理でさっきから話が噛み合わないと思ったよ。

 しかしなんというか……俺がイメージする奴隷とは何か違うような気がする。奴隷にしてはやたら元気だし、全然悲壮感が漂っていない。


「というわけで……だ」

「……?」

「試しにオレを買ってみないか? 力仕事なら何でもこなすぜ!」


 確かにこの人なら頼りになりそうだ。やたら筋肉質だし、力と体力の要る仕事なら欲しい人材だろうな。

 しかし俺は買う気なんて――


「ちょっと、アンタだけ独り占めしないでよ」


 いつの間にか大男の後ろに女の人が立っていた。


「別にいいじゃねーか。この兄ちゃんは初めてやってきたわけだしよぉ。これは売り込むチャンスだろうが」

「それはアタシだって同じよ。アンタだけいい思いしないでよ」


 女の人はこっちに近づき、微笑みながら話しかけてきた。


「ねぇボウヤ。せっかくなんだからアタシを買ってみない? 色々と役に立つと思うから損はさせないわ。もちろんアッチの方・・・・・でも楽しませてあげるわよ?」

「は、はは……」


 なるほどね。来店した客に対してこうやってアピールしていくわけか。

 まぁ買ってくれるかもしれないチャンスだからな。そりゃ頑張って自分を売り込むわけだ。

 でも今の俺はには買う気はない。というか購入資金もないから買えないしな。


「俺は見に来ただけで、今日は買う気は無いよ」

「あら。残念」


 しかし奴隷と言えばもっと悲惨な扱いをされているイメージだったんだけど、この人たちは明らかにそうには見えない。みんな健康そうにしているし明るい雰囲気だ。

 う~ん……


「どうした兄ちゃん。納得いかないって顔しているが」

「あ……いや……」


 もしかしたら俺の認識が間違っているのかもしれないし、聞いてみるか。


「その……なんというか、奴隷にしては明るいなぁと……」

「……ああ、そういうことか」


 すぐに言いたい事を察してくれたようだ。理解が早くて助かる。


「確かに奴隷って聞くとイメージが悪いとは思うが、少なくともこの国ではそこまで悲惨な扱いはされないと思うぜ」

「そうなの? 意外だなぁ……」

「意図的に使い潰すようなことは禁止されているし、奴隷相手であっても殺しはご法度だ」

「へぇ~」


 本当に意外だ。俺が想像する奴隷とは全然違う。


「でも奴隷だと不便じゃないの?」

「まぁ自由が殆ど無くなるのは確かだな。でも最低限の生活は保障されるし、食いっぱぐれることは無いと考えれば悪くないと思うぜ」

「なるほど……」

「買い取った主人にもよるけど、待遇を良くなる場合だってある。運が良ければ家庭を持つことも許されるんだぜ」


 ほほう。デメリットはあるけど、基本的には扱いはいいみたいだ。

 よく考えたら奴隷だってタダじゃないんだ。そら大事に扱うに決まってるわな。

 そうか。奴隷という言葉を使うからイメージが悪かったんだ。つまり奴隷という名の人材派遣みたいなもんか。


「あとは……これを付けるのが決まりになってるぐらいか」


 そういって自分の首元を指差した。


「……首輪?」

「そうだ。これが奴隷の証でもあるな。これがある限り主人に危害を加えることが出来ないんだ。だから安心しな」


 なるほどなぁ。よく見たら他の人もみんな首輪をしている。

 首輪を良く見てみると、小さなビー玉みたいなのが付いている。あれはアクセサリーなんだろうか。

 気にしても仕方ないか。首輪には変わりないんだから。


「お客様。お決まりですか?」

「い、いえ……」


 いつの間にか後ろに店主が居た。

 とりあえずもう帰ろうかな。どうせ金が無いんだから買えないし、そもそも買う予定も無い。気になったから覗きに来ただけだしな。

 そう思い、帰りを伝えようとした時だった。


「ふ~む。ここにいる奴隷では満足なさらないと?」

「そ、そういうわけでは――」

「なるほど、お目が高い。ではとっておきの奴隷をお見せいたしましょう」

「いや、あの――」

「お客様は運がいい。つい最近入荷したばかりの珍しい奴隷ですよ。きっとお気に召されるかと」


 駄目だ。話を聞いてくれない……


「ささ、こちらにどうぞ」

「あの……俺はそんなつもりでは――」


 後ろから押されるようにして店の奥に入っていく俺。

 しょうがない。付き合ってやるか。どうせ買えないんだし、その内諦めるだろう。

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