第71話:魔法の練習

 あれから特に進展もなく、ヴィオレットは自分の部屋へ戻っていった。


「結局、何度言ってもマナが精霊だって信じなかったな」

「ま、まぁ仕方ないと思いますよ。私だってよく分かってませんから」

「そういうもんかなー」


 俺も精霊がどういうもんなのかよく知らなかったし。

 マナも見た目は普通の人間だもんな。ちょっと変わってるけど。

 そんな子を精霊だと言われても信じるのも無理ないかもな。


「ぷりん……」

「ん? ああ。すまんちょっと待ってて」


 忘れるところだった。プリンをあげないと。

 カタログからプリンを手に入れ、マナに渡すことにした。


「はいよ。プリンだ――」


 むにゅん


 …………


 …………え?


 この柔らかい感触……

 まさか……


「あ…………」

「…………?」


 ……やっべぇ。

 プリンを手渡そうとしてマナのおっぱいに触っちゃったよ。


「ご、ごめん! ワザとじゃないんだ! 普通にプリンを渡そうとしただけなんだ! よく見ずに渡そうとした俺が悪かった! まさかそんな位置に居るとは――」

「なんで、謝るの?」

「い、いやだって、俺の手がマナの……その……む、胸に触っちゃったし……」

「? 触ると、謝るの?」

「え?」

「?」


 あれ?

 怒ってないのか?

 ビンタの1つぐらいは覚悟してたんだけどな。


「な、なぁ。マナは怒ってないのか?」

「どうして、怒るの?」

「だからマナの胸を触っちゃったわけだし……」

「触ると、怒る? なんで?」

「だ、だって……」

「???」


 どうなってんだ?

 本当に怒ってないみたいだ。それどころか気にすらしていない様子。

 というか触ったときですら無反応だったな。マジでどうにも思ってないのだろうか。

 そういや前にも、ヒザの上に座ったときがあったな。

 精霊ってのはこういうところの感性がズレているんだろうな。


「……ハッ! な、何してるんですか!? マナちゃんのおっぱいを触るなんて!」


 と思ったらギンコがおかんむりだった。


「ち、違う! ワザとじゃないっての! 俺のミスではあるけど、やろうとしてやったんじゃない!」

「むぅ~……」

「ほ、ほら。もう謝ったし、マナはもう気にしてないよな?」

「ん」

「それならいいですけど……」


 とりあえずは収まったかな?

 いやー焦った焦った。危うく変態扱いされるところだった。

 これからは気を付けよう。


 でも…………柔らかかったなぁ……

 マナのおっぱいはなかなかのサイズだもんな。メロンを2つぶら下げてるようなもんだ。

 精霊ってのは、基本的に体は人間と同じなんだな。

 不本意とはいえ意外な事実を知った気分だ。


「ご主人様~? 何を考えているんですか~?」

「え!? い、いや別に大したことはないよ!」

「ふぅ~ん……」

「あ、あれだ……その……なんでギンコには加護が付与できないのか不思議に思ってな!」

「そ、そういえばそうですね……」


 本当に謎なんだよな。

 マナに聞いても答えてくれないし。

 何か条件でもあるんだろうか。


「なぁマナ。俺に加護をつけるのも無理なんだよな?」

「できる」

「だよなー。そう簡単にはいかな――」


 …………


 …………えっ?


「ちょ、ちょっと待って。今の言葉はマジなのか?」

「ん」

「それは、俺に加護をくれるって意味なんだよな?」

「ん」


 おいおい。さすがに予想外だぞこれは。

 ギンコは無理って言われたし、てっきり俺も無理なもんだと思ってた。


「じゃあギンコはどうなんだよ?」

「むり」


 やっぱり無理なのか。


「な、なんでギンコには出来ないんだよ? せめて理由ぐらい教えてくれよ」

「知らない」

「知らないって……お前は精霊なんだろ? 何で知らないんだ?」

「…………」

「無理というのなら納得できる説明ぐらいしてくれないか? こっちは何も分かないんだんだからさ。少しぐらい教えてくれてほしいなーって思うんだけど……」

「お、落ち着いてください! 私は気にしてませんから!」

「あっ……悪い……」


 いかんいかん。つい熱くなってしまった。

 冷静になろう。


「もう一度聞くぞ? 俺に加護を付与するのはいけるんだな?」

「ん」

「ギンコには出来ないのか?」

「むり」

「その原因は何なんだ?」

「知らない」


 何度聞いても同じか。

 精霊自身も知らない原因があるってことか?

 そんなのありえるのか?


 俺とギンコの違いは何だろう?

 まさか獣人には加護が付与できないんだろうか。

 ――これは違う気がする。

 エルフだっていけたんだから、獣人だけ別とは考え難い。


 ギンコがまだ子供だからか?

 ――これも違うかな。

 年齢は関係ない気がする。


 首輪を付けているから?

 ――関係ない気がする。

 念のためにマナに聞いてみたが、やはり無関係とのこと。


 そもそも何をもって無理だと判断したんだ?


 ……駄目だ。分からん。情報が少なすぎる。

 これ以上考えても無駄かもな。


「な、ならさ。今から俺に加護を付与してくれるか?」

「ん」


 おお。マジでいけるのか。

 これで俺も魔法が使えるようになるのか。


「ごめんなギンコ。俺だけ抜け駆けするみたいで」

「大丈夫ですよ。私は本当に気にしてませんから。ご主人様が嬉しく思えるのなら、私も嬉しい気持ちになりますし」

「そうか……」


 いつかこの謎を解明して、ギンコにも加護を付けれるようにしてやりたいと思う。

 そのためにはまず俺が加護を貰って、どういうものなのか体験するのが一番だろう。


「マナ。頼む」

「ん。それじゃ――今から――『あげる』」


 そういった瞬間。俺の体が淡い光で包まれた。


「おお?」


 光は数秒間続き、しばらくすると消えてなくなった。


「…………これで終わり?」

「ん」


 やけにあっさりだな。

 もっとこう派手な感じになると思ったけど、意外と地味だった。

 まぁいいか。


「ど、どうなりましたか?」

「ん~……特に変わった気はしないな」


 体を動かしてみるが、特別何か変化があるとは感じられない。いつも通りだ。

 加護が付くなんて初めての経験だしな。違いが分からん。

 けどこれで魔法が使えるようになったんだろうか。


「よ、よし。じゃあ魔法使ってみるぞ」

「がんばってください!」


 ちょっとワクワクしてきた。

 とりあえず軽く火でもでも起こしてみるか。


「えーと。こうかな? ファイヤー!」


 手をかざして力んでみるが、何も起こらなかった。


「あれ? 呪文が違うのかな?」

「どうなんでしょう?」

「だったら……火よ! 吹き荒れろ! メラゾーマ!」


 しかし、なにもおこらなかった。


「くそっ。これも違うか」

「ほ、他の方法を試してみては?」

「じゃあこっちだ! ファイヤー! アイスストーム! ダイアキュート! ばよえ~ん!!」


 し~ん……


「何も起きませんね……」

「だな……」


 空しくなってきた……


「なぁマナ。本当に俺に加護が付いてるんだよな?」

「あげた」


 子供にお菓子をあげるような感覚で言われてもな。

 おかしいな。加護があれば魔法が使えるんじゃないのか。何が間違ってるんだろう。

 少なくとも魔法が使える下準備は出来ているはずなんだ。

 つまりやり方が間違っているということか?

 それとも呪文が違うのか?


「じゃあどうやって魔法使うんだよ?」

「知らない」


 結局それか。

 困ったな。加護さえあればすぐに魔法が使えるようになると思ってただけど、意外と面倒そうだ。

 ヴィオレットに聞いてみるか?

 いや、ヴィオレットには既に魔法が使えるって言っちゃったからな。今さら聞きにくい。

 じゃあどうしようか。どうやったら魔法が使えるのか知りたい。

 何かいい手は無いもんか……


 …………


 ……待てよ?

 ふと思ったんだけど、まさか魔力が足りないってやつなんだろうか。

 いわゆるMPが足りないって状態だ。

 魔法を使おうにもMPが無いから発動しない……という仮説だ。


 そういや加護を貰うには本来、修行をして精霊に認められないと貰えないんだっけか。

 その修行ってつまり、魔力MPを増やすための修行なんじゃないだろうか。

 精霊に認められないと加護が手に入らない理由はそこかもな。

 そもそも魔力がないと手に入れても無駄ってことだしな。だからこそ修行をする必要がある。


 全く根拠の無い仮説だけど、案外当たってるのかもしれない。

 今回はマナに無理言って加護を貰ったようなもんだしな。


 ……ひょっとして、初めからこうなることを分かっていたから加護をくれたんだろうか。

 そんな気がしてきた。


 仕方ない。今は保留にしておこう。

 魔法が使えないのは残念だけど、俺にはカタログがあるしな。

 その内なんとかなるだろう。

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