第47話:恥じらいは大事
翌日。
今日もプリン星人ちゃん(仮)によって起こされる。そしていつものように俺から貰ったプリンを食べ始めた。
少し経ってからギンコも目を覚ましたようだ。
「ふぁぁぁ……あ、もう起きる時間ですね」
プリンを黙々と食べているプリン星人ちゃん(仮)の姿を見てそんなことを呟いた。もはやすっかり時計代わりになってるな。
「今日はどうしますか? また散歩に出かけますか?」
「ん~そうだなぁ……」
昨日は質屋から出た後に色々考えたけど、どういう物を売ればいいのかイマイチいい案が出なかったんだよな。
露店エリアにある他の店は何を売っているのか軽く見て回ったが、あまり参考にはならなかった。
果物だったり、手作りらしき物だったり、よく分からない調味料だったり、石みたいな物だったり……といった感じで統一性が無かった。中には杖みたいな物まであった。
「ギンコはどういう物だったら売れると思う?」
「ご、ごめんなさい。そういうことに関しては役に立ちそうにないです……」
「そうか……」
ギンコはまだ子供だし、さすがに難しかったか。
「でも、あまり値段の高い物は売れにくいと思います」
「まぁそりゃそうだよな」
「いえ、そうではなくて。いつもご主人様が行く場所だと、他の店はどこも安い物が多かったんです」
「そうなの?」
「はい。中には高額な物もありましたけど、基本的には銀貨1枚を超える物はほとんど無かった気がします」
なるほど。予想はしてたけど、露店エリアだと値段の高い商品は売れにくいってことか。高く売れそうな物でドカンと儲けるのは厳しいということだな。
じゃあ石鹸みたいに、露店エリア以外の店に持ち込んでみるか……とか考えたこともあったけどこれは無しだ。というか、そういう行為自体がグレーゾーンな気がするんだよな。
前にパウル伯爵が『やり過ぎるな』と忠告したのは、こういうことも含めた上だったんだと思う。
考えすぎかもしれないけど、万が一ということもある。派手に動くようなことはしたくない。
結局、薄利多売でいくしかないってことか。
ならば安い物と高い物を同時に出すか。基本的には安くても売れ行きがそうな商品で稼ぎ、利益の高い商品は時間をかけて売る。
要するにいつも通りってことだな。
「んじゃ、とりあえずビニール袋は置いてみようと思う。銀貨2枚ぐらいで売れるみたいだしな」
「だめ」
「……!?」
すげぇ予想外なやつから駄目だしされた。
今の声はギンコではなく、プリン星人ちゃん(仮)の声だ。既にプリンを食べ終わっていて、こっちに向いていた。
「だめ? 何が駄目なんだよ?」
「…………」
「おーい?」
「…………」
ダンマリかよ。
「ご、ご主人様……ど、どうしますか?」
「どうするも何もビニール袋は相場分かったんだし、置いてみるつもり――」
「だめ」
「…………」
またかよ。どういうつもりなんだ?
「なぁ。何が駄目なんだよ? これなら銀貨2枚ぐらいで買えるんだろ? ならこの値段で置いといても不自然じゃないだろ」
「…………」
どうして理由を言わないんだよこいつは。自分で考えろってことか?
ならば別の物を言ってみるか。
「それなら……服とかはどうだ?」
「だめ」
これも駄目か。
「じゃあナイフは?」
「だめ」
「なら鏡は?」
「だめ」
「それなら食器はどうだ!」
「だめ」
「ぐっ……」
何なんだこいつは。あれも駄目、これも駄目とか。
「おい! 何ならいいんだよ!? それぐらい教えてくれてもいいだろ!?」
「…………」
やっぱりダンマリか。
プリン星人ちゃん(仮)は常に無表情だから何考えているのかさっぱり分からん。
いや待てよ。もしかしたら食べ物以外全部弾いてるのか?
さっきから俺が言ってるのは道具だしな。
そういうことなら――
「じゃあ……プリンならどうだ!」
「……………………だめ」
少し間があったのが気になるが、これすら駄目か。
こいつのこの自信はどこからくるんだろう。さすがに理由もなく判断してるはずはないと思うんだけどな。
とはいえ、さすがに何もかも否定されると少し頭にくるものがある。しかも理由も話さないから尚更だ。
もしかして、ただイチャモンつけたいだけなのか?
よし、ならばこっちにも考えがある。
「さっきからだめって言うけどさ、それは俺が言ってた物は全部売れないってことでいいんだな?」
「…………」
「だったら本当に売れないのかどうか賭けてみようぜ。もしそれで売れるようなら……そうだな……ならば、お前が全裸で逆立ちするってのはどうだ?」
「…………」
「ええ!? ご、ご主人様!?」
さぁどうする?
「全裸?」
「そうだ! 服を全部脱ぐんだぞ」
「ぬぐ?」
「しかも逆立ち付きでな!」
何を根拠に判断してるか知らんが、本当に自信があるならこのくらいの賭けに乗ってくるはずだ。
これで乗ってこないようなら二度とプリンはやらん。だがこのことはあえて言わない。
「どうだ? この賭けを受ける勇気があるか?」
「…………」
さてどう出る。
真偽はどうあれ、こいつも自分なりに確証があったからこそ断言できたはずだ。
ならばそれを証明するだけでいいはず。
しばらく互いに見つめ合う。
少し経ってからプリン星人ちゃん(仮)は自分の服を掴んだ。
そしてそのまま服を脱ごうとして――
…………
はい!?
「ちょ、ちょっと何してるんだよ!? ストップストップ!!」
「わー! だめですよぉ!」
慌ててギンコが駆け寄り、脱ごうとした服を押さえつけた。
「一体何のつもりだよ!? どうしていきなり脱ぎ始めるんだよ!?」
「だって、脱げって、言った」
「それは賭けに負けた時の話だろうが! 今すぐやれとは言ってねぇ!!」
「……?」
「ひとまず脱ごうとするのを止めろ!」
おいおい。何なんだこいつは。
なんの
幽霊だから恥じらいもないってか?
「と、とりあえずお前の言うことは分かったから。信じるから。これでいいだろう?」
「そう」
なんかもうどうでもよくなってきた。
まだ朝だってのに変に疲れたぞ。
プリン星人ちゃん(仮)から離れたギンコが近寄ってきた。
「手間かけさせて悪いな」
「い、いえ。別にいいんですけど。結局、あの子の正体って何なんでしょうね……?」
「さぁな。プリン星人かもしれんぞ」
「ぷ、ぷりんせいじん?」
「俺はそう呼ぶことにしてる」
「はぁ……」
とりあえずメシにするか。売り物を考えるのはその後だ。
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