第84話:焼肉パーティ
さてどうしようか。
森の中をどこに進もうが似たような景色で、どっちが正しい道なんて分かるはずもない。
「今日はここらで休もう。これ以上は動く方が危険だ」
「そうだな。さすがにここまで暗くなってくると周囲が見えないしな」
夜の森はむやみに動くべきじゃないだろう。
今日はここらで明るくなるまでやり過ごすことにしよう。
そう思い、荷物を降ろそうとした時だった。
「……? 明るい……?」
離れた所に、少し明るい場所を発見したのだ。
「なぁ。あっち行ってみないか?」
「どうしたんですか?」
「あそこがやけに明るい気がするんだ」
「……本当ですね。何かあるんでしょうか?」
なぜかあの場所が気になる。
もしかしたら誰かいるのかもしれない。
「とりあえず行ってみようぜ。ここに居るよりマシだと思う」
「行くなら急ごう。のんびりしてると真っ暗になる」
「そうですね」
3人でその場所へと急いだ。
目指した場所に到着すると、奇妙な光景に驚いてしまう。
「な、なんだここは……」
「す、すごいな。どうしてここだけ木々が無いんだ……?」
「綺麗な場所ですね~……」
到着して目に入ったのは、やけに広く、辺り一面に芝生が敷き詰められた光景だった。
周囲の木々は取り囲むように存在しているが、この場所だけ1本も生えていない。
まるでここだけゴルフ場にしたかのように整っている。
どう考えても不自然な場所だ。ここに隕石でも落ちてきたんだろうか。
「ど、どうなってるんだ……。ギンコはこういう場所があるのを知ってたのか?」
「初めて来ましたし、聞いたことも無いです……」
「ま、まぁ丁度いい。とりあえずここで休もう。どうせこれ以上は歩けないしな」
「そうしよう」
少し奥のほうまで行き、そこで腰を下ろすことにした。
「しかし疲れたな……」
「ずっと歩いていましたからね……」
「その割には、二人とも平然としてるよな」
「そうですか?」
ギンコもヴィオレットもあまり疲れているようには見えない。
「私はこういうの慣れてるからな。このくらいで倒れるほどヤワじゃないさ」
「頼もしいな」
「護衛をしていると色々あるもんさ。だからそれなりに鍛えてるつもりだ」
本当に頼もしいな。
軍人並みの体力がありそうだ。
「あ、そういやヴィオレットはどうしてフォルグの里に来たかったの?」
「うん? どうしたいきなり」
「いやさ。前に来てみたかったとか言ってたじゃない? ふと気になってさ」
「……ああ。そのことか」
ヴィオレットとフォルグの里には接点が無さそうだしな。
なんとなく気になったんだ。
「私はな。
「ある人……?」
「その人を探す為に、こうして旅に出ているといっても過言じゃない」
「こんな場所にまで来るような人なの?」
「さぁな。もう何年も探し続けているからな。それでも見つからなかった。だからこういう隔離された場所に居るんじゃないかと思ったまでさ」
「そ、そこまでして会いたいのね……」
「ああ。その人は私の――」
ぐぅ~
「…………」
「あぅ……」
音の発信源はギンコのお腹からだった。
「……そういやまだ何も食べてなかったな」
「メシにするか」
「ご、ごめんなさい……」
「俺も腹減ってたことだし。気にすんな」
というわけで、すぐにメシの準備をすることにした。
さて何を食べようかな。
今日は少し豪華にいきたい気分だ。
となると……アレしかないな。
キャンプ用のテーブルやバーベキューコンロなどを出し、次々と並べていく。
「それは何に使うんですか?」
「これはな。色々と焼くために使うんだ」
「何を焼くんです?」
「それは決まってるだろう。肉や野菜だ」
「!! お肉!」
キャンプといえばこれだろう。
実は前からやってみたかったんだよな。
「というわけで、今日は焼肉にしようと思う!」
「わーい!」
「ほう。肉と来たか。これは期待できそうだ」
さっそくカタログから目当ての肉と野菜を購入。テーブルに並べる。
これは普通の肉じゃないぞ。もっと高級なやつだ。
「わぁ……これを焼くんですか?」
「ふふふ。聞いて驚け。これは高級黒○和牛だぞ」
「わぎゅー?」
「そうだ。キロ当たり数千円はする最高級の肉だ!」
「よく分からないけどすごく美味しそうです!」
俺も食べたことのないぐらい高いやつだからな。
二人とも驚くはずだ。
「んじゃ炭を敷いてと……。ヴィオレット。火を頼む」
「任せろ」
ヴィオレットが火をつけた後、網の上に肉と野菜を焼いていく。
おっと。タレを忘れていたな。
「肉を取ったときにこれつけてみな」
「何ですかそれ?」
「秘伝のタレというやつだ。これをつけて食うとさらに美味しくなるぞ」
「へぇ~。試してみますね」
両面を軽く焼いてからタレに付ける。
うむ。いい焼き加減だ。
「んじゃ食べるとするか」
「いただきますね」
「いい香りだな。これは美味しそうだ」
皆が一気に口の中へと放り込む。
さてお味は……
…………
…………うっめぇ!
「うっま! さすが高級肉なだけある」
「と、とってもおいひいですぅぅ! こんなおいひいお肉初めて食べました!」
「な、なんだこの肉は! こんなにも柔らかいのにこの歯ごたえ! こんな上等な肉が存在するのか。今まで食べてきた肉はなんだったんだ……」
「噛めば噛むほど肉汁があふれて口の中が幸せですうぅ!」
好評でなにより。
二人ともすごく嬉しそうにしているな。
「私、ご主人様と一緒に居られてすごく幸せです!」
「同感だ。ヤシロと同行できてよかったと思うよ。感謝し足りないぐらいだ」
「そうだろうそうだろう。おーし。どんどん焼くからいっぱい食えよ!」
「はい!」
ギンコも元気を取り戻したみたいでよかった。
本人は明るく振舞ってたけど、内心はそんな気分じゃなかったはずだ。明らかにいつもより暗かったからな。
やはりこういう時は、美味いもん食ってリフレッシュするに限る。
ま、今は食事に集中しよう。
さて。次は野菜でも食おうかな。
「ほらギンコ。肉だけじゃなくて野菜も食べるんだぞ」
「えー……」
「えーじゃありません。食べなさい」
「うぅ……はい……」
全く。困った子だ。
いくら肉が好きだからといってもそれしか食べないってのは体によくない。
なんか父親にでもなった気分だな。
「あ、焼いた野菜も美味しいです」
「だろ? こういうのは他の物も一緒に食うといいんだ。肉ばかりだと口の中が飽きるだろうしな」
「うむ。どれも美味しいし、食べてみないともったいないぞ」
「そ、そうします」
よしよし。これで均等に消費できるようになったな。
今度やるときはもっとバリエーションを増やしてみるかな。
とはいえ、今日のメインは肉だ。
どんどん焼いていこう。
『随分と美味しそうに食べておるのう』
「そりゃそうさ。なんたって高級肉だしな」
本当に美味しい。
安物の肉とは大違いだ。
『見ていると妾も食べたくなってきたのう。少し分けてほしいのじゃが』
「なんだよギンコ。遠慮せずにもっと食べていいんだぞ」
「はい?」
「ん?」
キョトンとした顔でこっちを見るギンコ。
「私がどうかしましたか?」
「え? 今喋ったのはギンコだろ?」
「いいえ。私ではないですよ」
「私でもないぞ」
「……あれ?」
おかしいな。
今この場には三人しか居ないはずだ。
だから俺以外の人が話しかけてくるのはギンコとヴィオレットしかいないわけで。
でも二人とも違うと言っている。
じゃあさっき聞こえたのはなんだったんだ?
まさか幻聴だったのか?
……まぁいいか。たぶん気のせいだろう。
それよりも今は食事の続きを――
「ぶっ!! な、なんだこいつは!?」
「ご、ご主人様! 後ろを見てください!!」
「え?」
言われて後ろに振り向く。
するとそこには――
巨大な狐が俺らを見下ろしていた――
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