第59話:元祖落ちゲー
俺たちは再び宿へと辿り着いた。南方面が通れるようになるまではここを拠点にすることになった。
ギンコは昨日と同じく俺と一緒の部屋になった。
部屋に入ってしばらくしていると、ヴィオレットが訪れてきた。
「ヤシロ。ちょっといいか」
「ん? どうしたの?」
「伝えたいことがあってな。私はしばらく別行動を取らせてもらうよ」
「別行動? 何かしたいことがあるの?」
「まぁな。せっかく時間が空いたからな。この間に色々とやりたいことがあるんだ。それだけ伝えたかった」
ということはしばらく会えないってわけか。
「なーに。日没には戻る予定だ。もし帰ってこなくても気にしないでくれ。出発する日には必ず戻るから」
「わかった」
「では私はこれで」
ヴィオレットはそう言い残し、部屋から出ていった。
さて……暇になったな。
出発するのに5日ぐらいかかるみたいだし、それまで何もすることがない。
とりあえずゲーム○ーイで遊ぶか。
「ご主人様は何をしているんですか?」
ギンコがゲーム機を不思議そうに見つめる。
「これか。ちょっとした暇つぶしの道具だよ」
「そんな小さな箱で何かできるんですか?」
「んーなんというか……実際に見た方が早いかな。こっちに来なよ。説明するから」
「はい。じゃあ隣に座りますね」
そういって俺の隣まで移動してきた。
「ほら。この画面に映っているやつを見ながら操作するんだよ」
「! す、すごい! 絵が動いていますよ!?」
「面白いだろ?」
「ふ、不思議です……」
肩を密着させながら食い入るように凝視するギンコ。すごい驚いているな。
知らない人が見たらやっぱり不思議な光景なんだろうな。
「こ、この箱の中には何が入っているんですか!?」
「えーと……なんつーか……精密機械?」
「せいみつきかい……? なんですかそれ?」
「まぁなんというか……と、とにかくすごい魔法みたいなもんだよ」
「へぇ~。こんな魔法があるなんて知りませんでした」
〝発達した科学は魔法と見分けがつかない〟なんて言うが、これもそんな風に見えるんだろうな。
「ギンコも自分で操作してみるか?」
「ええっ!? いいんですか?」
すっごいやりたそうにウズウズしてたしね。
「ちょっと待ってね。ソフト変えるから」
「?」
中断してソフトを入れ替え、ギンコに渡す。
「左手でこの十字キーを操作して、右手でこのボタンを押して操作するんだ」
「は、はい」
「あとはやりながら覚えていけばいいか。んじゃ電源入れるね」
スイッチを入れると画面が表示された。
俺が入れたソフトは落ちゲーで超有名なあの名作……テト○スだ。これなら視覚的に分かりやすいと思って選んだ。
OP画面後、一番難易度が低いやつを選んでスタートさせた。
「上から色々なブロックが降ってくるから、それをうまく操作しながら積み上げていくんだ。横一列に並べると消えるから――」
このゲームの仕様を説明をすると、ギンコは慣れない手つきで操作し始めた。
「わ、わ、わ……す、すごい! わ、私が動かしているんですよね!?」
「そりゃそういう設計だからな」
「見てください! 動いてますよ! これ私が動かしているんですよ!」
「そ、そうだな」
すごい喜びようだな。まるで初めてラジコンを動かした子供みたいにはしゃいでる。
「ええと……ここはこうして、この隙間を埋めて……ああ、長い棒がへんな場所に……」
夢中になってプレイしているな。
やっぱりこのゲームにして正解だったな。シンプルで覚えること少ないからすぐに慣れるだろう。
「あ、あれ? 急に変な表示になりましたよ……?」
「おっ。クリアしたか。一定以上ブロックを消すと攻略完了になるんだよ」
「そうなんですか」
「んじゃ次は難易度上げてやってみな」
「はい」
その後も次々とクリアしていくギンコ。
初めてプレイしたのにすごいな。こんなにあっさりクリアしていくなんて。
「あっ。くりあできました」
「えっ。もう?」
「はい。ほらこの画面になりましたよ」
ほんとだ。クリアしてる。
あれー? こんなに簡単なゲームだったっけ?
残す難易度は1個だけだ。難易度最大で始めるギンコだが……
「あぅ。失敗しちゃった……」
さすがに一発クリアとはならなかったか。
けどここまでほぼストレートクリアのは事実だ。恐ろしい成長速度だ。
「も、もう一回……」
まぁクリア出来るのも時間の問題だろう。
ふむ。せっかく楽しんでいるんだ。しばらくは1人にしてやるか。
「ちょっと俺は散歩してくるよ」
「あ。それなら私も一緒に行きますよ」
「いや、ギンコはそれで遊んでていいよ。俺1人で行くから」
「で、でも……」
「なんとなく1人でブラつきたい気分なんだよ。だからギンコは留守番しててくれないか」
「そういうことでしたら……」
立ち上がってドアへと向かう。
「んじゃ行ってくるよ。腹減ったら荷物に入っているやつ勝手に食べていいから」
「分かりました。いってらっしゃいませ」
ギンコに見送られながら部屋から出ることにした。
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