第63話:やりたい放題
次の日。ギンコは満足したような表情をしていた。よく分からんけど機嫌が直ったみたいなのでなにより。
さて今日はどうしようか。まだ南方面は開通してないみたいだし、結局暇になるんだよな。
そういやランディアはどうしているんだろうか。昨日は色々あって聞きそびれたけど、曲は完成したのかな。
一度こっちから会いに行ってみようかな。たぶん最初に出会った広場に行けば見つかるはずだ。
ふと思ったんだけど、あの人はなんで広場で歌えるんだろう?
この町にはヤクザみたいなエルフがうろついているみたいだし、あんな場所で歌っていたら目立つと思うんだけどな。
今なら誰も観客が居なかった理由が分かる。恐らくエルフに絡まれたくなかったから、町の人達は足を止めなかったんだ。
だったらどうしてあんな場所で歌うのを止めないんだ?
本人だって客が集まらない原因ぐらい察しているはずだ。なぜこんな町で歌う必要があるんだ?
……気になるな。
やはり会いに行こう。改めて昨日のお礼もしたいしな。
「よし。んじゃ俺は散歩いってくるよ」
「えっ? 今日もですか?」
「うん。ちょっと気になることがあってな」
「…………」
ドアに向かおうとしたとき、ギンコに手を掴まれた。
「……なら私も付いていきます」
「えっ? いやいいよ。ギンコはここで留守にしてなよ。あのゲーム楽しいんだろ?」
「私も付いていきます」
「なんでギンコも来るんだ? 別に面白いことなんて――」
「いいですよね?」
「だから普通に散歩するだけで――」
「いいですよね?」
「…………」
「いいですよね?」
なんだろうこの気迫は。何が何でも俺と同行したいという意思を感じる。
断ったところで勝手に後を追いかけてくる気がする。どうしてそこまでして一緒に来たいんだ?
仕方ない……
「わ、分かったよ。ギンコも一緒でいいよ」
「はい! じゃあ行きましょう!」
というわけで、結局ギンコと一緒に散歩することになった。
歩くこと数十分。広場へと到着した。
辺りを見回してみるが、ランディアの姿は見当たらなかった。
「どうかしたんですか?」
「ちょっと探している人がいるんだけど、居ないみたいなんだ」
「ふ~ん……」
もしかして今日は休みなんだろうか。毎日くるわけじゃないのかな。それとも時間が会わないだけなのか。
その場で何分か待ってみたが、一向に姿を現す気配がなかった。
「どうっすかな……」
「ご主人様。お腹が空きませんか?」
「ん? そうだな……」
たしかに腹が減ったかな。あまり食べてなかったしな。
「ん~……じゃあ、どっか食い物屋でも探してみるか。こういうところで出す料理も味わってみたいしな」
「いいですね。さっそく探してみましょうよ」
「だな」
食事でもして時間を潰すか。そんで後でもう一回来てみよう。それでも来ないようなら諦めるしかないな。
その場から離れて店を探すことにした。
町中で店を探していると、ギンコが食事出来そうな建物を発見。その店に入ることに。
店の中に入ると美味しそうなにおいが漂ってきた。なかなか良さそうな場所だ。
どうやらここは肉料理中心の店らしい。ギンコはそのにおいに誘われてこの店を選んだみたいだな。
俺も肉は食いたいし、オススメの肉料理を2人分注文した。
待っている間、他の客達からの話し声が聞こえてきた。
「聞いてくれよ。今日はあのクソッタレエルフが店の商品を蹴り飛ばしたんだぜ?」
「オレは気に入らないって理由だけで殴られたんだぞ」
「殴られるだけまだマシさ。魔法を使われるともっと大怪我するかもしれないからな」
「だな。あのエルフの魔法はやべぇからな」
「うちのとこは看板を壊されたよ。せっかく修理したばかりなのに……」
「誰かあのエルフを追い出してくれるやつは居ないのか?」
「それが出来れば苦労はしないっての」
「だよなぁ……」
「ああ糞っ! もうウンザリだ! 酒でも飲まねぇとやってやれねぇぜ……」
どうやら話題は例のエルフのようだ。
予想通りというか評判は最悪だな。俺も被害者だし、気持ちはよくわかる。
可哀想だとは思うが俺はもうすぐこの町を旅出す予定だし、何も出来そうもない。
エルフは強いし魔法は使えるし、衛兵も手出しできないみたいだし、八方ふさがりだな
この状況を打破できる勇者が現れることを祈るしかないな。
「へい、お待ちどうさん」
「わぁ……!」
おっと。料理が来たみたいだ。
気持ちを切り替えて食事に集中しよう。
……うん。美味しい。この肉いけるぞ。
なんの肉かは知らんが、噛みごたえがあって肉汁が口の中に染み渡る。
「おいひいですおいひいです!」
ギンコも幸せそうだ。この店にして正解だったな。
こういう店で出会えるのも散歩も醍醐味ってもんだ。
さて、残りも食べ尽くして――
「おやおや。騒がしいと思ったら、劣等種共が集まってのん気に酒を飲んでるじゃないか」
げっ。この声は……
やっぱり昨日遭遇したエルフだ。
くそっ。こんな時に来なくてもいいのに。なんて運が悪い。
「ふん。相変わらず汚い場所だ。劣等種にはお似合いだな」
エルフが店内を見回すと、他の客は全員黙ってしまった。絡まれたくないから静かにやり過ごそうとしているんだろう。
「……おや? 獣人もいるのか。道理で獣臭いと思ったぞ」
うわっ。ギンコに目を付けられた。最悪だ……
エルフはギンコに近寄り、見下すように笑った。
「獣人の分際で椅子に座るとは、身の程をわきまえろ」
「ん~! こっちのお肉もおいしいです!」
「…………」
わーお。ギンコのやつすげぇな。エルフに構わず食事を続けてやがる。ある意味大物だ……
それとも食事に集中しすぎて周りが見えてないだけかもな。この子の肉への執着心は本物だもんな。
「……ボクを無視するとはいい度胸だ」
次の瞬間、エルフはギンコの元にあった皿を床へと叩き落とした。
「……! わ、私のお肉がぁ……」
「獣は獣らしく床に這いつくばって食えばいいんだよ! 手を使わず直接食らいつくんだな!」
さらにエルフは床に落ちた肉を踏みつける。
「なっ……」
「ほれどうした? 食べやすくしてやったぞ? ありがたく思うんだな!」
「……ッ!」
こ、この野郎……!
いくらなんでもやりすぎだ。ギンコに何の恨みがあるってんだ。
「おい! 何してんだ! そこまですることはないだろ!」
「ふん。ボクは獣人を教育してやっただけだ。何も悪くないだろう?」
「ざけんな! ただの嫌がらせじゃねーか! ギンコに謝れ!」
「ほう? このボクがやったことが間違っていると? 劣等種の分際でボクに意見するとはいい度胸だ」
こいつぜんぜん非を認めようとしねーな。自分がやったことは全て正しいとでも思ってそうだな。
「昨日も俺を吹き飛ばしやがって。いい加減にしやがれ!」
「は? お前は何を言っているんだ?」
「とぼけんな。昨日も会ったじゃねーか」
「……知らんな。劣等種の顔なんてどれも同じに見えるもんでな。いちいち覚えてられん」
とことんムカつくやつだな。いい性格してやがる。
「とにかく! ギンコに謝りやがれ! せっかくの料理を台無しにしやがって」
「やれやれ。たかが食べ物ごときでうるさいやつだ。これだから劣等種は……」
「おい。いい加減に――」
「だったらこれでいいだろ?」
そういって懐に手を入れた後、ギンコに向かって何かを投げつけた。
「いたっ……」
こ、こいつ……硬貨をギンコに投げつけやがった……!
ギンコに当たった硬貨は落下し、床へと散乱した。
「ほれ。これで新しいやつを注文すればよかろう」
「……ッ!」
「どうした? さっさと拾えよ。これで文句はあるまい?」
この野郎……本当に性根が腐ってやがる……!
「ふんっ。なかなか楽しめたし、このへんでカンベンしてやろう。そろそろボクは帰るとするかな。こう見えて忙しい身なんでね」
「……嘘付け。町の人をいたぶって遊んでるくせに」
「何か言ったか?」
「さぁな」
「ではさらばだ。劣等種共よ」
そういって笑いながら去っていった。
「やっと消えたか。ほんとムカつく野郎だったな。おっと、それよりギンコは大丈夫か?」
「は、はい……。でも食べ損ねたお肉が……」
無残にも踏みつけられた肉を悲しそうに見つめるギンコ。
そんなギンコの元に、店の人が近寄ってきた。
「お嬢ちゃん。もしよかったら、また新しいやつ作ってきてやろうか?」
「えっ……? い、いいんですか?」
「ああ。構わんよ。さすがにあんな光景見せられてはな……。安心してくれ。お代はいらんから」
「あ、ありがとうございます!」
「よかったな。ギンコ」
「はい!」
ギンコは散々な目にあったしな。同情してしまったんだろう。
「つーかあのエルフは変なところで律儀だな。本当に代金を置いていくなんてさ」
「奴が嬢ちゃんに投げたカネのことか?」
「ええ、まぁ……」
「あれはどうせ他人から巻き上げたカネだろうよ。だから奴自身は一銭も払ったつもりはないだろうさ」
「なるほど……」
奪ったカネをばら撒いただけか。自分の懐は痛めずに嫌がらせをするとか、マジでやりたい放題だな。
とりあえずさっさと食事を終わらせて帰ろう。
その後、新しく作ってくれた料理を美味しそうに食べるギンコだったが、いつもよりテンションが低いままだった。
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