第86話:試練の内容
…………
…………
あれ?
ここはどこだ?
やたらフカフカで触り心地がいいベッドだな。
こんなところで寝てたっけ?
『起きたようじゃの』
「うおっ!」
『疲れていたようじゃの。グッスリ眠っていたぞ』
「あ……」
あー思い出した。
モフモフしてたらつい寝ちゃったんだ。
あまりにも心地よかったからな。
「ご、ごめんなさい。まさか寝てしまうとは思わなくて……」
『構わぬ。それだけ気持ちよかったということだろう?』
「ま、まぁそうなるかな……」
『ならよい。皆がそう感じたのなら悪い気がせんからの』
「皆?」
『ほれ。そこに居るじゃろ』
ああそういうことか。
もう朝だってのに、ヴィオレットもギンコも気持ちよさそうに寝てやがる。
このモフモフベッドに逆らえなかったか。
「まだ起きそうにないな……」
『それだけ疲れていたということかのう』
「そうかも」
『今日は急ぎの用でもあるのか?』
「急いでるわけじゃないけど……」
『ならゆっくりしていくがよい。しばらくはこのままでも構わぬぞ』
そういうことなら二人が起きるまで待つとするか。
しかしそうなると暇だな。
朝食の準備でもしたほうがいいかな。
……いや。いい機会だ。
九尾に色々聞いてみるか?
もしかしたらギンコのことも知っているかもしれないしな。
「あの。ちょっと聞いていいですか?」
『ふむ? なんじゃ?』
「ギンコ――そこに寝ている子もフォルグ族なんですけど、何で捨てられたのか原因が知りたいんです。何か知っていませんか?」
『ほう。捨てられたとな』
「本人はそう言っているんですけど……」
これだけはどうしても知りたかった。ギンコも知りたがってたしな。
ギンコみたいな子が捨てられるなんて、余程のことがないと出来ないはずなんだ。
『……ふむ、何か勘違いをしているのう』
「勘違い?」
『あやつらがそんなことするとは思えん』
「だったらどうして……」
『ギンコと言ったか。その子は恐らく、試練に失敗したんじゃろうな』
「試練……」
そういや里に居た大男もそんなこと言ってたっけ。
「試練って一体? ギンコは何も知らなかったんですけど……」
『それは当然じゃ。ある一定の年齢になるまで教えることはないからのう』
「は……? つ、つまり、ずっと秘密にされてたってこと……?」
『そういうことじゃ』
なんだよそりゃ……
いきなり試練とやらに参加させられたってことか?
「な、なんでわざわざ秘密に? というか試練って何をされるんです?」
『さぁの。恐らくじゃが、予め試練に関する知識を付けられるのを避けたかったんじゃろう。簡単に乗り越えられたら意味が無いと考えたのではないか』
「ど、どうしてそんなことを……。そんな簡単にクリアされたら困るようなこと?」
『困るのじゃろうな。フォルグ族にとっては』
つまり、試練とやらは事前に知らされることもなく突然やらされ、初見でクリアしろってことか。
なんだよそのクソゲー。
「ち、ちなみに、その試練がクリア出来なかったらどうなるんです?」
『恐らくは……いや、ほぼ確実に命を落とす。それぐらい危険なことじゃ』
「なっ……」
おいおいおい。
そんな危ないことされたのかよ。
「試練の内容は……? どういうことされるの……?」
『最初に遠く離れた場所まで連れていかれる。後は里まで戻ることじゃ』
「……え? ほ、他には?」
『それだけじゃ』
自分の家に帰るだけ?
やけに簡単そうだな。
とても命を落とすような内容には思えない。
隠すようなことか?
……あっ。
まさか……
『気づいたか』
「ま、まさか……」
『そうじゃ。道中には魔物共が多く生息している。それらを対処しながら戻らねばならん』
「で、でも。戻るだけならなんとかなるんじゃ……」
『普通に移動するだけでも5日はかかる距離まで離されるらしいのう。魔物を対処しながらだと倍近くはかかると思うんじゃが』
「ぶ、武器とかは?」
『自分で作るしかあるまい』
「…………」
なるほど。そういうことか。
試練ってのは、約5日のサバイバル生活をしろという内容だったのか。しかも持ち込み無しで。
そんなのをいきなりやらされるのか。無茶苦茶すぎる。
〝獅子は我が子を千尋の谷につき落とす〟なんていうが、それを本当に実践してるのか。
どんだけ脳筋な連中だよ。
「そこまでしてやることなのか? いくらなんでも危険すぎるだろ……。ギンコはまだ子供なんだぞ……!」
『それがあやつらの決めた掟じゃ』
「掟、掟って……そんなに掟が大事なのか!?」
『強くなるにはそれくらい乗り越えねばならん。弱い種は蹴落とされる。ならば子供の頃からそれを見分けようと考えたんじゃろうな』
弱肉強食ってわけか。
いくらなんでも暴論すぎる。
「どうして……そんなことを……」
『…………今からずっと昔の話じゃ。この森にとある獣人達がやってきたのじゃ』
「やってきた?」
『そやつらは皆ケガをしておった。聞いたところ、大きな戦に巻き込まれたらしい』
九尾は遠い目をしながら続ける。
『戦から逃げるように移動し続け、ここまでやってきたとのことじゃった。ずっと逃げ続け、ケガを負いながらもこの森までやってきた。なるべく追手が来ぬようにと、森の奥深くまでやってきた』
「…………」
『そこで偶然、妾のことを見つけたらしい。それがフォルグ族との初めての出会いじゃ』
「え。……ってことは、フォルグ族ってずっとこの森に住んでたわけじゃないの?」
『そうじゃ。妾はずっとここに住んでいたのじゃ。向こうが後からやってきたわけじゃ』
「ちなみにどらぐらい前の出来事?」
『正確には覚えてないが、200年ぐらい前かのう』
わお。
思ったより昔の出来事だった。
ってことは、九尾はそれ以上長生きしてるってことか……
さすが神獣といわれるだけある。
『それから色々あったが、あやつらは力が欲しいと言ってきたのじゃ』
「力? なぜそんなことを?」
『もう二度とこんな思いはしたくない。そういっておった』
ああそうか。
戦に巻き込まれて逃げてきたもんな。
だからもう負けないようにと、生き残れるだけの強さを求めたんだろう。
『それで妾は一族に力を与えることにしたのじゃ。けどその代だけだとまた同じことを繰り返してしまう。じゃからずっと続くようにと、子孫にも同じ恩恵が受けれるようにしたのじゃ』
「力って、そんな簡単に得られるようなもんなんです?」
『なぁに。簡単じゃ。あやつらに
「……!?」
なんだと……
今すごいこと言わなかったか?
加護って、まさか精霊と同じ……?
「ま、待って。加護ってのは精霊から与えられるというアレ?」
『それで合っているはずじゃ』
「マ、マジで!? そんなこと出来るんです!?」
『妾を誰だと思っている。これでも神獣と呼ばれた身じゃぞ。まぁ精霊とは少し違う系統になるがの』
すげえな。
何でも願いを叶えられるってのは嘘じゃなかったんだな。
「ちなみにどんな加護を?」
『簡単に言えば〝身体強化〟ってことになるかの』
「身体強化……? 体が丈夫になるとか?」
『似たようなものじゃ。この加護がある限り、通常よりも体が強化されるのじゃ』
へぇ~。そういうことか。
つまりフォルグ族ってのは、常に加護の力で身体強化されているってわけか。
最強の獣人っていわれるのはこれのお陰なんだな。
まさかこんな時に強さの秘密を知ってしまうとは。予想外だった。
………………あれ?
まてよ?
ということは……
「ってことは、ギンコにも加護がついてるってこと……?」
『そうなるのぅ』
なるほどなぁ。これでやっと謎が解けた。
前にマナがギンコが加護を付与しようとした時に、なぜか出来なかったんだよな。
あの時は原因が分からなかったが、これでようやく判明した。
加護ってのは一人につき一種類しか付与することが出来ない。これはエルフのランディアが言っていたことだ。
あの時、マナは無理だと言っていた原因はこれに違いない。
つまり、既にギンコには加護が存在していたからこそ、マナはギンコに加護を付与出来なかったんだ。
マナ自身が原因が分からないと言っていたのもこのせいだろう。
そりゃそうだ。加護を与えたのは精霊ではなく神獣なんだから。
分からなくて当然だろう。
なるほどなるほど。
ここにきて気になってた謎が一気に判明してきたな。
「でもそれなら……ギンコはなんで試練に失敗したんだろう?」
本当に身体強化の加護がついているなら、ある程度なら何とかなる気がする。
なのになぜギンコは失敗したんだ?
『多分じゃが、元々あまり体が強くなかったんじゃないか?』
「どういうこと?」
『加護といっても万能ではない。あれは単純に身体を強くするための加護じゃ。元が弱ければ対して強くならん。でないと赤子の時に面倒になるからのう』
「ということは……鍛えれば鍛えるほどさらに加護の影響を受けるってこと?」
『そういうことじゃ』
なるほどな。
身体強化ってのは乗算的に強くなるだけなのか。
1を10倍しても10にしかならないが、10を10倍すれば100になるもんな。
プロテインを飲んだだけじゃ筋肉はつかないようなもんか。
「でもギンコもよく生きていられたよな。どうやって試練を生き延びたんだろう」
『そこまでは知らぬ。運がよかっただけではないか?』
「運……かぁ……」
深く追求しても仕方ないか。
いずれにせよ、生き残れたんだ。
さてどうしようか。
フォグル族のことを色々と知ることが出来た。
ギンコのことも知ることも出来た。
でもこれで終わりなのか?
もっとしてやれることはないのか?
後は帰るしかないのか?
………………
……ここは一つ賭けてみるか。
うまくいけば……いけるかもしれない――
「九尾さん。お願いがあります」
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