第33話:ケモ耳や尻尾をモフモフしたい
さてと。飯も食った事だし、もう少ししたら寝るかな。
暇つぶしに本でも読もうかと思った時、ふと床に座っているギンコに目がいった。
初めて会った時と違って、今は少し表情が和らいでいる。よほどハンバーガーが美味しかったらしいな。
しかしなんというか――気になる。
いやでもなぁ……もしかしたら頼んだら……いけるかな……?
うーん……しかしなぁ……
…………
駄目だ。一度気になったら頭の中が
ああもう……我慢できん!
やっぱり頼んでみよう。もし断られたら諦めればいい。
よし。
「な、なぁ。ギンコ。ちょっといいか?」
「はい? なんでしょう?」
「そのさ……なんというかさ……」
「???」
うう……やはり頼み辛い……
ええい。勇気を出して言うんだ!
「み、耳や尻尾とか……触らせてくれないかな?」
「……はい?」
実は獣人を初めて見た時から気になってたんだよな。
あのケモ耳や尻尾はどんな感触なんだろう。一度でいいから触ってみたいと思ってらからな。ならばこの機会に是非体験してみたい。
「だ、駄目かな……?」
「えっと……そのくらいなら、構いませんけど……」
「マ、マジで!?」
「え、ええ……」
や、やった!
まさか許可してくれるとは思わなかった。
い、いや……落ち着け。慌てるな。せっかく触らせてもらうことになったんだ。じっくりと堪能しようじゃないか。
「じゃ、じゃあ触るよ」
「は、はい……どうぞ」
ギンコに近づき、両手でゆっくりとケモ耳を掴んだ。
もふもふ……
…………
お、お、お、おおおおおおおおおおおおおお!
すげぇ。思ったより柔らかいんだな。それにモフモフしてて触り心地がいい。
ああ……こうして触ってると、昔飼ってた犬や猫を思い出すなぁ。でもペット禁止のマンションに引っ越してから触る機会が無くなったんだよな。まさかこうしてモフモフできる機会が訪れるとは思わなかった。
なんかもう、こういうことが出来るだけでギンコを買った甲斐があったと思えてくるな。
あの時の判断は間違ってなかった。少し……いや、かなり高かったけど買ってよかった。この世界に来て一番の収穫かもしれない。
それにしても……柔らかいなぁ……
「んっ……その……んっ……あまり、強く触られると……はぅ……」
「あ、ああ。ごめんごめん」
おっと、イカンイカン。つい夢中になってしまった。
よ、よし。次は尻尾だ。
ギンコの後ろに移動して座り、尻尾を優しく掴んでみた。
「ひゃん!」
「あ……い、痛かった?」
「い、いえ……ちょっとビックリしただけです」
「そ、そうなの?」
「構わず続けて大丈夫です……」
俺もビックリした。
とりあえず大丈夫みたいだし、このまま触らせてもらおう。
もふもふ……
…………
おおおおおおお。
尻尾はもっと毛深いからさらにモフモフとした感触だ。これは癖になるな。
ああ……本当にいい手触りだなぁ……
いつまでもこうしていられる。
もうずっと触っていたい……
至福の一時だ……
…………
って違う違う。なにやってるんだ俺は。
やばいやばい。危うく我を忘れるところだった。
「ご、ごめん。つい夢中になっちゃって……」
「い、いえ……」
これ以上は危ないので、手を離してからベッドに移動して座った。
ギンコを見ると少しうつむいてるし、顔も赤くなってる気がする。さすがにやりすぎたな。
でも……気持ちよかったなぁ……
あの感覚は飽きそうに無い。また今度も触らせてもらおう。ちょっとぐらいなら平気なはずだ。うん。
っと。いつの間にか外は暗くなってるな。今日は疲れたし、少し早いけどもう寝るかな。
「んじゃ俺はそろそろ寝るよ」
「分かりました。私もお休みいたします」
「あいよ。お休みー」
ベッドの中に入って横になり、布団をかけて目を瞑った。
今日はいい夢が見れそうだ。
…………
……あれ?
そういやギンコはどこで寝るんだろう。この部屋にはベッドが1つしかないし、他に寝れる場所がないじゃないか。
「ご、ごめん! ギンコの寝る場所を考えてなかった!」
「はい!?」
ベッドから飛び起きて隣を見ると、ギンコは床で横になっていた。
「どうしよう。他に寝れる場所も無いし……」
「あの、私はこのままでも大丈夫ですよ?」
「さ、さすがにそれは……」
いくらなんでもこんな子供を床で寝かせるわけにはいかない。しかも下になにも敷いてないし、上にかける物も何も無い。さすがにこんな状態ではまずい。
「じゃあ……いっそのこと、このベッド使う?」
「い、いえ……そこまでしてもらうわけには……」
「でも、さすがに床だと寝づらいんじゃない?」
「私はどこでも寝れますので大丈夫です。どうぞお気遣いなく……」
とはいってもなぁ。さすがにこればかりはなんとかしたい。けど本人に何度言っても同じ反応になる気がする。さてどうしたもんか。
よし、こんな時こそカタログの出番だ。
ベッドから降りてからカタログを出し、目的の品を探していく。
お、あった。
「ギンコ。ちょっと壁まで寄ってくれない?」
「? どうかしましたか?」
「今から床に敷く物を出すからさ。その為にスペースを確保したいんだ」
「は、はい……」
立ち上がったギンコが壁際まで移動したのを確認し、カタログから商品を選んだ。
すると大きい敷き布団が出現し、床に落ちた。
「おっとっと」
「わっ……」
続いて掛け布団と枕も出現して受け取った。
今購入したのは布団一式だ。これなら床に敷けばぐっすり寝れるはずだ。
「どう? こういう布団があれば暖かいし、よく寝れると思うんだけど」
「…………」
「とりあえずそっち側持って引っ張ってくれない? 広げて寝れるようにしたいからさ」
「…………」
「ギンコ?」
あれ。どうしたんだろう。反応が無い。
なぜか今出した布団を見つめながら固まっている。
「おーい?」
「……あ、いえ。すいません。ビックリしちゃって……」
「そ、そう?」
やっぱり何も無いところからいきなり物が出てくるのは異様な光景なんだろな。
「ご主人様ってすごいんですね。こんな大きな物まで作り出せちゃうなんて……」
「ま、まぁね……」
ここまで大きい物を購入したのは初めてだけどちゃんと手に入ったし、もしかしたら買える物の大きさに上限は無いのかもしれない。
「とりあえずこの布団広げたいから手伝ってくれないかな」
「わ、分かりました」
一緒に作業をして布団を敷き、ギンコ用の寝る場所を確保することができた。これで床に直接寝るという事態は避けられた。
「とりあえずギンコはこの布団で寝るといいよ。これなら安心でしょ」
「ほ、本当に私なんかが使っていいんですか? 結構高そうな布団ですけど……」
「確かにちと高かったかな」
「……えっ?」
「ああいや。何でもない」
布団一式で3万円したからな。けど相応の価値はあるはずだ。
この部屋に用意されてたベッドよりも高性能になってる気がするけど……そこは深く考えないようにしよう。
「んじゃ俺はもう寝るよ」
「は、はい。私の為にここまでしてくれてありがとうございました」
「いやいや。気にしなくてもいいさ」
さてと。眠くなってきたし俺も寝るか。
ベッドに入り横になって目を閉じる事にした。
その後、しばらくしてからギンコの呟きが聞こえてきた。
「わぁ……すごい……ふかふか……」
どうやら満足してるらしい。
そりゃ3万もした布団だしな。寝心地はかなりいいみたいだ。
これで俺も心置きなく寝れる。お休みなさい。
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