第38話:様々な果物
次の日。
軽く朝食を取った後に準備をしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「どうぞー」
「入りますねー」
ドアを開けて入ってきたのはリーズだった。
「どうしたの? 何か用?」
「ええとですね、お客さんは――って、この大きな布団はなんですか!?」
「あー……」
ギンコ用に買った布団を見て驚いている。そういやまだ言ってなかったっけ。
「もしかして、ギンコちゃんの物なんですか?」
「いえ。私のではなくて、ご主人様から頂いた布団なんですけど」
「お客さんの?」
「うん。俺が買ってきた物なんだけど、マズかった?」
正確にはカタログから買った物なんだけど……さすがに言うわけにはいかない。
「う~ん……なんと言いますか……」
複雑な表情で眺めている。
こういうのは宿屋としては駄目なんだろうか。
「さすがに布団を持ち込んで泊まりに来る人なんて、初めてな経験なものでして……」
「前例が無いと?」
「たぶん、どこの宿屋でも前例が無いと思いますが……」
やっぱりこういうことする人は居ないのか。まぁそりゃそうか。わざわざ宿屋に大きな布団を持ってくるなんて、余程の変わり者じゃないと考えつかないだろうしな。
「でも大丈夫だと思いますよ。お上さんにはギンコちゃんの存在は伝えてあるんですよね?」
「うん。一緒に連れてきた時に許可は取ってある」
「なら問題ないですよ。秘密裏に泊まらせてるなら兎も角、ちゃんと伝えてあるなら心配は要りません。ギンコちゃん用に布団を用意したってことにすれば納得するはずです」
「おお、よかった」
「まぁ
「ははは……」
それは仕方ないか。変な客だと思われるんだろうなぁ。
「そういや俺に用があるの? さっき何か言いかけてたけど」
「あ、忘れてました。あのですね、お客さんは何日か宿泊されてるじゃないですか。もしかしてまだ滞在する予定なんですか?」
「そうだなぁ。もうしばらくはここで寝泊りするつもりかな」
「ならば先に、数日分の料金を一括で頂こうと思って来たんですよ。毎日支払いに行くのも面倒じゃないですか?」
「確かに……」
毎回料金を払いにいくのも手間が掛かるし。ならば今ここで先払いしてしまうのも有りか。
「んじゃ、10日分渡しておくよ」
「はいはーい。えーと、2人分で10日だから……ん~と……」
「銀貨6枚だな。はいこれ」
「……ですね。確かに頂戴しました。では私はこれで戻りますね」
言い終わると同時に部屋から出ていった。
準備を再開しようとした時、ギンコが近寄ってきた。
「ご主人様。10日分も払ってよかったんですか? それに私の分まで……」
「いいってことよ。どうせしばらくは拠点が必要だったしな。今はまだ利益が出てるし、心配要らないよ」
「そ、そうですか……」
「とりあえずさっさと準備終わらせて、早く稼ぎにいこうぜ」
「はい。分かりました」
準備を済ませた後、外に出ることにした。
商業ギルドで手続きも終わり、後は空いているスペースを出すだけだ。
しかし、こうして見ると本当に露店が多いな。俺の持っている販売許可証には、『56』という数字が刻まれている。昨日よりも多い。
ふむ。ついでに色々見て周ってみるか。もしかしたら何か参考になるかもしれないからな。
空きスペースを探しつつ歩いていると、果物みたいなものを売っている店を発見した。しかし見たことの無い種類だったので何となく足が止まってしまう。
あれはなんだろう。外見は青リンゴに似て無くは無いけど……聞いてみるか。
「ちょっと聞きたいんだけど……」
「ん? どうした?」
店に近づくと、優しそうなおっさんが反応してきた。
「その果物って、そのまま食べれるの?」
「おうよ。これは〝ノアペア〟っていってな、生で食べてもなかなかイケるんだぜ。あとは料理に使う人もいるな」
「へぇ~」
「どうだいお客さん。1つ買っていかないか?」
なるほどな。やはり果物で間違いないわけか。
どんな味なのか興味出てきたし、試しに買ってみるか。
「なら2つ買うよ」
「まいど! 2つで小銅貨2枚だぜ」
1つ小銅貨1枚か。けっこう安いんだな。
金を払い、2つ受け取ってから再び歩き始めた。
その後もいくつか店を眺めつつ歩き続け、空きスペースに到着するまでに2種類の果物を買った。
店の準備を終えて客を待っている間に、買った果物を食べることにした。
「まずはこれだな。確かノアペアとか言ってたっけ。ギンコも一緒に食べないか?」
「あ、頂きますね」
手に持った果物を軽く拭き、ひとかじりしてみる。
…………
……うん。悪くない。
これはあれだ。リンゴというより梨に近いな。シャキシャキしてて意外と美味い。
けど色々物足りない気がする。梨にしては水分が少ないし、甘みも足りてない。いわば水分が抜けた梨みたいな感じか。
んじゃ別やつを食べてみるか。
次に選んだのはイチゴみたいな果物だ。これも美味しそうだったのでつい買ってしまった。値段は2つで小銅貨1枚だった。
さっそく一口食べてみる。
…………
……うっ。なんだこれは。酸っぱいぞ!
これは実が熟して無いとかじゃなくて、初めからこういう味の果物な気がする。まるでレモン味のイチゴを食べてる気分だ。
あれだな。こういうのは料理の味付けで使うものに違いない。そのままだと酸っぱすぎて、とてもじゃないけど食べ切れん。
よ、よし。気を取り直して次のやつにしよう。
今度はブドウみたいな見た目をしているやつだ。サイズが大きく、巨峰っぽい感じだ。これなら甘いはずだ。
皮を剥いた後、口の中に放り込んだ。
…………
……ぐわっ! か、辛い!
なんじゃこりゃ! どうなってんだ!?
駄目だ。これはさすがに単体では食べられない。これも料理のスパイスとして使うやつに違いない。
ああもう! どうなってるんだ!
水分の無い梨に、レモン味のイチゴ、唐辛子味のブドウ……どれも変な果物ばっかりだ。
ほんと常識が通じない世界だな。もう見た目で判断するのは止めよう。
あっ、しまった。ギンコも同じ物を食べてるんだった。
「お、おい。それは辛いから食べないほうが――」
「~~ッ!! か、から~い!」
遅かったか……
「ちょっと待ってろ」
リュックサックから水筒を取り出し、ギンコに渡した。
「ほら水だ。ゆっくり飲め」
受け取ったギンコは急いで飲み始めた。
「ふぅ~……助かりました……」
「あー、言うの遅くてすまなかったな。まさかこんなに辛いとは知らなかったんだ」
「い、いえ……知らなかった私も悪いですし……」
知らなかったとはいえ、悪い事しちゃったなぁ。
よし、口直しに何か食おう。
カタログからとある果物を購入し、食べやすく切ってからギンコに渡した。
「これ食ってみろ。さっきのやつと違って甘いぞ」
「は、はい」
渡したのは
受け取ったギンコはすぐに一口かじった。
すると――
「――!! お、美味しい……」
「だろ?」
「水水しくてシャキシャキしてるし、とっても甘いですぅ~」
実に幸せそうな顔だ。気に入ったようでなにより。
おっと、客も来たみたいだし。今日も稼ぐ事にするかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます