異世界に行ったけど、地球の物が手に入るのでスローライフを目指す!
功刀
プロローグ
第1話:ネコをかばって転生
「――ここは……どこだ……?」
目が覚めてから見た光景は、真っ白だった。
周囲を見渡しても白い空間がずっと先まで続いていた。
「なんで俺こんな場所に?」
全く見覚えが無い場所だ。というかここが何処なのかすら見当が付かない。
……いや、これはもしかして夢か?
夢だとしたらこんなヘンテコな場所に居るのもうなずける。
でも夢ならもっと楽しい夢が見たかった。こんな殺風景な場所に居ても退屈なだけだ。
そんなことを考えている時だった。
後ろから女性の声が聞こえたのだ。
「お待たせしましたー! いやーすいませんねー。人手不足なもんで大忙しですよー」
声がした方向に振り向くと、そこにはスーツ姿の綺麗な女性がいた。髪は後ろで束ねていて、OLみたいな格好をしている。
「えーっと……君は……?」
「おっと、申し遅れました。私は転生課担当のミカエルといいます!」
「は、はぁ……」
なんだこの人は?
というか何処から出てきた?
「貴方は『
「そ、そうだけど……」
「そしてネコをかばって自動車に
「――え?」
俺が?
死んだ?
…………
……そうだ。思い出した。
俺は
某会社に入社できたのはいいが、待っていたのは超絶ブラック勤務だった。
毎朝6時に起き出社。家に帰る頃には日付が変わりそうな時間帯。休日出勤も当たり前。労働基準法にケンカ売るような会社だった。
そんな状態でもなんとかやっていけたのは、とあるネコのお陰だ。
会社の近くにはいつも野良ネコが居て、非常に人懐っこいので毎日のように構っている。名前は虎次郎。毛並みが虎に似ていることからそう名づけた。
見てても可愛いし触るとモフモフで、心のオアシスといってもいい。虎次郎がいたからこそいつも頑張れたんだ。
しかしある日、いつものように癒しを求めて虎次郎に会いに行く途中の出来事だった。
俺の姿を見てトコトコと近づいてくる虎次郎。
だがそんな時、虎次郎に向かって大型のトラックが走ってくるのが目に入った。
それを見た瞬間、地面を強く蹴り虎次郎の元へ急いだ。
そして虎次郎に飛び掛ると同時に抱きかかえ――
――その後の記憶が無い。
「つまり……あの時に俺はトラックに撥ねられて死んだと……?」
「その通りです! 思い出しましたか?」
「ああ……」
そうか。俺は死んだのか……
「じゃあここは……死後の世界?」
「んー少し違いますね。ここは現世と天界の狭間みたいな所なんですよ」
「よく分からんけど、少なくとも地球上ではないってことか」
「まぁその認識でいいと思います」
どっちにしろ、俺は死んだってことには変わりない。
まさかあんな最後になろうとはな。あっけない人生だったな……
「ちなみにさ、あのあと虎次郎はどうなった?」
「虎次郎?」
「ネコの名前だよ。俺が名づけたんだ」
「……ネーミングセンス悪くないですか?」
ほっとけ。
「それは兎も角、ネコは無事ですよ。ちゃんと生きてます。奇跡的にほぼ無傷です」
「そうか……」
よかった。それだけが気がかりだったんだよな。
これで悔いは――
「いやー馬鹿な人ですねー。まさかネコをかばって死んじゃうなんて……あっはっは!」
このアマ……いくらなんでも笑うことはないだろう!
「まーまーそう睨まないでくださいよ」
「どの口がいう……」
「だって笑うしかないでしょう。だって想定外なんですから」
想定外?
何いってんだこいつ?
「本来ならば貴方はもっと長生きするはずだったんですよ」
「へ? マジで?」
「でもまさかネコをかばって死んじゃうなんて、思いもしませんでしたよー」
「ちょっとまって、というか何で俺がいつ死ぬか分かるんだ?」
「それはですね――」
そう言うとミカエルはえっへんと胸をはった。
「私が女神だからですよ!!」
「め、女神……?」
「……まだ見習いですけどね」
よく分からん……
「私達女神は、地球上にいる人間達の生と死を管理しているんですよ」
「か、管理……?」
「ですからどの人がいつ亡くなるのか、そういったことは全て記録されているんです」
「へ、へぇ……」
「でも中には貴方みたいな人がいるんですよね~。こっちとしては大迷惑ですよ」
ヤレヤレと肩をすくめる自称女神。
さっきからやたら失礼なやつだな……
「どういうことだ?」
「だってまさかネコのために死ぬなんて想定外じゃないですか」
「悪かったな……」
「こんなタイミングでこっち来られても困るんですよね」
「別に来たくて来たんじゃないっての」
「だから貴方には、別の世界に転生してもらいます」
「別の世界? 転生?」
さっきから理解が追い付かない。
別世界ってなんだ? 転生??
「要するに異世界ってやつですよ」
「い、異世界……?」
「さーらーにー! 今回は特別にお得な能力まで付けちゃいます!」
そんなテレフォンショッピングみたいな言い方しなくても……
「能力って?」
「普通の人には無い不思議な力ってやつですよ。魔法みたいなもんです」
「は、はぁ……」
「さぁどんな能力が欲しいですかー?」
「いきなりそんなこと言われても……」
「じゃあ異世界でどんな生活をしたいですかー?」
異世界で生活ねぇ……
う~ん。イメージしずらいなぁ。
「……とりあえず、のんびり暮らしたいかな」
「おやおや。随分と後ろ向きですねぇ」
「生きてた頃は毎日が仕事だったからな。家に帰ってもする事もなく、必死に生きてたしな……」
「ほうほう」
「だから仕事しなくてもいい、そんな能力が欲しいな」
「つまりニートになりたいわけですね!?」
「言い方悪いけど、そういうことになるな」
「わっかりましたぁ!」
そう言ってからゴソゴソとポケットを漁り始め、何かを取り出して見せ付けてきた。
「ではこちらの能力がピッタリかと」
ミカエルの手の平には、大きな本があった。というか今どうやって取り出した!?
「本……?」
「この本は凄いんですよ! 違う場所からどんな物でも引っ張りだせるんですから! ちょっとした制約付きですけど」
「ほうほう。それでどうしろと?」
「つまりですね、異世界に行っても地球にある物をいつでも引き出せるんですよ」
へー。それは便利だな。
「この本の凄いところはそれ以外にも――あっ!」
言い終わる前にいきなり慌て始めた。
「いけない! そろそろ時間だわ!」
「は?」
「ごめんなさい! 細かい使い方は自分で試して覚えてください!」
「お、おい!」
「あとおまけで身体能力も少し強化しておきますね!」
「だから待てって――」
「異世界でも元気出して頑張ってくださいね!」
雑だなおい!
「それではまた! 神のご加護があらんことを」
「ちょ――」
手を伸ばそうとした瞬間、暗転して意識が遠くなっていった。
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