第40話:卵かけご飯
今日も無事に塩を売りさばき、宿でのんびりしている時だった。
「米が食いたい……」
「ご主人様? どうかしましたか?」
「なんでもない……」
「……?」
思えばこの世界にきてからは、米はほとんど口にしてなかったんだよな。そんな状態だからか、白米がすごく食いたくなってきた。
こうなったキッカケは今日の見てきた店にある。
帰り道に店を眺めつつ歩いていると、米を売っている店を偶然発見したんだよな。
最初はビックリしたけど、よく考えればパンがあるんだから米があっても不思議じゃないんだよな。
それを見たからか、米に対する欲求が一気に膨れあがってしまった。けど炊きたてのご飯が欲しいと思っても、現状だと料理できる環境じゃないんだよな。
リーズに部屋で料理してもいいか聞いたみたが、やっぱりというか駄目みたいだ。部屋に匂いが移ってしまう可能性があるから、止めてほしいとのこと。さすがに迷惑をかけるわけにはいかず、部屋で料理するのは断念することになった。
そういう理由だから、部屋ではサンドイッチやハンバーガーみたいな、すぐに食べれるものしか食べていない。
やはり日本人としては白米が食いたい。おにぎりとかをカタログから購入すれば米自体は食べる事はできる。だけど俺が求めてるのはそうじゃないんだ。炊きたてのアツアツでホカホカの白米が食べたいんだ。
けどこの宿の食堂では、米を使った料理は出していないそうだ。
それどころか、米を扱う料理屋すらあまりないらしい。仮にあったとしても、俺が望む白米は出てこないだろうな。
つまりは自炊しかないわけだ。
そんなこんなで悩みつつ今に至る。
「あの……さっきから悩んでいるみたいですけど、何かありましたか?」
「う~ん……」
「???」
何かいい手はないものか。炊きたてのご飯を食べる手段が欲しい。
くそぅ。こういう時は自分の家が欲しくなる。宿だと出来ることが限られてしまうからな。
さてどうしようか……
うーむ。いい方法は無いもんか……
…………
そうだ。部屋で料理できないのなら、外でやればいいんじゃん。これなら誰にも文句は言われない。
決まりだ。ならさっそく出かけよう。
「ギンコ。今日は街の外でメシを食うことにするぞ」
「わざわざ外に行くんですか? なぜそんな手間が掛かるようなことをするんです……?」
「和食……というか、故郷の料理が食いたくなってな。でも街中だと自炊すらできないし、ならいっそのこと外で料理しようと思ってな」
「そういうことでしたか。ご主人様も料理できるんですね」
「まぁ簡単なやつしかできないけどな」
すぐに準備を整え、宿から出ることにした。
王都の外に出てから数十分後。良さそうな場所を見つけたので、そこで食事をすることにした。
この辺りなら魔物は出ないとのことなので、安心して腰をおろすことができる。
「ここでメシにしよう」
「分かりました。それにしても……大きな木ですねぇ……」
周囲には木々があるが、その中でも特に大きく、樹齢何百年もありそうな巨大な木の側に居る。ここなら木が日陰になって快適だろうと思って決めた。
さっそくテーブルや椅子などのキャンプ道具をカタログから手に入れ、設置していく。
そしてご飯を炊くためにカセットコンロを置き、その上に釜を置いた。中に米と水を入れて数十分待った後、火をつけて炊き始めた。
後は待つだけだ。
「そろそろいいかな」
無事に炊けたようなので、釜を別の場所に置いて蒸らす。
その間におかずを作る事にしよう。
カタログから良さそうなおかずを選び、次々と購入していく。
ふーむ、そうだなぁ。腹も減ったし、ここは手っ取り早く簡単なやつにするか。
カタログから豚肉とタマネギ、調味料をいくつか手に入れた。すると、豚肉を見たギンコが目を輝かせて覗き込んできた。
「も、もしかして……それってお肉ですか!?」
「ん? これは豚肉だよ。食べこと無い?」
「た、たぶん初めてだと思います」
「あ、そうなんだ。今からこれを簡単に料理するからちょっと待っててね」
「はい! 待ちます! いくらでも待ちます! どうぞ気がすむまで続けてください!」
「お、おう……」
やたらテンションが高いなぁ。もしかして肉類が好きなんだろうか。
とりあえずさっさと作っちゃおう。
切ったタマネギをフライパンで炒めた後、豚肉を投入していく。ある程度火が通ったら調味料を入れ、あとはしばらく馴染むように炒めれば生姜焼きの完成だ。
「できたぞー」
「わぁ! とっても美味しそうですね!」
「だろ?」
おかずを次々とテーブルに上に並べていく。
本日のメニューはこちら。
・ご飯
・梅干
・
・味噌汁
・生姜焼き
全部俺の好きなやつだ。
「どれも見たことが無い食材ですね」
「きっとギンコの口にも合うと思うぞ」
「はい。全部美味しそうで楽しみです」
「んじゃ。いただきまーす」
「私も頂きますね」
まずは冷奴からいこうか。
醤油をかけ、一口サイズに切ってから口に入れる。
……うん。美味しい。シンプルで期待を裏切らない味だ。
「この白くて柔らかいやつは不思議な味ですね。口の中で溶けるような食感で面白いです」
「それはトウフってんだ。シンプルに醤油のみかけたけど、なかなかいけるっしょ」
「ショウユ……? この黒い液体のことです?」
「あー、うん。簡単に言えば、塩水を加工した調味料みたいなもんだ」
「へぇ~。いろいろあるんですね」
超大雑把な説明だけど、これ以上簡単に伝える方法が思いつかなかった。
次は梅干だ。
梅干をご飯の上に乗せ、ご飯と共にかけこむ。
……おお。いい具合に酸っぱい。梅干といったらこれでしょ。
「こ、この潰れた豆みたいのは酸っぱいんですね……」
「ははは。そういう果実なんだよ。慣れれば結構いけるもんだぜ」
「そうですね。酸っぱいけど、こういう味は嫌いじゃないです」
ほう。梅干の良さがわかるとは。やはり見込みのある子だ。
おっと。味噌汁を忘れていけない。
ご飯を口に含み、味噌汁をすする。
……うむ。いい味だ。インスタントだけど十分美味しい。
「このスープも美味しいです。今まで飲んできた中でも一番好きかもしれません」
「なかなかいけるっしょ。まぁインスタントなんだけどね」
「いんすたんと……?」
「……なんでもない」
やはり和食はいい。こういうのが食べたかったんだよ。
日本人でよかった。こんなにも味わい深いものが食えるんだからな。これからも定期的にここで食べにこよう。
ギンコも幸せそうに食べている。口に合ったようでなによりだ。
あとは……うーんと……そうだ。卵を忘れていた。よし、久しぶりに
カタログから卵を購入し、殻を割ってご飯の上に乗せた。そして醤油を少し垂らす。
そう。今がやろうとしているのは――
卵かけご飯だ!
やっぱりご飯があるんだからこれを忘れてはいけないだろう。
よーし、んじゃさっそく一口――
「ご、ご主人様!? な、何をしているんですか!?」
「へ?」
ギンコがやたら慌てた様子でこっちを見ている。
「何って……普通の卵かけご飯だけど……」
「ダ、ダメですよ! 卵は火を通さないと危ないですよ!」
「いやいや、これは生で食うから美味しいんじゃないか」
「そ、そんなことしたら死んじゃいますよ!?」
「んな大げさな……」
何でこんなにも慌ててるんだろう。たかが卵かけご飯なのに……
…………
あ、そうか。卵を生で食べるのは日本人ぐらいなんだっけ。
さすにこの世界だと、生で食べれるほど衛生管理は発達してないってわけか。つまりこういう食材は、加熱して食べるのが当たり前なんだろうな。
でもこの卵は国産――というか、日本産なので安心して食べられる。
「大丈夫だって。この卵は安全だから」
「で、でも……さすがに危険ですよ! 考え直してください!」
「まぁ見てなって。安全だってことを証明するから」
「……!!」
ギンコの前で中で卵かけご飯を口に入れて見せた。
…………
うん。美味い。
生で食べれるって素晴らしい。日本の衛星管理体制に感謝しないとな。
こういうのも定期的に食べたくなるんだよな。
これで安心して食べられることはギンコにも伝わったはず――
「……ひっく……ご主人様ぁ……」
「!?」
あ、あれ?
泣き出しちゃったぞ……?
「どうして……そんなこと……するんですかぁ……ひっく」
「いや、だから安全だと身をもって証明したくて……」
「そんな危ないこと……しないでよぉ……ひっく……死んじゃやだぁ……」
……う~む。やりすぎてしまったかもしれん。まさか泣いてしまうほど衝撃的だったとはな。
生卵は人には勧められんな。これからは気をつけよう。
あの後はなんとかギンコをなだめて泣き止め、今ではすっかりいつも通りになっている。料理も既に完食し終えてくつろいでいるところだ。
予想通りというか、ギンコが一番気に入ったのは生姜焼きみたいだ。この子は肉料理が特に好きなんだろうな。次からも肉を使った料理をしてみるかな。
それはさて置き、さっきは泣かせてしまったせいで罪悪感を抱いていた。そんな気は無かったとはいえ、泣かせてしまったのは事実だしな。
う~ん……そうだなぁ……よし。
カタログからあるものを購入し、ギンコに差し出した。
「これ食べてみな。甘くておいしいぞ」
「なんですかこれ? 見た目が黄色っぽいですけど」
「これはプリンっていうんだ。食後のデザートってやつさ」
「プリン……?」
ギンコはプリンが入った容器を受け取り、不思議そうに見つめたあと、スプーンですくって口の中に入れた。
「……!! こ、これ……とっても甘くて美味しいですぅ!」
「だろ? 食後にはこういうのがピッタリっしょ」
「はい! こんなにも甘いのに、柔らかくてとろけるような食感がすごく気に入りました!」
満足してくれたようだ。よかったよかった。
さて俺も食べることにしよう。
……うむ。程よく甘くて美味しい。このプルンとした感じが癖になるんだよな。
さてもう一口……
「それ、おいしい?」
「当たり前だろ。やっぱりデザートといえばこれだよ」
「それ、なんていうの?」
「だから、プリンだってば。今ギンコに教えただろ?」
「はい?」
「ん?」
ギンコがキョトンとした顔でこっちを見ている。
「えと……私がどうかしましたか?」
「いや、今のギンコが喋ったんだろ?」
「いいえ、私はずっと食べてましたけど……」
「あれ……?」
……ん?
おかしいな。確かに声が聞こえたんだけどな。
この場には俺とギンコの2人しか居ないんだから、今のはギンコが話しかけてきたと思ったんだけどな。
あれー?
聞き間違いか?
「ご、ご主人様! そ、その人は誰ですか!?」
「へ……?」
ギンコに言われて隣に向いた。
するとそこには――
おっぱいの大きい少女が立っていた。
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