第97話:氷の魔女③
フレイヤとの勝負に勝ち、この場を収めることができた。
「あ……あ……ありえませんわ……。このわたくしが……負けるなんて……」
がっくしと膝をつくフレイヤ。
そんなにショックだったのか?
「ま。俺の勝ちってことでいいよな?」
「…………」
「さっき言った約束は覚えているよな?」
「…………ええ」
「なら命令させてもらおうか」
俺の言いたいことはただ一つ。
だがそれを言おうとした瞬間だった。
「ふ、ふざけるな! こんなの無効だニ!」
「は?」
突然ミルトンが割り込んできた。
ミルトンは落ち込んだフレイヤを見下すように怒鳴りつける。
「おいフレイヤ! なに負けてるんだニ!? 貴様を信じて任せたらなんてザマなんだニ!」
「…………」
「これだから魔術師は信用できないんだニ。女だからと思って気を許したらすぐこれだニ。どいつもこいつも使えない奴だニ!」
「……………………」
「こっちは金を払ってやってるんだから少しぐらい役に立ったらどうだなんだニ!? 貴様は金食い虫の役立たずなのかニ!?」
「…………………………………………」
「貴様には失望したニ! 後で罰を受けてもらうから覚悟するんだな! しばらくは一銭も払わないからタダ働きしてもらうニ!」
「………………………………………………………………………………」
「牢屋に入れないだけ感謝するんだな! おい聞いているのか!?」
フレイヤはわなわなと震えながら立ち上がった。
「ふんっ! もういい! さっさとあいつをやっつけるニ! その後でじっくりと――」
「………………ですわ」
「ああ!? なんか言ったか?」
「もう……うんざりですわーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
「!?」
うおっ。ビックリした。
急に大声出さないでほしい。
「いつもいつもいつもいーーーーーーーっつも無理難題をやらされるこっちの身にもなってほしいですわ!」
「なっ……」
「呼び出し受ける度に掃除しろだの、買い物してほしいだの、食事を用意しろだの……わたくしは護衛であって召使いじゃありませんわ!!」
そんなことさせてたんかい。
なんつーブラックな職場だ。
「今回の馬車だって、わたくしが手配したんですのよ! 道中の食事だってほとんどがわたくしが用意たものですわ! 少しでも気に入らない料理出すと怒鳴りつけるもんですから、毎回気を使わないといけないこちらの身にもなってほしいですわ!!」
「そ、それは貴様を雇っているからそれぐらい――」
「で す か ら! わたくしは召使いじゃありませんわ!!」
フレイヤ一人に色々やらせていたんだな。
どんだけ人件費ケチってたんだよ。
「給金がいいから我慢してきましたが……もう限界ですわ! この瞬間を持って、護衛を辞めさせていただきます!」
「な、なにっ!? 貴様なにを言い出すんだニ!? そんな勝手なことは許さないニ!」
「今回の給料も要りませんわ。わたくしが用意した食事も全て差し上げますわ。ですから貴方とはもう無関係です。さようなら」
「ちょ……」
ミルトンから離れ、こっちに近づくフレイヤ。
「ま、待て! そんな勝手は許さんニ! 今ならまだ許してやる! だからこっちに戻って――」
「何か言いましたか? 見知らぬ方」
「ヒッ……」
すげぇ殺気。
眼力だけで人が殺せそうだ……
「ふ、ふんっ! この辺で許してやるニ! このミルトン様を裏切ったことを後悔するんだな! おい! さっさと馬車を出せ!」
「は、はい!」
ミルトンは豪華な馬車に乗り込み、すぐに離れていった。
これで一安心かな。
とりえあず危機は去った。
「貴方。ヤシロと言いましたわね?」
「う、うん」
「今からわたくしを雇ってもらえないかしら?」
「……はい?」
何を言い出すんだこの人は。
「えーと……護衛として雇ってほしいと?」
「そうですわ」
「いや別に要らないんだけど……。間に合ってるし……」
既にヴィオレットが居るからな。
一応ギンコも居るけど。
「というより、貴方に責任を取ってほしいのです」
「せ、責任って……変なこと言うなよ」
「貴方のせいで職を失ったんですよ? それぐらいして貰わないと困りますわ」
「さっきもう限界とか言ってたじゃんか。ずっと辞めたいと思ってたんじゃないの? 俺のせいにされてもなぁ……」
「それはそれ。ですわ」
いい性格してやがる……
「えーと……」
ヴィオレット達に顔向ける。
「いいんじゃないか。フレイヤは腕は確かだし、頼りになると思うぞ」
「ご主人様が決めたことなら私はいいと思います」
二人も了承か……
まぁいいか。
一人ぐらいなら増えても問題ないはず。
「んじゃあ……よろしく。フレイヤ」
「ええ。これからよろしくお願いしますわ」
フレイヤと握手。
こうしてまた護衛が一人増えることになった。
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