第91話:小さな護衛
ヴィオレットが戻るまでプリンを食べつつ、道端で休んでいた。
「そういやさ。ギンコはこの森に来てよかったのか?」
「どういうことですか?」
「いやさ。結局ギンコは俺と一緒に来ることになったわけだし。ここまで来る必要は無かったんじゃないかと思ってさ」
元の目的はギンコを故郷に返すことだった。
けどその目的は叶わず、結局今までと変わらず一緒になることになった。
里に行くまでも少なからず危険はあったわけだし。
だったら最初から来ない方がよかったかもしれない。そう思ってしまう。
まぁ結果論だけどさ。
「そうでもないですよ。私はここに来て良かったと思います」
「そうなのか?」
「はい。お母さんから色々と聞きました。捨てられたと思ったのはただの勘違いでしたから。それを知れただけで来て良かったです」
ギンコは試練のことは知らなかったわけだしな。
「お母さんは何度も謝っていました。危険な試練を私にやらせるのは止めさせたかったそうです。でも試練を受けさせないと、今度は里に居られなくなってしまう。だからすごく悩んだそうです……」
「そっか……」
親としては死ぬほど悩んだだろうな。
我が子を命の危険に晒すことになるんだから。
「でも別に恨んではいません。お母さんが優しいのは知っていましたから。もし試練で死んでしまったのなら、それは私が弱かったのが悪いですから……」
「そ、そこまで気に病むことはないんじゃないか」
「でも今はこうして生きています。これもご主人様のお陰です」
「俺は別に大したことはしてないさ」
「だから――」
ギンコは素早く立ち、俺の目の前にやってきた。
「今度は私が恩を返します。これからは――いえ、これからも私がご主人様を護ります!」
「護るって……護衛でもしてくれるのか?」
「はい! いつでもどこでも私が守ります! だから安心してください!」
つまりボディーガードってことか。
嬉しいっちゃ嬉しいんだけど……年齢も性別も立場が逆だと思うんだ。
ギンコはまだ子供だし、しかも女の子だし……
こんな子に護られてる俺ってどうなんだ……?
「ああ、うん。嬉しいんだけど、別にそこまでしなくてもいいというか……」
「…………」
うわー。
すっごい期待した目で見つめてくる。
これは何言っても無駄な気がする。
下手に否定しないほうがよさそうだ。
「そ、そっか。た、頼りになるなぁ!」
「任せてください! 私がいる限り安心していいですよ! ふんす!」
まぁいいか……
本人もすごいやる気だし。
なんとかなるだろう。
「す、すまない……待たせたな……」
少し元気無さそうなヴィオレットが姿を現してきた。
「もう大丈夫なのか?」
「あ、ああ。なんとか……」
「水いるか?」
「……貰おう」
さっきよりはマシにはなった……ってとこか。
「ふぅ……とりあえず最寄りの村へ戻ろう。安全な場所で休みたい」
「それもそうだな。んじゃ出発するか」
「はい」
こうして森に来る前に泊まった村まで戻ることになった。
ちなみにいつの間にかマナの姿が見えなくなっていた。
道中でヴィオレットがマナのことを心配そうにしていたが、テキトーに誤魔化すことにした。
村へ到着した後、ヴィオレットと少し話し合った。
「ヤシロ少しいいか」
「どうしたんだ」
「もし急ぎの用事が無いのなら……出発は明日にしてほしいんだが……」
「ん? 何かあるの?」
村に着いた後は、馬車に乗って王都に戻る予定だ。
「その……情けない話なんだが……まだ本調子じゃないというか……」
「……ああ、なるほど」
そういやさっきまで顔色悪くしてたもんな。
多分、乗り物酔いみたいな感じになっているんだろう。
こんな状態で馬車に乗るってのも酷な話か。
「ああいいよ。ならこのまま宿に向かうとするか」
「すまないな。御者の人には私から話をつけておく。だから先に行っててくれ」
「あいよ」
というわけで、今日はこのまま王都に戻るのではなく、この村で1泊することになった。
なので出発は翌朝に決まった。
「俺らは先に宿屋に行くか」
「はい」
ヴィオレットと別れ、ギンコと一緒に宿屋に向かうことにした。
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