第25話:開店準備

 露店エリアへと到着した。辺りには多くの人々が行き交っていて、道端に露店が奥の方まで設置してあった。

 意外と客もくるみたいだな。これなら塩を全部売りさばけそうだ。

 出入り口付近には屋台ごと持ってきている店もあった。ああいうのはたぶん常連なんだろうな。けっこう目立つ。


 そんなどうでもいい事を考えつつ、歩きながら周囲を観察しているとあることに気付く。

 それは――


「……いい天気だな」


 今日は雲ひとつないほど快晴で太陽が容赦なく俺を照り付けている。湿気がそれほどないお陰で過ごしやすいけど、これはマズいかもな。

 単に散歩するだけなら問題ないけど、俺は商売するためにここに来たんだ。つまりこの日差しが降り注ぐ中、何時間も店番する必要があるんだ。肌を焼きたいわけでもないのにこれはつらい。

 他の露天をよく見てみると大半が屋根付きだ。中には大きな布を屋根代わりにしている店もあるが、基本的には何かしらの日除け対策をしている。


 俺もなにか対策しよう。ここままでは干上がってしまう。

 そう思い急いで物陰に隠れ、カタログからある物を購入した。


 今買った物――それは〝巨大な傘〟だ。

 海水浴とかで砂浜で設置するアレだ。ビーチパラソルなんて呼ばれることもある。これなら簡単設置できるはず。

 忘れずに固定する土台も購入し、それらを両手で持って元の場所へと戻った。




 さてどの場所にしようか。

 露店を出せる場所については特に決められていないようだ。なので好きなスペースに設置できる。

 けど出入り口付近は競争率が激しいと思う。なぜなら通行人の目を引きやすいからだ。

 しかし俺は完全に出遅れているので奥の方にいくことになった。


「ここでいいかな」


 これといってこだわりも無いので、テキトーに空いている場所で店を広げることにした。

 リュックサックを降ろし、中からビニールシートを取り出す。それを広げてから上に乗った。

 あとはビーチパラソルを広げ、土台の上に設置。これで完成だ。

 うん。やはりこの傘にして正解だった。面倒な手間も無くて簡単に設置できたしな。


 あとは実際に売るだけだ。

 ……と思ったけど、ちょっとした問題に直面した。


「そういやどうやって売ろう?」


 塩を売るには何かしらの容器が必要なことを忘れていた。カタログから買った塩は3kg入りでビニールに入ったままだからな。このまま売ると面倒なことになりそうな気がする。別の容器に移し替えないとな。


 リュックサックの陰に隠れてカタログを出し、そこから使えそうな入れ物を探していく。


「お、これなんかよさそうだ」


 選んだのは小さな革袋だ。これなら塩を運ぶのに丁度いいはず。

 さっそく革袋を10個購入し、その中に300gずつ塩を入れていった。これを店頭に並べることにする。


 さて準備は整った。あとは何が必要かな……?

 ん~と……


 あっ、そうだ。看板が必要だ。ここまま並べても中身が分からないしな。

 再びカタログを出し、立てかける小さな黒板とチョークを購入。これに販売物を書けばいい。

 えーっと、『塩1袋 大銅貨1枚』って感じで書けばいいかな?

 んじゃ、さっそく黒板に書いて――


 …………


 って、忘れてた。この世界の文字知らないんだった。

 やっべどうしよう。これじゃあ看板に何も書けないじゃないか。

 う~ん……困ったなぁ……


 ……いや待てよ。ここは他の人に代筆してもらうか。

 ちょうど隣の店に人が居るし、あの人に頼んでみよう。

 黒板とチョークを持って隣の店まで移動し、店番をしている女性に話しかけた。


「あのーすいません」

「? 何かしら?」


 こっちに気付いて振り向いたのは、20代ぐらいの女性だった。


「ちょっと頼みたい事があるんですけど……いいですか?」

「私に出来る事なら……」

「実は――」


 文字が書けず困っていて、この看板に代筆をしてほしいという事を伝える。

 すぐに現状を察したのか、女の人は微笑みながら体をこっちに向けてきた。


「それぐらいならお安い御用よ。これに書けばいいのね?」

「お願いします」


 書いてほしい内容を伝えると、すぐに黒板にスラスラと書き始めた。


「はい。これで大丈夫よ」

「あ、ありがとうございます」

「もしかして君は親の手伝いかしら?」

「えっと……」


 別に手伝いとかじゃなくて1人で商売しに来てるんだけどな。

 というか親のお手伝いとか思われているのか。俺の外見が若くなってるせいだろうな。

 いちいち説明するのも面倒だし、とりあえずここは話を合わせておくか。


「ま、まぁそんなところです」

「なら文字は早めに覚えたほうがいいわよ? 中には文字が読めないのをいいことに、騙し取ろうとする人もいるからね」

「なるほど……」


 どの世界にもそんなやからはいるもんだなぁ。注意しないとな。


「それじゃあ頑張ってね。また困った事があればいつでも声をかけてもいいわよ」

「はい。ありがとうございました」


 女の人は小さく手を振った後、接客をし始めた。いつの間にかお客さんが来ていたみたいだ。

 邪魔にならないようにすぐに自分の店に戻る事にした。


 手に持っている黒板を見てみるが、そこにはこんな感じで書いてあった。


 ਲੂਣ ਵੱਡਾ1


 これで塩1つ大銅貨1枚という意味らしいけど……やはり読めない。全然読めん。

 かなり独特な文字形態だな。こんなの見たことない。こりゃあ覚えるのに時間が掛かりそうだ。


 兎に角、これで全ての準備が整った。あとは塩を入れた袋を並べて、看板を立てるだけだ。


 ……これでよしと。


 よっしゃ! 

 いよいよ開店だ!







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