第24話:販売物と値段

 宿に戻り、商売の準備をしようとしたところで手が止まる。


「そういや何を売ればいいんだ?」


 カタログを出して売れそうな物を探していくが、どれもピンとこない。

 日本にいた頃の商品ならほとんどが売れそうだけど、種類が多すぎて逆に絞りきれない。

 家電製品なんかはこっちの世界では役に立たないから除外。さすがにオーバーテクノロジーな物を並べても売れるとは思えない。


 クッションは……微妙だな。既に金貨1枚分の値が付けられたからな。なるべくならこの価格を維持したい。

 かといって客層を考えると金貨1枚で出しても売れるとは思えない。フリーマーケットで10万円の物が置いてあっても手が出し難いだろうしな。見たことのない物なら尚更だ。


 じゃあ何がいい? 

 どういう物なら売れるんだ?

 この世界で需要がありそうな物は何だ?


 う~ん。一見簡単そうに思えて難しい。

 よく考えろ。ここでは俺が居た世界とは文明が違うんだ。今までの常識が通じないと思うべきだ。

 でも何か共通点はあるはずだ。


 この世界でもありそうで、需要が高い物。


 何かあるはずだ。


 何か……


 …………


 ――いや、物じゃなくてもいいのか。例えば……そう、食べ物とかでもいいはずだ。

 となると…………調味料?


 あっ! そうだよ! その手があった!

 塩や胡椒はそれなり高価らしいからな。カミラもそう言ってたじゃないか。


 ならば売るのは……『塩』?


 うん。塩だ。塩を売ればいい。これなら不自然に思われないし、需要も高いはずだ。

 よし、売る物は決まった。あとは実際に販売するだけだ。


「おっしゃ、やるぞ!」


 カタログから塩を買い、リュックサックに詰めてから部屋から出ることにした。




 向かったのは露天エリアだ。この場所で商売するには商業ギルドで許可とる必要があるらしい。なのでまずはそっちに行く事にした。


 商業ギルドは石造りの大きい建物で、他と比べて金が掛かってそうな感じだ。

 さっそく中へと入ると、カウンターの前に若い女の人が座っていた。あの人が受付嬢に違いない。

 とりあえず近づいて話しかけることに。


「すいません。ここで商売をしたいんですが」

「露店希望者ですね。ではこちらに名前と主な販売物のご記入お願いします」


 そう言って紙と羽ペンを差し出してきたので、そこに名前と販売物を記入していく。

 書き終わったあとに受付嬢がそれを取って内容を確認するが、見た瞬間になぜか眉をひそめ始めた。


「これは……なんて書いてあるんです?」

「え……?」

「失礼ですが、文字の読み書きは可能ですか?」

「書くだけなら……」


 あれ? どういうことだ?

 普通に名前と販売物を記入しただけなのに、なぜそんな反応になるんだ?


 ……………………あっ! しまった、そうか!

 この世界だと文字が違うんだった。なのにうっかり日本語で記入しちゃったよ。道理で他人には読めないはずだ。


「申し訳有りませんが、これでは受理する事はできません」

「な、ならどうしたら……」

「では代筆致しましょうか? その代わり手数料として小銅貨5枚頂きますが」

「お願いします……」


 結局代筆してもらうことになった。

 そうか、文字が分からないから書くことも出来ないのか。これは何とかしないとな。


 ちょっとしたアクシデントはあったけど、その後はスムーズに手続きを済ますことが出来た。

 露店エリアで販売するには登録料として小銅貨5枚がかかるとのこと。つまり代筆費と合わせて小銅貨10枚。ということは大銅貨1枚の出費となる。想定外の出費だが、このくらいならなんとかなるだろう。


 手続きも無事に終わり、最後に手の平サイズの革を渡された。上部に小さな穴があって、そこから紐が通してある。まるで名刺みたいな形をしていて『38』という数字が印字してあった。どうやらこれが販売許可証らしい。

 というか普通に読めるな。どうやら数字は日本に居た頃とほぼ同じ文字を使っているみたいだ。


 この販売許可証は出店している間は常に携帯する必要があって、不定期に見回りにくる役員に提示を求められた場合、すぐに見せる義務があるとのこと。意外としっかり管理しているみたいだ。

 そんで帰る時には返却する義務があり、紛失したら罰金を取られるとのこと。まぁ紐が付いているし、首から下げていれば紛失することは無いはずだ。


 一通りの説明を受け終わり、商業ギルドを後にした。


 これで露店を出す準備は整った。あとは実際に販売するだけだ。

 けど売る前にやるべきことがある。それは市場調査だ。実際に塩がいくらで売れるか不明だからな。調べておかないと値段を決められない。なのでしばらくは店を見てまわることにした。




 1時間ぐらいかけて塩の相場を調べていたけど、やはり塩は高いことが判明した。

 約1kgで銀貨1枚――つまり1万円前後するみたいだ。ということは100gで約大銅貨1枚の価値があるのか。100gで最低でも千円以上もするってか。たけーなおい。

 日本いた頃は1kg程度なら数百円で買えるのにな。


 相場は分かった。ならば次に考えるべきなのは塩の値段だ。一体いくらで売ればいいんだろう?

 う~ん。100gで大銅貨1枚だから……そうだなぁ……

 よし、ならば300gで大銅貨1枚でいこう。相場の半分以下だ。これなら売れるはずだ。


 よし決まった。ならば善は急げ、すぐに行動開始だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る