第42話:大トロプリン

 次の朝。

 誰かに体を揺さぶられ、目が覚めてしまう。

 体を起こして隣を見ると――


「…………」

「ぷりん」


 予想通りというか、そこにはプリン星人ちゃん(仮)が立っていた。

 今日も白いワンピースを着ていて、頭には花がいくつも付いている。あとおっぱいも大きい。


「あのさ。君はどっから入ってきたんだ? というか昨日はどうやって部屋から出て行ったんだ?」

「ぷりん」

「せめて君が何者なのか教えて欲しいんだけど……」

「ぷりん」

「…………」

「ぷりん」


 ……駄目だこりゃ。全然話が通じないや。ずっと無表情だから何を考えてるのかさっぱり分からん。

 この子のプリンに対する執着は何なんだろうな。そこまでしてプリンが食べたいのかよ。でかいプリンみたいな胸をしているくせに。

 もういいや。さっさとプリンをあげて大人しくさせよう。


 カタログを出し、プリンを購入しようとして……手が止まる。

 一言にプリンといっても、色々な種類があるんだな。

 ふーむ……そうだなぁ……


 よし、これだ。


「はいプリン。これでいいだろ?」

「…………」


 プリンを差し出すと、プリン星人ちゃん(仮)は表情を変えずに受け取った。


 ちなみに今渡したのは普通のプリンではない。

 あれは『大トロプリン』というよく分からん珍妙な商品だ。なんでもプリンと一緒に大トロの味を堪能できるという、見るからに地雷臭がするプリンだ。


 そんなことも知らずに、プリン星人ちゃん(仮)はプリンをスプーンですくって口に入れた。

 すると――


「…………」


 お?

 頭に付いてる花がしおれ始めた。相変わらず無表情のままだが、心なしか悲しそうに見える。

 ふむ……


「ああ。悪い悪い。それは俺のだったわ。こっちが本当のプリンな」


 プリン星人ちゃん(仮)の持ってるプリンを引ったくり、普通のプリンを手渡した。

 新しく渡したプリンをすくって口の中に入れると――


「…………!」


 おお。

 しおれてた花が復活した。表情は変化してないのに、嬉しそうにしてる気がする。

 ……なるほど。この子の接し方がちょっと分かったかもしれない。


 にしても、この大トロプリンはそんなに気に入らなかったのか。

 どれどれ。試しに俺も一口食ってみよう。


 …………


 ……マズッッッッッ!!!!


 なんだこりゃ。

 アブラっこい上に生臭い風味があって、それらがプリンの甘みと見事にケンカしている。これは口の中で味わえるような食い物じゃない。さっさと飲み込むべきだ。

 誰だよこのゲテモノプリンを開発したアホは。よくこんな物売ろうとしたもんだ。つーか大トロの味はどこへいったんだよ。


 この子はこんなものを表情も変えずに食えたのか。ある意味大物かもしれん。


「ふぁぁぁぁ……あれ。今日も居るんですね」


 丁度ギンコも起きたみたいだ。さすがに2度目だけあって慣れてきたらしい。


「ご、ご主人様の手に持ってるそれって……もしかしてプリンですか?」

「ん? まぁプリンといえばプリンだけど、これは捨てるつもりだぞ」


 ぶっちゃけ全部食える気がしない。つーか朝っぱらからこんなゲテモノを食いたくない。


「す、捨てるんですか!?」

「好奇心で買ってみたけど、失敗だったよ。俺には理解できない味だった」

「な、なら私にくれませんか?」

「えぇ……こんなの食いたいのか?」

「よく分かりませんけど、プリンには変わりないんですよね?」

「そりゃそうだけど……」


 いや、もしかしたらギンコなら食べきれるかもしれん。せっかく買ったんだし、残りはギンコに食わせてみるか。


「じゃあ残りはギンコにあげるよ」

「あ、ありがとうございます!」


 嬉しそうに大トロプリンを受け取ったギンコは、笑顔のまま一口食べた。

 だが――


「…………うぇ」


 あ。やっぱり駄目だったか。

 食べる前は笑顔だったのに、口にした途端、一瞬で不快そうな表情に変わった。


「む、無理して食べなくていいぞ……?」

「い、いえ……せっかく貰いましたから……ぜ、全部食べてみせます……」


 なんだこの罰ゲームを受けたみたいな雰囲気は。すごく罪悪感がある。

 そんなギンコを見ていると、プリン星人ちゃん(仮)が袖をクイクイと引っ張ってきた。


「なんだよ」

「ぷりん……」

「へ? ついさっき新しいプリンあげたばかりじゃないか」

「ぷりん……」

「いやだから、ちゃんとした普通のプリンを渡しただろ? まさか足りないのか?」


 するとプリン星人ちゃん(仮)は、渋い表情をしているギンコに顔向けた。


「ギンコがどうした……?」

「…………」


 ……なんとなくこの子の言いたい事は分かった気がする。

 要するに、『ほれみろ。あの子だってマズそうにしているじゃないか。あんな物を私に食わせやがって。お詫びとして追加でプリンよこせ。詫びプリンはよ』って言いたいんだろう。


 ああもう、仕方ない。


「分かった分かった! 俺が悪かったって! もう1個やるからそれで許せよ。つーかギンコも無理して食うなよ。新しいプリンやるからちょっと待ってろ」


 その後は2人に追加でプリンを渡し、皆でプリンを食べることになった。

 成り行きで今日の朝食はプリンとなり、甘ったるい1日になった。


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