第22話:ケモ耳は猫耳、犬耳、狐耳などの種類があるがどれも違った魅力がある

 質屋から出て行った後、次に宿屋を探していた。もう日が沈みかけているし、急いで寝床を確保しないといけないからな。


 だけどこうして町並みを眺めていると、現代日本と違う世界であることを再認識させられるな。煉瓦造りの家もあるけど、基本的には木造のようだ。


 おっと、観光している場合じゃない。さっさと宿屋を探さないと……




 10分ぐらい歩き続けて目的の宿屋へと到着した。他にも宿屋はいくつかあったけど、ここが一番よさそうな気がした。建物もそれなり大きくて綺麗だしな。

 さっそく中へと入ると、カウンターの向こう側に1人の女性が立っていた。


「おや、いらっしゃい」


 40代ぐらいの人が良さそうなおばちゃんだ。


「ここに泊まりたいですけど……」

「お1人かい?」

「はい」

「なら1人部屋が空いてるけどそこでいいかい?」

「そこでお願いします」

「じゃあ1泊大銅貨3枚、前払いで頼むよ」


 約3千円くらいか。割とリーズナブルな価格だ。

 おばちゃんに銀貨1枚を渡し、釣銭の大銅貨7枚を受け取ってポケットに入れる。


「食事は別料金になるから、欲しい時は食堂で注文するといいよ」


 そういうことか。ここは宿屋だけど、基本的には酒屋として利益を出しているわけか。だから安いのか。

 奥の方を見ると、広い場所にいくつかテーブルとイスが並んでいるのが見える。あそこが食堂に違いない。


「おーい、リーズ! お客さんを部屋まで案内しておくれ!」


 おばちゃんがそう叫んだ後、奥の方から「はーい」という返事と共にパタパタと足音が近づいてきた。

 そしてすぐに姿を現したのは若い女の子だった。


「お待たせしましたー! これから部屋に案内しますね!」


 …………


 ………………


 ……………………


 …………………………えっ?


 予想外の外見に思わず固まってしまった。

 なぜなら今出てきた女の子は――


「み、耳ぃぃぃぃぃぃ!?!?」

「はい?」


 可愛らしい犬のみたいな耳が2つ付いているからだ。

 というか頭から耳が生えている……!?


 え、なに?

 もしかしてここってコスプレ喫茶とかそういう場所なの?

 この世界ではそんな物が流行ってるの?

 異世界だと侮っていたが、ハンパねぇなおい。


 それにしてもケモ耳まで付けるとか味なことをしやがる。

 しかもなかなかクォリティが高い。毛並も本物っぽいし、ピコピコと動いているし……芸が細かい。なかなか凝ってるじゃないか。


 まるで本物みたいだ。


 …………


 いや、まさか本物なのか……?


 そんな馬鹿な――


「あれ? 獣人を見るのは初めてですか?」

「獣人……?」

「はい。私は獣人なんですよ」


 ごめん。初めて聞いたよ……


「この町には他にも獣人は住んでいますよ? そんなに珍しいですかね?」

「へ、へぇ……」


 獣人かぁ。よく見ると尻尾まで付いているな。

 なるほどね。この世界にはこの子みたいな人種が普通に存在してるってわけか。本当にファンタジーな世界なんだなぁ……


「ご、ごめん。田舎から出てきたから見たことないんだよ」

「そういうことでしたか!」


 ということにしておこう。


「ちなみにですね、他の獣人は――」

「話は後にしな。今はお客さんを案内するのが先だよ」

「あ、すみません。すぐに部屋まで案内しますね!」

「う、うん……」


 たしかリーズとか呼んでいたっけ。茶髪で小さいポニーテールが可愛らしい。小柄だけど元気でいい子じゃないか。


「お部屋はこっちです」


 リーズの後をついていき、2階へと上がっていった。

 2階部分が宿屋になっているってわけか。


「到着でーす! このお部屋になります!」


 そう言って部屋のドア開けてくれた。

 中は簡素な作りでベッドが1個設置している。薄暗くてよく見えないけどこれといった特徴がない普通の部屋みたいだ。汚くはないけど特別綺麗というわけでもない。


「わざわざありがとね」

「いえいえ! ではごゆっくりー!」


 リーズは退出した後にドアを閉め、部屋には俺1人が残された。

 背負っていたリュックサックを置き、ベッドの上に座った。


 しかし驚いたな。まさか獣人なんてのが存在するとは思わなかった。普通の人間と変わらない生活をしているみたいだし、ああいうのがここでの常識なんだろうな。

 今さらながらまだまだ知らないことが多い。ここは地球とは違うんだ。早く慣れないとな。


 それにしても……腹が減ったな。丁度いい時間だし、何か食うか。

 いや待てよ。カタログから食い物を買うってのもいいけど、せっかくなんだから食堂に行ってみるか。この世界の食事を知るいいチャンスだ。


 すぐに立ち上がり、部屋から出てから食堂へと向かった。

 食堂には何人か他の客も居て飲み食いしていた。意外と繁盛しているみたいだ。

 空いているテーブルに座り、壁に飾ってあるメニューを見てみるが……


「よ、読めない……」


 そういや文字形態も全然違うんだったな。どの文字もミミズがのたくったような感じで全く読めん……

 どうしよう。これじゃあ注文すらできないじゃないか。


「あ、さっきのお客さんじゃないですかー!」


 振り向くと、そこにはリーズが立っていた。


「やあ。さっきぶりだね」

「ですねー! もう食事をするんですか?」

「まぁね。腹減ったし」

「そうですかー! ならご注文をどうぞー!」


 とはいってもメニューが読めないから何を注文すればいいのかさっぱり分からん。仕方ない。ここは聞くし無いかないか。


「ここってオススメのメニューとかある?」

「んーと。それならトスカーノがオススメですよ!」

「とす……なんだって?」


 料理名きいてもさっぱり分からん……


「ああ、ごめんなさい。トスカーノというのは野菜を使ったスープのことなんですよ。ここでしか味わえない特別なスープですよ!」

「ほほう。それは美味しそうだ。ちなみに値段はどれくらい?」

「ふっふっふ。なんとお値段は大1小2なんですよ! 意外と安いでしょ?」

「…………はい?」


 だいいち? しょうに? 

 おかしいな。俺は値段を聞いたはずなんだけどな。

 それなのに意味不明な単語が出てきたぞー?


「えっと、ごめん。もう一回言ってくれない?」

「大1に小2ですよ! 人気メニューなんで早く注文しないと品切れになっちゃいますよ?」


 うーむ。やっぱり理解できない。どういうことだ?

 これはあれか。この国での通貨単位なのか?


「その……『だいいち』とやらはいくらぐらいなんだ……?」

「……へ?」

「…………」

「…………」


 お互いに顔を合わせたまま無言になる。


「……あ、ああ! ほんとごめんなさい! つい癖で!」

「は、はぁ……」

「つまり大銅貨1枚、小銅貨2枚ってことですよ」

「…………ああ! なるほど!」


 そういうことか。やっと理解できた。

 つまりこういうことだ。硬貨の中で『大』と『小』が分かれているのは銅貨のみだ。それだから『大』とか『小』で通じちゃうわけか。

 なるほどなるほど。業界用語っぽくてなかなか面白いじゃん。


「ちなみにパンも一緒だと、追加で小2頂きますけど……どうします?」

「じゃあ一緒に貰おうか」

「わっかりましたー! ではしばらくお待ちくださいねー!」


 言い終わると同時に小走りで去っていった。

 ほんと元気がいい子だ。もはやこの生活に慣れきっているんだろう。


 トスカーノとやらは大銅貨1枚と小銅貨2枚、パンがセットで大銅貨1枚と小銅貨4枚というわけか。大体1400円くらいか。

 もう少し高くなると思ったけど、割と安いじゃないか。やはりこの宿は当たりだったようだ。

 とりあえず今は料理が出来るのを待つとするか。




 待つこと約10分。

 リーズがテーブルの上に完成した料理とパンを置いた。


「こちらがトスカーノになります! ではごゆっくりー!」


 ほほう。なかなか美味そうなスープじゃないか。具材も多く意外とボリュームがある。2人前ぐらいありそうな量だ。

 どれ、さっそく頂くとしよう。

 まずは一口。スプーンですくって口の中へと運んだ。


 ……うん。美味しい。いけるぞこれ。悪くない。

 野菜もしっかり煮込んでいて口の中に味が広がっていく。柔らかくて美味しい。


 よし、次はパンの出番だ。

 パンを手で一口サイズにちぎってスープに入れて吸わせ、それを口へと放り込む。

 うん、いいね。期待通りの美味さだ。パン自体は固かったけど、スープに浸せば柔らかくなるので問題ない。


 確かに思ってたよりは美味しい。

 間違いなく美味しいんだけど……物足りない。何かが物足りない。

 悪くはないけど、やはり何かが足りない気がするんだよな。

 気のせいか? それとも俺の舌が肥えてるせいか?


 ……まぁいっか。とりあえずさっさと食ってしまおう。

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