第77話:黒い水

 既に辺りは暗く、今日は開けた場所で野営することになった。

 ヴィオレットの願いもあって、今回も俺が食事を作ることになった。


「今回は何を作るんだ?」

「ん~そうだな~……」


 色々とメニューは考えてはいるが、実際に作ってみたいと思うものは限られてしまう。

 今はキャンプみたいな状況だからな。

 ならばそれっぽい食事にしてみたいと思ってしまう。


 さて何にするかな……


「ん~……………………あっそうだ」

「む?」


 アレ・・にしてみるか。

 キャンプの定番ともいえるやつだし、何より作るのも楽だ。

 俺でも簡単に作れるのがいい。


「よし。決まった。ちょい待ってな」

「うむ。楽しみにしているぞ」


 さっそく準備に取り掛かろう。


 まずは大きめのフライパンを用意。

 火にかけて熱が通るのを待つ。


 火が通ったら油を引く。

 次に切った野菜とバラ肉を炒めていく。

 炒めている間、ギンコがなぜか目を輝かせていた。たぶん、肉に反応したんだろう。


 次にいよいよ麺を投入。

 ほぐしながら炒めていく。


「ほう。それはパスタか?」

「まぁ似たようなもんさ」

「なるほど。何の料理なのか予想ついてきたぞ」


 俺が今作っている料理。

 それは焼きそばだ。


 まさにキャンプ料理という感じがいい。

 無性に食べたくなってきたからこれにした。

 これなら俺でも簡単に作れるしな。


 後はソースをからめて炒めれば完成だ。


「よーし。出来たぞー」

「おおー。いいじゃないか。これは食べごたえがありそうだ」

「いいにおいがしてきて美味しそうです~」

「すげぇごちそうだべ!」


 三人ともなかなかの好感触でなにより。

 作った甲斐があったもんだ。


 皆に作った料理を配り終えたし、さっそく食うことにしよう。


「……うん。イケるな」


 我ながらいい出来になったと思う。

 やはり焼きそばにして正解だったな。

 いい具合にソースが染みていて美味しい。

 もう少し具を入れた方がよかったかもしれないが、これはこれで食べやすくていい。


 さて三人の反応はどうかな。


「うむ。なかなか上出来じゃないか。こんなにも美味しいパスタは初めてだ」

「食べやすくて美味しいです~! お肉と一緒に食べるとさらに美味しいです!」

「こんなにもうめぇ料理は久しぶりだべ! ありがてぇありがてぇ!」


 皆も満足しているみたいだし、作ってよかった。


 おっと。アレを忘れていた。

 既に用意していたのに、食事に夢中になってしまったからな。


 用意していたコー○をコップに注いで一気に飲む。


「…………かー! うめぇ!」


 やっぱりこういう時には炭酸が合うな。


「ご主人様? 何を飲んでいるんですか?」

「ん? これか? これはコカコー○って言うんだ。


 ギンコにコップの中身を見せる。

 が、中身を見るとなぜか困惑した表情になった。


「な、なんですかこれ……? 黒い水……?」

「まーこういう飲み物なんだよ。ギンコも飲んでみるか?」

「こ、これって、普通の人でも飲めるんですか……?」


 まるで俺のことを『ゲテモノでも平気で口にする人』とでも思ってそうな言い方だな……


「大丈夫だって。変な物は入っていないよ。一口どうだ?」

「い、いや。私は別にいいです……」

「そうか」


 美味しいのにな。

 まぁいいか。

 とりあえずさっさと飲もう。


「…………ぷはぁ! 最高にうめぇな!」

「…………」

「ん? どうしたギンコ。まだ何か用か?」

「あ、あの。やっぱり私も飲みたいです」

「えっ」


 ついさっきは要らないって言ってたのに。

 どういう心境の変化だろう。

 まぁいいか。


「はいよ。ギンコの分にも注ぐぞ」

「は、はい」


 ギンコのコップにもコー○を注ぐ。

 すると不思議そうに中身を見つめた後に、一気に飲み始めた。

 しかし――


「ぶうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」


 わお。

 勢いよく吹き出しちゃった。


「けほっけほっ……。な、何なんですかこれは!? 口の中がチクチクしてシュワシュワしてブクブクしてアワアワして――」

「落ち着け。別に死にはしないって。こういう飲み物なんだよ」

「うぅ……」


 ふーむ。駄目だったか。

 俺もガキの頃は、炭酸系は飲めなかったもんな。

 炭酸はギンコにはまだ早かったかな。


「ちょ、ちょっと! ギンコちゃんに何を飲ませたんだ!? まさか酒か?」

「ち、違うって! ただのコー○だっての!」


 ヴィオレットも心配そうにこっちを見ていた。


「コー○? なんだそりゃ?」

「説明するのが面倒だし、試しに飲んでみるか? そうすりゃどんな飲み物か分かるっしょ」

「わ、私にも飲めというのか!?」

「嫌なら別にいいけど」


 さすがにギンコの反応を見てからだと気が引けるか。


「あ、味はどうなんだ?」

「甘くて美味しいと思うぞ」

「…………ほう。そうなのか……。なら一口貰おうか」

「あいよ」


 意外にアッサリ受け入れるんだな。

 とりあえずヴィオレットにも渡そう。


「ふむ。本当に黒いな。似たようなものは飲んだことはあるが……これはどうだろうな。どれどれ……」


 そういって一口飲んだ。


「…………!!」


 吹き出しそうになるのを堪えたのか、動きが止まった。

 そしてそのまま飲みこんだようだ。


「…………なるほど。これはなかなか斬新なのど越しだな」

「どう? いけるっしょ?」

「うむ。最初は驚いたが、慣れればどうってこともない。確かに甘くて美味しいな」

「だろ?」


 ヴィオレットはそのまま飲み干してしまった。

 よほど美味しかったのだろう。


「な、何でヴィオレットさんは普通に飲めるんですか……」

「ま。大人の味ってやつさ。ギンコには少し早かったかな」

「は、はぁ……」


 納得していなさそうなギンコだった。

 その後に代わりとしてリンゴジュースをあげると、嬉しそうに飲んでいた。


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