カルヴィン町編

第57話:キャンプといえばカレー

 馬車に揺られて数時間。日も暮れてきたので、道端で野営の準備をすることにした。今日はここで一晩過ごす。


「んじゃ、そろそろメシにするか」


 リュックサックから色々な物を取り出して並べていく。これらを使って料理をするつもりだ。

 そんな俺の動きをヴィオレットが興味ありそうな感じで見つめてくる。


「ん? ヤシロが料理をするのか?」

「うん。ちょっと作りたい料理があってさ。丁度いい機会だから作ってみようかと思って」

「カンヅメではないのか……」

「安心しろって。同じぐらい美味いもの作ってやるからさ」

「! そ、そうか。それならいいんだ」


 どんだけ缶詰が気に入ったんだよ……。だけどそんなものを食べるつもりはない。今日は前々から作ってみたかった料理をするつもりだ。


 さてと。まずは米を炊かないとな。

 鍋に米と水を入れて少し待つ。その間に火を起こしておこうか。

 枯れ木を集めて準備しているとヴィオレットが近づいてきた。


「もしかして火を着けるつもりなのか?」

「うん。えーと、確かライターは……」

「なら私に任せろ」


 そういって枯れ木に手を近づけ、パチンと指を鳴らした。

 すると――


「うおっ。一瞬で火が着いた」

「ふふん。このくらい朝飯前さ」


 そういやヴィオレットは魔法が使えるんだったな。ライターも無しに火が使えるとは便利なもんだ。魔法があれば生活が楽になるだろうなぁ。

 一家に一台ヴィオレット……ってか。


「ヤシロ? いま変なこと思いつかなかったか?」

「き、気のせいだよ! こんな簡単に火を着けられるなんてすごいと思っただけだって!」

「そうだろうそうだろう。私には立派な加護・・・・・があるからな。火の扱いなら任せておけ」

「わ、分かった。次も頼むよ」

「うむ。遠慮なく頼っていいからな。では料理を楽しみにしているぞ」


 ドヤ顔をした後、ヴィオレットは少し離れた場所に座った。

 今度は入れ替わるようにしてギンコがやってくる。


「私にも何か手伝えることはありませんか?」

「おっ。サンキュー。じゃあ……そこにあるやつの皮をむいて切ってくれないか。横にあるナイフ使っていいから」

「これですね。分かりました」


 器用にジャガイモの皮をむいていくギンコ。ほんと何でもできる子だな。

 その間に俺はメインディッシュの準備だ。


 今から作る料理。それは――カレーライスだ!


 やっぱキャンプと言えばカレーでしょ!と思ってこれにした。

 それに、一度こういうのやってみたかったんだよな。カレーぐらいなら俺でも作れるしね。


 大きめの鍋に火をかけ、ギンコが切ってくれたジャガイモやニンジンなどを入れる。しばらく炒めたあと水を入れ、適度にアクを取りつつ煮込む。あとはカレールーとあるものを溶かして、かき混ぜながら10分ほど煮込めば完成だ。

 ご飯も丁度炊けたようだ。これで今日の晩飯は揃った。


 カレーとご飯を皿に盛りつけて3人に配る。すると3人とも怪訝けげんな様子でカレーを見つめ始めた。


「ふーむ。これはまた変わった食べ物だな」

「私も見たこと無いです。スープに近いと思うんですが、ここまで変わった色をしているのは初めて見ました」

「オラも初めて見たべ。でも不思議とうまそうな感じがするだ」


 さすがにカレー自体存在しないみたいだ。


「これもちょこれいとなのか?」

「色は少し似ているけど、これはチョコじゃないよ」

「ほう……」


 3人ともカレーを見つめたまま誰も食べようとはしない。そんなに食べにくい見た目しているのかな。

 というかあまり時間をかけると冷めちゃうと思うんだけど……


「えーと、せっかくなんで頂きますね……」


 最初に声を上げたのはギンコだった。スプーンでカレーをすくい、数秒眺めてから口の中へと入れた。


「……! こ、これ……美味しいです!」

「そ、そんなにか?」

「はい! 皆さんも食べてみれば解りますよ!」

「まぁ……ギンコちゃんがそういうのなら……」

「じゃあオラも……」


 美味しそうに食べるギンコの姿を見て、感化されたようにヴィオレットとおっさんも食べ始めた。

 すると――


「……お、おおおおおお! なんだこれは! こんなの食べたことない!」

「う、うめぇだ! 最高にうめぇべさ!」

「ピリッとした辛味が刺激的で、なんとも斬新な味だ! 米との相性もバツグンじゃないか! 手が止まらん!」


 好評なようで嬉しい。作った甲斐があったというもんだ。ギンコでも食べやすいように中辛にしたのがよかったみたいだ。

 隠し味としてチョコを入れてあるからな。これで味がマイルドになりコクが出る。それがさらに美味さを引き出したわけだ。

 さて、俺も食うとするか。


 ……うん。美味い。

 我ながらいい出来になったと思う。これぞザ・カレーといった感じだ。やはりカレーにして正解だったな。


「多めに作ってあるし、おかわりが欲しいならもっと取っていいよ」

「そ、そうか! ならせっかくだし……おかわりしてこよう」

「な、なら私もおかわりしてきます」

「オラもちょっとだけ……」


 わお。大人気だ。

 多めに作ったのは、残った分を朝食にしようと思ったからだ。けどこの分だと余りそうにないな。


 その後も皆がおかわりしたので、予想通り鍋が空っぽになってしまった。

 やはりというか、一番多く食べたのはギンコだった。

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