第31話:銀髪の獣人

「なにやってるんだ俺は……」


 奴隷屋から出た後、自己嫌悪に襲われていた。


「はぁ……」


 最初は奴隷なんて買う気は無かったのにな。あの貴族に腹が立ってつい叫んじゃったんだよな。ほんとあの時の俺はどうかしていた。もしかして場の雰囲気というやつに流された結果なんだろうか。俺らしくもない。

 いや、もう過ぎたことをいつまでも後悔しても仕方ない。せっかく買ったんだ。しっかり責任を持って面倒を見なければ。


 さてこの後どうしようか。

 獣人の女の子は店を出てからも後ろをついてきているが、ずっと無表情のままだった。ケモ耳も垂れているし、死んだ魚のような目をしている。明らかに元気は無い。


「あーそのー……首輪はまだ外せなくてごめんよ」


 奴隷屋の店主から聞いた話だと、町中に居る間は奴隷の首輪を外してはいけないとのこと。よく分からないけどそういう決まりらしい。なので首輪は付けたままだ。


「とりあえず成り行きで俺が買うことになっちゃけど、もし家族の元に戻りたいとかだったら連れてってあげるよ」

「…………」


 あれ。返事が無い。

 と思ったら少し遅れて顔を向けてきた。


「いえ……このままで……いいです」

「ん? もしかして場所が分からないとか――」

「私は……〝捨てられた子〟……ですから……」

「え……? それってどういう……」

「…………」


 おいおい、なんだよそりゃ。まさか家族から見放されたってことか?

 なんというか予想以上に訳有りな感じだな。もうこれ以上は詮索しないほうがいい気がする。

 兎に角、今は話題を変えよう。


「えーっと……あ、そうだ! まだ名前を聞いてなかったね。名前はなんていうの?」

「私の……名前ですか?」

「そうそう! まだ聞いてなかったしね」

「好きに……付けてもらって、構いません……」

「えっ? いや、そうじゃなくてさ。本名を教えてほしいんだけど……」

「私には……名前なんて、ありませんから……」


 あー……そうきたか……

 きっとこの子には色々な過去があったんだろうな。でも今はあまり触れないほうがいいだろう。


「じゃ、じゃあ俺が名前を考えてもいいかな?」

「…………どうぞ」


 う~ん……やりずらい。

 別にもっと親密になりたい――というわけじゃないんだけど、ここまで無愛想な反応をされると心にくるものがある。慣れるには時間が掛かりそうだ。


 さて名前を考えないとな。いつまでも名無しのままでは不便だしね。

 ん~と、どういう名前にしようかな。

 うーん………


 …………


 それにしてもこの子の髪は綺麗だなぁ。銀髪で腰まで届きそうなぐらい長い。今は少しボサついているけど、しっかり洗えば見違えるはずだ。

 ふーむ……そうだ!


「よし決めた! 今日から君は『銀子ぎんこ』だ!」

「ギンコ……それが、私の名ですか?」

「うん。嫌だった?」

「いえ……ありがとうございます」


 銀髪の髪をしているからそう名づけた。安直かもしれないけど分かりやすくていいと思う。

 さて名前は決まったことだし、あとは……格好をなんとかしないとな。

 ギンコの体は布を纏ってるだけだし、よく見たら靴すら履いていない。さすがに何とかしないとな。


「ちょっとついてきて」

「……?」


 ギンコを連れて人の居ない物影へと移動した。ここならカタログを使っても平気だろう。

 カタログを出現させようとして――手が止まった。

 そうだ。どうせこれから一緒になるんだし、この子には話しておくか。


「ギンコ。話したいことがある」

「なんでしょう……?」

「今から俺がやることについては誰にも話さないでほしいんだ」

「……? よく分かりませんが、命に代えても秘密はお守りいたします……」

「いや、別にそこまでしなくてもいいんだけどね」


 なんというか真面目というか……まぁいいか。


 カタログを出現させてページをめくっていく。

 そうだなぁ……これなんか似合いそうだ。

 商品を選択すると選んだ物が飛び出してきた。


「!! いきなり物が……」


 一瞬、目を見開いて驚いていたが、すぐに無表情に戻ってしまった。


「こういう……ことだったんですね」

「そうそう。この能力はなるべく秘密にしときたいんだ」

「分かりました。この身がどうなろうとも秘密は必ず守り通します」

「いやだから、そこまでしなくてもいいってば……」


 真面目な子だなぁ……

 とりあえずカタログから手に入れたやつをギンコに渡そう。


「はいこれ」

「これは……服ですか?」


 今手に入れたのは小学生用の服一式と靴だ。


「とりあえず着てみなよ。たぶんサイズは合ってると思うけど、小さかったら言ってね」

「はい……」


 わお。この子なんの躊躇ためらいいも無く素っ裸になっちゃったよ。人気ひとけの無い場所まで連れてきて正解だったな。

 渡した服を器用に着ていくギンコ。


「うん。似合ってるよ」

「そう……ですか」


 見た目は普通の子供って感じだ。短パンだから尻尾が出ているのが気になるけど……なんとかなるだろう。


 ギンコが靴を履き終わった後、宿へと向かう事にした。

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