第82話 孵化

 トカゲ園の卵から、子供たちが産まれていた。

 それを見て、ジジイのところの件も踏まえ「出産ラッシュ」と思ったが、トカゲだと排卵だし違うことに気付いた。言葉って難しい。

 今回は、数をちゃんと把握していない。全部無事に孵化出来ているといいな。


 さて、ここで問題が。

 どうみてもオータロウ達とは違うタイプの子トカゲがいる。

 動き回るので分かりづらいが、見た目が違う奴が三匹かな。

 なんだこれは。また進化でもしたのだろうか?

 卵の時点では、気付かなかった。だって、普通多少黄色かったりしても気にしないもの。元世界だって、白やら茶色やらの卵があったわけだし。


 進化以外だと、思い当たるのは……やっぱり兄さんだろう。

 驚かせるために違う卵を置いたのではないだろうか。あの人ならやりかねない。

 少し気になるのが、オータロウ達の卵が先か、兄さんが別の卵を置いたのを見てオータロウ達が卵を産んだかだ。別に生物学者になるわけではないが、もし後者だとすればある程度排卵をコントロール出来るようになるということで、知っておくと良い気がする。頭の片隅には、残しておこう。


 とりあえず今のところ出来ることもない。

 別に違うトカゲが食べたり、食べられたりしているわけでもないし、現時点では問題なさそうなので見守ることとする。

 成長して特徴がはっきりしてくれば、わかることもあるだろう。


 例の気味の悪い卵は、変化なし。

 あれ何日目なんだろうか。そもそも、卵が何日で孵化するかもわからないので知っても意味は無いのだが、気にはなる。

 あと卵といえば、クロ丸ちゃちゃ丸もそうだっけ。でも、例の卵に乗っかることで満足してるのか卵を産む様子が無い。

 お金に余裕も出て来たので、二匹の子供も家で飼いたい。

 餌の虫を集める時は、冒険者に依頼するのもありかもしれないな。



 トカゲ園の卵が孵化してから数日。

 僕のところにキャリーさんがやって来た。

「若様。トカゲが立っております」

 作業中にいきなりこんな事を言われて、一瞬固まった。「え?」ってなるのも

仕方がないと思う。

 すぐに我に返り「どこどこ! 見に行く!」となり、一緒にトカゲ園へと向かった。


 到着すると、確かにトカゲが立っていた。

 近くにある石に手を掛けながら、平然としている。

 見た目ですぐにわかった。あの見た目が違う子達だ。もしかして、騎乗用の立ちトカゲの子だったのだろうか。でも、知っているタイプには当てはまらない上に、小さいように思える。成長すると違うのだろうか。

 近くにいた護衛隊長のアルロさんにその辺りの質問をすると、彼らも見たことがないと言う。

 こういう時に、いろいろと詳しいジジイがいてくれると助かるのだけど、未だに産休中なのでいない。正確には、育児休暇か。

 またも経過観察とした。


 さらに数日後。

 またしてもキャリーさんが来た。今度は慌てている。どうしたんだろう。

「若様! トカゲが水面を走っております!」

「マジ⁉ すぐ見に行こう!」

 そんなの動画でしか見たことが無い。

 急いでトカゲ園へと向かった。


 すると今日は見学者多数。使用人達や、母さんや祖母もいる。

 みんな水面を走るトカゲに夢中。

 拍手が起きたりすると、余計にがんばる子もいるようだ。賢いのかお調子者なのか、どっちだろう。

 見ていると、すごいとは思うが若干足の動きが気持ち悪い。みんなは平気なのかな?

 

 走るトカゲたちを眺めていると、ふと気になった。「これはスキルなのか?」と。

 だってこれ、もし負金属で特性を利用出来れば、忍者ごっこが出来る!

 さすがにこの子達をどうにかするわけではないが、こういった素材があると認識できただけでも大きい。

 文字や説明を聞いてるだけじゃ、思い浮かばないことってあるからね。

 

 他に「忍者っぽいの何があるかなー」と考えたが、ない……。

 実際には、火遁だとか水遁だとかできるが「それ魔法ですよね?」ってなりそうなのだ。

 転移と収納を使えれば「変わり身の術」が出来そうだが、実現出来そうなのはジジイくらいだろう。

 

 少しばかり夢を見てしまったが、やはり現実は厳しいでゴザル。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る