第59話 大量発生4
イースさん達が調査を始めて三日目。
何かを見つけたのか、彼女たち二人だけで町へと急いで戻って行った。
我が家に注意や避難指示はなかったので、そこまで大事ではないのかな?
泊まり込みで作業をする冒険者達のおかげで、こちらは順調。
時々見学がてらサンドイッチや飲み物を差し入れすると、非常に喜んでくれる。
作業員さんとのやり取り。田舎ではよく見かけた風景。時代も変わってきていたし、今もそうなのかはわからない。家が完成するまでが早くなっていたし、間違いなく少なくはなっていそう。
子供の頃を思い出しながら眺めていたら、お呼びがかかったので戻る。
夕方には、イースさん達だけでなくベテランぽい冒険者もやってきた。
本格的な調査をするようで、しばらく中継地として利用させてほしいと祖父に話していた。
当然領主である子爵様の方にも報告済みで、鉱山方面は領主軍が調査し森方面の調査が冒険者ギルドに依頼された形のようだ。
家としては「お好きにどうぞ」と言った感じ。調査し解決するならありがたいことでもあるし、多少周辺を切り開いてはいるが自分たちの土地として主張しているわけでもない。
そういえば、最近ここの主は祖父のようになってきている。父さんは、気にならないのだろうか。
夜になると人数が増えたからか、冒険者達は多少賑やかになっていたが、たまにはこういうのもいいかもしれない。
パン太達もこれくらいなら平気みたい。
翌日、数日一緒にいると仲良くもなるので、作業員達の休憩時間にちょっと情報を聞くことができた。
イースさんの相方は、調査に特化したスキルを持っているらしく何らかの痕跡を見つけたらしい。
さすがに大切な部分は、冒険者同士でも話されていないようで詳しくは知らないようだ。
さて、痕跡ということは今回の大量発生は「意図的に起こされた可能性がある」ということなのだろう。
現場は、我が家からは離れた場所だと考えられる。我が家には、警備の人もいるし父さんやパン太達が頻繁に周辺で狩りを行っている。何も気づかないってことは、ないと思いたい。
話を聞くと、気になってしまうのが人間というもの。
パン太達にオスカー、ジジイも加えてお散歩に行く。
もちろん奥まで行くつもりはないが、少しだけいつもより離れた場所に行ってみる。
普段より意識しているせいか、生物が多く感じるが「いつも通り」と言われると納得してしまいそうでもある。
キョロキョロと進んでいると、少し離れた上空でクロ丸達が鳴いた。
その声に反応してリリーが駆け出したので、慌てて後を追う。
進んでいくと腐敗臭がしたので、持っていた布で鼻を覆う。
少し開けた場所に出ると、人型の死体と思われる物が見えた。調査隊に何かあったのかと心配になったが、近づいてみると違うことに気付くことができた。
少し冷静になると、死んですぐ腐敗するのもおかしいということにも考えが及んだ。
「これは、オーガか。そこに転がっとる獣でも追って奥から出てきたんじゃろうな。問題は、何にやられたのかというところか。先生に何かあってはいかん。戻るとするかのう」
後で報告する為に、証拠となる角だけでも持って帰ろうとしていると、何かが近づいてくる音がし全員が警戒をした。オスカーは僕の前で槍を構える。
視界に入った。まだ離れているが、大型の熊だ!
慌てて、壁にしようと氷のブロックを積み重ねようとしたが、焦りから上手くいかない。
そのまま走って近づいてくる熊の前に、ジジイは冷静に氷の壁を築いた。
氷の壁に熊がぶつかったが、壊れることもなく維持されている。さすがジジイの魔法だ。
脳震盪でも起こしたのか、動かない熊を濁った氷の壁越しに見ていると突然の鮮血。
何が起きたのか驚いていると、巨大な白い狼だった。
狼は、しばらく倒れた熊を見つめた後、こちらに視線を向けた。
はっ! とパン太達が心配になり見たが、警戒するのみで動く様子はない。
じっとこちらを見つめた後、狼は去っていった。
森の主だろうか。
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