第58話 大量発生3
オストロイの冒険者ギルドに依頼に行くと、思いの外騒ぎが大きくなってしまった。
受付で依頼内容を告げる際にちょっとした会話があって、その話から危機感を覚えた職員がギルド長へと報告した。
冒険者ギルドの長である『ヤーレン』も、カエル等の大量発生から嫌な予感を感じていたらしく、別室で詳しい話をすることとなった。
我が家の畑でのナメクジの大量発生、それを食べるカエル。そして先日受け取ったヘビの素材からの連想。
この話をどう受け止めるかは人によるだろう。
オストロイのギルド長であるヤーレンは、事実として起きていることを並べられて楽観視できる人間ではなかったらしい。
すぐさま職員に、調査を行う指示を出した。
「いやー助かったぜ。カエルの大量発生ってことと、若干ヘビの素材が増えていることは報告されていたんだ。だが流石にナメクジってなると、俺達じゃ中々気付きもしねぇ。その辺りも今調べる指示を出した。結果次第だが、山や森含めて大規模にやんなきゃならねーかもな」
顎髭を撫でつつ、こちらに微笑みかけてくる。
頬や腕に傷があり、昔のヤクザ映画か時代劇の悪役として出てきそうな風貌だが不思議と怖さは感じない。なんとも『アニキ』と呼びたくなってしまう見た目。父さんより少し上くらいだろうか、おそらく四十前後と思われる。
「そんで、地面掘り起こす肉体労働だっけか。忙しくなりそうだけど、そっちは問題ねーかな。土魔法使える奴は、鉱山関連で出払ってるから無理だけどよ。移動の方は、こっちで馬車出して連れてくことにするわ。ついでに周辺調査させりゃ丁度いいだろうしな」
思いの外短時間でやり取りは終了。
無駄に話が大きくなって混乱しないように配慮して、場所を移動しただけだったようだ。
冒険者ギルドでの用も終わったので、仕立て屋に向かう。
我が家まで少し距離があるが、商会の馬車に乗ってもらえば護衛もいるし移動も楽なので無事了承してくれた。
ついでにどんな生地があるのか見て回る。やっぱり新鮮なのは、革系だろう。元世界でスーツを作る時にこういった店に行ったが、あっちは布がメインだもんね。
仕立て屋の後は、祖父について商会に行ったりした。
以前から言われている、廉価版というか小型製氷機の話もでた。実はもう試作は終わってたりするんだけど、まだ売るつもりはない。大きい方が売れにくくなりそうなのもあるが、小型の方を売り始めると作業量が増えそうなんだよね。もう少し新しく入った三人が育ってからにする予定。
帰りがけにベリー系の果物を少し買う。
今日は、必要な物以外は自重気味。お財布に現金が少ない時は、割と弱気なのだ。
数日後、堀を作るために冒険者がやってきた。
代表として挨拶してくれたのは、若い女性。
(この人は肉体労働じゃなくて調査の方かな)なんて見ていたら話しかけられた。
「挨拶の時に私を見ていたけど、君も私と父さんが似てるって思うの? そんなに似てないと思うんだけどな。はぁー、もうやだなー」
なんだか勘違いしているようなので、説明する。
この女性『イース』さんと言うらしく、ヤーレン冒険者ギルド長の娘さんだった。
どうやらギルドではいつも似ているって言われるらしい。
断りを入れてマジマジと顔を見るが、それほど似ているとも思えない。
「んー。それほど似てるとは思えませんけど。ただ、ヤーレンさんとは先日初めてお会いしたので、僕の意見が参考になるかはアレですが……」
「ですよね! そんなに似てないですよね! はぁーよかった!」
僕の手を握りながら、喜んでくれた。
最初驚いたが、後ろの冒険者達に「ほらほらー」って言ってるのが少し可愛らしく見えた。
たぶんだけど「似てますね!」って言うと、ヤーレンさんが喜ぶからみんな言ってるんだろうね。(これ言わない方がいいんだろうな)と考えてるうちに、彼女はルンルンとスキップしながら調査に出かけてしまった。相方と思われる女性冒険者は、こちらに軽く頭を下げて後を追って行った。
しばらくして(イースさんの名前がソーランさんじゃなくてよかったな)とかどうでもいいことを考えながら、掘り起こす予定の場所で残った冒険者達に指示を出すグレイの元へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます