第75話 祈りと疑い

 神殿に到着し、中に入ると居た。


 役人さんは近寄ってくると、話始めた。

「お久しぶりです。本日は、お祈りでしょうか?」

 そのまま続きを話しだしそうな役人さんに、祖父は硬貨の入った袋を渡す。

 これで下がっていくかと思ったが、そうはならなかった。この人、真面目なんだよね。

 袋を持ったまま「先日は素晴らしいスキルの子が見つかった。これも賢王様のおかげだ」とか「エリード様のおかげで我が国は蝗害から守られた」とか相変わらず長い。体感五分くらい話をして「ですのでお祈りすることは大切です」と言いながら下がって行った。

 祈る為の体力をかなり奪われた気がする……。

 何年も彼がこの田舎にいる理由は、きっとこのせいなのだろう。


 気を取り直して、女神様の像の前に行く。個人的には、ワンちゃんの方に目が行ってしまうが、手を組み目を閉じて心の中で女神さまに語り掛ける。

(無事に十歳になりました。ありがとうございます。以前頂いた啓示の件ですが、パーノポーのことでよろしいのでしょうか?)

 すると、今回も頭の中に言葉が浮かんできた。


『まもなく 災い 芽吹き 大地 荒れる』

『多く 小さき力 集いし刻』

『安息の地へと 変わる』


 以前とまったく同じ内容。

(これは違うということでしょうか?)

 またも語り掛け、しばらくそのまま待ってみたが、これ以上は何もなかった。


 肩を叩かれたので、目を開き姿勢を崩す。

 いつまでもこの場所を占領しているわけにはいかないので、ワンちゃんに手を振ってから外へと向かう。


 

 以前とまったく同じお告げを頂いたわけだけれど、これはパーノポーのことではなかったということでいいのだろうか。違うとなると、似たような事例があれば今後も警戒する必要が出て来る。

 色々を悩んでいるうちに、お告げがまったく同じということで、不敬ながら企業のテンプレ返信を思い浮かべてしまった。

 そう思ってしまうと、検証してみたい気持ちになる。「神様相手になんて奴だ!」って人もいるのだろうけど、申し訳ないがそういった環境の中で育ってきたわけではない。信仰より知的好奇心の方が勝る。

 先程、確認の問いかけをした際は返事がなかった。今戻って、もう一度祈れば同じお告げが頂けるだろうか?

 さすがに家族がいるし「今すぐもう一度行きたい」とも言い辛いので、今日はやめておくがそのうち試してみたい。

 ある程度時間をおかないといけない可能性もあるだろう。ならばそれが何日なのか。もしくは、何年も必要とするのか。


 考えているうちに、商会に到着した。ここから買い物の時間らしい。

 今日の主役ということで、母さん達に捕まり一緒に回ることになった。

 こうなると考え事をしている余裕なんてない。途中で食事の時間に集まるけど、それ以外は帰る時間まで自由行動らしい。僕も自由に動き回りたい。


 ウキウキの女性陣は「新しい服を仕立てよう」だとか「あの装飾品が似合いそう」とか盛り上がっている。

 割と我が家もお金持ちになってきているはずなのだけれど、母さんはそれほど贅沢はしていない。選ぶものも超高級品とかではない。「もっと高いのじゃなくていいの?」って聞くと「今の生活に必要ないから」って言われた。たしかに。


 時を告げる鳥の声が聞こえたので一度集合し、みんなで食事。

 未だにメニューを決める際に、安い物を選ぼうとしてしまう。これは元世界からの癖で、今以上お金持ちになってもきっとこのままだろう。ちょっとした贅沢で、単品を追加。なぜかすごくがんばった気持ちになる。



 その後買い物の続きをして、遅くなる前に町を出る。

 個人的には、以前購入しなかった骨セットをお土産に買った。あずき達がかみ砕けなくても、トレーニングになればいいかなってね。


 帰ってからも、祖父の屋敷でお祝い。

 今日は、食べ過ぎで苦しい。食べてる時は、平気なのに食べ終わると苦しいのなんだろうね。

 食後にみんなからプレゼントを貰った。

 両親からはブーツ。まだまだ成長期なので、すぐサイズが変わるしありがたい。

 祖父母からは、毛布などの寝具。わかってらっしゃる。リリー以外の四匹とは、いつも場所の取り合いだから多いと助かる。

 他の人達からは、小物類。手作りだったり、購入した物だったり。

 そして兄さんからだが「あとで部屋にもっていくよ」と言われた。そんなに大きな物なのだろうか。少し怖い。



 そろそろ子どもは寝る時間ということで、お風呂に入り部屋に帰る。

 一人になると、またお告げの事が気になり始める。

 十歳で何か変わるかと思っていたが、何もないようだ。

 どこかへ向かえとか、何かをしろという指示もないしこのままで良いのだろうか。

 いつも同じことを考えている気がする。

 結局僕に出来るのは、みんなを守れる開発をするくらいかな。


 早速もらった寝具をいくつも広げてゴロゴロしながら兄さんを待っていたら、眠ってしまっていた。

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