第76話 気味の悪い卵
寝返りを打った際、何かに当たり少しだけ覚醒へと近づく。
ぼんやりとした意識の中で、違和感に気付いた。
(パン太達ならば柔らかい感覚のはずなのに、硬かったような……)
慌てて目を覚まし、上半身を起こし確認する。
すると枕元に、メモと一緒に気味の悪い丸い物が置いてあった。
メモには『バウ君が寝ていたので、プレゼントはここに置いておくよ。サンタクロースみたいに靴下を用意しておけばよかった。ワイバーンが守っていた卵。こういうの好きだよね』という内容が日本語で書かれていた。
起きてすぐの脳で理解するには、少々情報量が多い。
まずは、顔を洗ってくることにした。
戻ってきて改めて見てみると、黒っぽい卵で表面に赤い血管の様な模様があり、若干気味が悪い。大きさは、バスケットボール二個分くらい。
ツンツンと突いても、とりあえず反応は無いので手のひらで触れてみる。
ほんのり暖かく、ゆるやかに脈打っていた。生きている。
正直、いきなりこんな物をもらっても困る。
兄さんに返したいところだけれど、そうすると要らないものと判断してスキルの素材にしてしまいそうで怖い。
さっき感じ取ってしまったんだよね。この子生きてるって。僕の手のひら、感覚がさ。
こうなってしまったら、がんばって育てるしかない。といっても、育て方がわからない。
まずジジイに聞いてみよう。おそらくだが、ジジイ以外のだれに聞いても「わからない」と答えるはず。ジジイですら知らない場合、自分で考えるしかなさそうだ。
とりあえず卵は、無難に毛布に包み温めておく。殻が分厚いので大丈夫だとは思うが、あんみつトリオが悪戯すると困るので隅っこに移動させる。想像以上に重いので、毛布の上に乗せて引っ張ることにした。
そういえば兄さんが来た時に、あずきとしらたまが騒がなかったのが不思議だ。
困ったプレゼントへの対応は決まったので、兄さんの元へ向かう。
朝の挨拶と共に、お礼を言わなくてはいけない。
両親の生活する家に行き、兄さんの部屋に入るがいない。
そういえば、ヨシヒラが表にいなかった。朝早くから、出かけているのだろうか?
台所で母さんに確認すると「また旅にでたわよ。バウくん聞いてなかったの?」と言われてしまった。
心の中で(逃げたな!)と思った。
以前も似たようなことがあった気がして、トカゲ園に走ると卵を見つけた。
あの人のスキル『混』と聞いているが、卵を作り出す能力もあるのだろうか……。
思わず「また押し付けられた!」と声を出してしまったが、考えてみるとトカゲ園の管理はもうほとんど僕の手を離れていたのでそれほど影響はなかった。
再度、両親の家に行き兄さんが何か言ってなかったか確認する。
すると、特別何か言っていたわけではないが、今回はハタノとネトリを連れて行ったと伝えられた。
なぜ今になってなのか。相変わらず謎行動が多い。
どこかに拠点でも構えたのだろうか。それ以外は、思い浮かばない。
兄さんが旅に出てしまったのなら、どうしようもない。
僕には、ヒッポグリフもいないし、行先もわからないのだから。
仕方が無いので両親の家で朝食をとりながら、ジジイが出勤してくるのを待つ。
ジジイが出勤してきたので、例の卵を見せて何か知らないか聞いてみたが「見た事のない卵」と言われてしまった。しかしながら「通常、ワイバーンの卵であれば温度管理さえしておけば大丈夫」とも教えてもらうことが出来た。
卵の話が終わると、隣の物置に呼ばれたのでついていく。
どうやら兄さんから素材と手紙を預かっていたらしい。
『君がこの手紙を読むころには、俺はもうそこにはいないだろう。ってこれ一回やってみたかったんだよね! 卵ビックリしたかな? 実は、わざと寝た後に置きにいってみた。さてさて、少しだけ申し訳ない気持ちもあったりするので、お詫びに素材を置いて行きます。死にかけた魔物や動物を、混ぜる事で救おうとしたんだけどその時は無理でね。素材が勿体ないので使って。それから、あのポーションみたいなのが出るやつ貰っていくね。それじゃあ、また』
なんとも言えない気持ちになった。
「申し訳ない」は、何に対してなのだろう。
もやもやとするのだが、なんとなく「兄さんらしい」と思い、心の中で折り合いをつけた。
カーマイン一家の尻尾はもう問題なさそうだし、魔道具については材料を揃えれば作り直せる。母さん達には、知らなかったと正直に話そう。それしかない。
お詫びの素材の方は、いくつか種類がある。
一応メモに組み合わせた内容は書かれていたので、ジジイに相談しつつ特徴を確認していくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます