第77話 新たな可能性

 兄さんから貰った素材を確認していくうちに、気付いたことがある。

 彼は、ヒッポグリフを得たことで空を飛べるようになった。

 その為、次は「水中に興味を持っていそうだ」ということである。


 ビーバーの尾、イルカの尾びれの様なもの等、どうみても偶然助けようとした生物というには、統一感がありすぎる。

 兄弟ではあるのだが、同じ転生者で元々はまったくの他人。この年齢になっても、どこか信用しきれない自分がいる。


 とても大きな尾びれもあり、一瞬エイかと勘違いしてしまった。

 海に行ったという話はしていなかったので、その言葉を信じるならばここにある素材となった生物達は、川もしくは湖に生息しているということなのだろう。

 数が多い物は、どういうことだろうか。「ゴブリンに襲われるビーバーの群れを助けた」みたいなことが起きるのか……。あり得るのだろうな。

 人の歴史を思い返すと、頭の中のゴブリンが狩りをする姿が思い浮かんだ。


 改めて考えてみると、知らないことが多い。

 僕は、とても小さな世界で生きている。


 考えるのをやめ、素材へと意識を戻す。

 ジジイに確認してもらっても、兄さんのスキルで他と混ざっているので、断定が難しい。

 兄さんのメモ書きの情報は不十分で「ビーバーとムカデの魔物を混ぜた」だとか、特定するには曖昧な表現が多く困る。当然何もないよりは、マシだが。

 兄さんは、僕と違って過程よりも結果が大事なタイプだ。再認識した。



 せっかくの素材なので、数が多い物から使ってみる。

 ビーバーの尾から。といっても、混ざってる相手が違ったりもしていてややこしい。


 いくつか試してみたが、素材元々の効果とそれ程違いは無い。

 高いので少々躊躇してしまうが「物は試し」と、負金属と適当に選んだ素材を使って発動体を作ってみる。


 いつも通り、まずはジジイが試す。

 くねくねと気持ち悪い動きをした団扇のような発動体は、強烈な水の渦を発生させた。反動で、ジジイは引っくり返りそうになっていた。

「ほー。こりゃ驚いた」

「外壁壊れちゃった。威力すごいね」

「それほど魔力も込めてはおらん。ほれ、先生も試してみるとええ。でもちびーっとじゃ」

 発動体を受け取り、気を付けながら魔力を流す。

 ジジイに比べると規模は小さいが、水の渦が発生した。

「何かに使えそうだね」

 一瞬「洗濯機に使えそう」と言いかけてしまった。問題ないとは思うが、なんとなく言い換える。


 外壁が壊れた騒ぎで、アルロさん達が集まってきてしまったので、実験だと説明する。

 離れた場所にいたパン太達もビックリさせてしまったようだ。申し訳ない。

 力加減を間違えると危ないので、今日はここまでとした。

 この発動体は、後でジジイが孤島に持って行って試してみることになった。



 この日から、今回と似たような一般的な魔物の素材を使った研究を始めた。

 負金属の量に制限があるので、少量ずつの使用だ。

 今のところ「純粋な素材では求める効果は得られない」という結果になっている。

 逆に兄さんから貰った素材は、強力な発動体や魔道具を作れている。

 どうやら「兄さんのスキルで混ざった素材」と「負金属」は相性が良いらしい。


 ちょっと違うタイプの素材も試してみたいと思い、もっと小さい頃にもらった「トンボの羽」を思い浮かべたが、あれは純粋な素材だろうしダメか。

 さすがに大切なリリーや、オータロウ達をどうにかしようとも思わない。

 兄さんがここに居てくれればよかったのだが、居ないので諦めるしかない。


 すぐにはこれ以上手に入らないとなると、出来た物で何が出来るかを考える必要がある。

 パッと思いつくもので、以前も考えたが洗濯機。

 それからボートや船の動力。

 あとは、攻撃手段としても使えるのかな。他の物を利用した方が良さそうではあるけど。

 水撒きは、量が多すぎてだめか。畝を崩したり、根腐れを誘発しそうだ。


 一番無難なのは、ボートや船の動力かな。

 幸いなことに、近くには大きな川もある。

 実験は、ジジイにお願いして海でやってもらえばいいかな。

 新しい物が作れそうな気がして、久しぶりにワクワクしてきた。

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