第78話 舟を船へ

 オストロイから少し下流の地域では、それなりに川で漁を行う人たちがいるので、交渉して古くなった舟を譲ってもらった。乗るスペースが四畳くらいの大きさ。乗ってみると案外大きい。

 とりあえずの実験は川で行うので、この程度のものでいい。

 もちろん上流にも漁をする人がいるのだが、川の幅や流れの速さの問題もあり船を利用している人が少ないのだ。


 早速手に入れた舟に手を加え、水の渦を発生させる発動体を取り付ける。

「いざ出発!」というところで、一旦止まる。


 今回自分で操作する予定だったのだが、やはりジジイにお願いすることにした。

 理由は、後ろに発動体固定用の部分を取り付けたのだが、きちんと測ったうえで行ったわけではない。割と適当に「この辺が真ん中かな」と、やってしまった。で、今になって想像すると「力加減を間違うと傾いて転覆する」という可能性に気付いてしまった。

 より繊細な操作が求められるわけで、ならばと交代することにした。


 水の抵抗もあることだし、余程の事が無ければ平気なはずなのだけれど、気になってしまったからには交代しないわけにはいかない。僕は比較的用心深い方だ。


 ジジイの繊細な魔力操作により、船は動き始めた。

 今回は、僕とジジイとオスカーの三人。

 スーッと、流れるように動く船に感動。

 馬車より乗り心地が良い気がする!

 もしかするとテンションのせいでそう思うだけかもしれないが、気にしてはいけない。


 しばらくすると、問題なさそうなのでジジイと操作を交代する。

 事前に「ちびーっとじゃ」と何度も言われたので、そっと魔力を流す。

 注意しすぎてほとんど動かしている感覚がないので、もう少しだけ力を込めた。

 すると急発進。

 慌てて発動体から手を放したが、反動で落ちそうになった。咄嗟にオスカーが体を支えてくれたので、なんとか助かった。


「先生。ちびーっとと言うとったろうに。それに発動させる向きが下すぎる。一歩間違えば、ワシらごと船が浮いてしまうとこじゃった」

「ごめんなさい」


 浮かれていたのだろう。ジジイの操作を見て油断していた部分もあったと思う。

 今回の失敗は、想像してみると調整を間違えてもう少し川底に向けてしまっていた場合、更に酷い事故になっていたことが想像できる。

 恐らく転覆しても、僕はジジイが助けてくれるので命は助かっただろう。けれど、ジジイはオスカーを助けない。彼の価値観では、オスカーは助ける基準に達していないから。

 そう考えると、船の操作が怖くなった。

 そしてジジイに注意されて咄嗟に謝ったけれど、それよりももっと謝るべき対象はオスカーなのだろう。しっかりとオスカーへ向き「ごめんなさい」と頭を下げる。


「いえ。これが仕事ですから」


 改めてオスカー達の存在のありがたさを学んだ。

 車もこうなる可能性を秘めていたと思うと、運用できなくて良かったとも思える。

 このことについて話すと「恐れているばかりでは何も進歩しない」とジジイに言われてしまった。

 僕の口からは、何も言葉が出なかった。



 その後、ジジイの操作で岸まで戻り、船を回収して家へと帰る。

 道中先程のことを思い出していた。

 動揺していたので言葉が出なかったけど、考えてみるとわかっていた、知っていたことなんだよね。

 反省は必要だけど、それだけじゃだめだ。


 工場でジジイに船を出してもらい、状態を確認する。

 壊れたところもなく一安心。

 川での出力を考えると、もっと大型の船にすることも可能に思える。その方が、安定し安全にもなるだろう。となると、海とか湖での運用を想定するのが良さそうだ。

 広い場所があるなら、魔道具にしても良いかもしれない。

 ただ微調整が出来ないので、別の動力と併用する必要がある。

 その辺りも、今後探っていくこととしよう。



 先日、兄さんが帰って来た時の話で、遠方への興味も沸いている。

 しかしながら、例の卵の件もあり長時間家を離れるわけにもいかない。

 ジジイの転移で連れてってもらえばいいだけなのだが、家族が心配することも考えるとなかなか実行できない。

 一歩踏み出すと「不良少年」になってしまうのだろうか。以前の年齢も加えると、僕はおじさんだ。

 そう考えると、頭の中の自分は一歩後ずさっていた。

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