第79話 水車の塔

 船の実験は、ジジイの結果待ち。

 そうすると時間に余裕が出て来る。

 リアにクレア、オーリーといった従業員たちも作業に慣れてきたので、ついに小型製氷機を作り売りに出すことにした。

 伯父さんの商会へ行くたびに「問い合わせが」と、言われるのにも疲れてきたのもある。

 ただ少量だけ。月に十台くらいにしておく。


 金額は、金貨二枚。普通サイズが金貨五枚だから、今の自分なら普通サイズ買うかな。

 でも小規模な飲食店だと、金貨五枚出すのもキツイのかもしれない。

 何店舗かでお金出しあって共用にすればいいのに、こういうのって大抵権利なんかで揉めるらしい。「だれが使いすぎだ!」とか「うちの方が多く出したのに!」とかさ。異世界だろうと、人間のやってることは大体一緒ってことだね。


 個人が小型製氷機を買うと、地域の人気者になれそう。

 昔、テレビが発売された頃ってすごく高価で、近所の人たちが集まって見てたって聞いた気がする。小型製氷機もそんな感じになるのかな。そう考えると、もっと安くしてあげたいところだけど、材料費とか考えるとがんばっても金貨一枚はしちゃうんだよね。

 それにしても、元世界に売っていたテレビの値段思い出すと恐ろしい。製氷機に例えると、大銀貨数枚。要するに数万円まで安くなってるんだもんね。

 現状、異世界ではそういうの無理だろう。でもいつかは、可能になるのだろうか?


 そんなことをグダグダ考えていたら、いつの間にか自分の作業は終わっていた。



 次に、以前考えていた水車の塔を作るための過程として、小型のものを建築する。

 大きさは、公園の滑り台くらい。

 考え始めると楽しくなってきた。

 塔として考えるなら、内側から登っていく感じが良いだろう。外側に付いた階段も悪くはないが、安全面に欠ける。

 内側から、外壁に沿って階段を配置。

 そうだ! 円形の塔にして螺旋階段なんてどうだろうか。

 

 いつの間にか、脳内の滑り台は大きく成長していた。

 とはいえ、この程度の規模ならば元世界にも多く存在していた。スペースさえ確保できていれば問題は無い。

 家の隣の空き地を整地して、今日はおしまい。


 翌日から作業再開。

 カーマインに手伝ってもらい、ブロックを積み上げていく。

 時々、他の人達も作業を見学に来る。「また何かやってるな」という感じで確認していくが、今回は作っているものを見ればある程度理解できるので、放っておくことにしているようだった。


 数日かけて、塔部分はとりあえず完成。

 内側から登って、頂上へ到達。

 建物の二階ぐらいの高さはあるので、見晴らしが良い。

 ここにいると、何だか屋根も欲しくなってくる。

 ただ、柱は割と簡単に作れるが、ちゃんとした屋根は少々面倒だ。とりあえずは、カエル素材を利用した物を張ることで妥協することにした。


 そして、肝心の水を流す部分。

 塔の外側に、真っ直ぐ階段状にブロック並べていく。

 斜面の部分は、後から土を盛って調整する。

 蓋というか、上部分はどうしようか。とりあえずなので、コの字型で開いていてもいいかな。

 命綱を着けた状態で、頂上から下りながら作業していく。最初、安全のために下からやっていこうかと考えたが、それだと塔との接合部分がずれてしまいそうでやめた。下で調整する方が楽だ。


 十日かけてついに完成した。

 立派な滑り台だ!

 試しに布で作ったボールを落としたが、ちゃんと下まで転がっている。

 

 そういえば、作業途中は夢中で忘れていたが、水車を付ける部分を空けていない。

 でもまだ間に合う。

 地上付近を組み替えれば、対応可能。

 ドムさんに頼んでいた水車の直径を確認する為に、工場へと戻る。組み立てて、だいたい二メートルくらいのようだ。僕の身長よりも大きい。

 大きさはわかったが、どれくらいの高さに設置すると効率が良いのか。水路のことや水を受ける角度を考えると、調整できるようにするべきだろう。

 頭の中にある程度イメージ出来たので、塔へと戻る。


 塔に着くと、あんみつトリオが滑り台に上がっていた。

 僕が居ない内に、調査に来たらしい。


 落ちていたボールを拾い、上から転がすと追いかけて滑っていった。

 見ていると、若い頃のパン太を思い出す。


 水路を作る予定だったが、もうしばらく先でもいいかな。

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