第74話 空からの景色

 翌朝、いつもより早く目が覚めた。

 別に誕生日だからとか、ヒッポグリフが楽しみでってわけではなく兄さんに起こされたからだ。

 兄さんの拘りのようで「やっぱり日の出を見ないと!」ってことらしい。

 それなら昨日言ってくれていれば良かったのに。


 身支度を済ませて外に出る。少し寒いので、上着を羽織った。

 パン太達はまだ寝るみたい。あんみつトリオは僕の布団を占領していた。いつも(君たち元は夜行性でしょ)と思う。トリオは、まだまだ寝るのが仕事なのかな。ならば仕方がない。


 ヨシヒラの背中には専用の鞍が着けられていて、そこに兄さんと二人で乗ることになった。屈んだ状態でも上に乗るのは大変で、苦労した。傷つけてはいけないと、足をかける時に躊躇したけれど、強靭な体は僕が全力で蹴っても全然動じないくらいなんだとか。まあ、だからといって蹴りはしないけれど……。

 ヨイショヨイショと羽なんかを握らせてもらいながら漸く乗ることが出来た。

 後から兄さんが、ヒョイと乗って来る。流石に慣れている。

 危ないからということで、前側に僕が座って後ろが兄さんになった。バイクみたいに後ろに乗るものだと思っていたから、少し戸惑った。


 兄さんの合図でヨシヒラは起き上がり、駆け出した。

 ゲームなんかのイメージで、その場で浮き上がるのを想像していたけれど違った。前方へ駆けながら勢いをつけ、羽を広げ飛行機のように飛んだ。

 考えてみると半分くらい馬だもんね、そうなるか。


 空からの景色は素晴らしい。

 丁度空の色が変わり始めているところで、ピンク色やオレンジ色に見える。

 日本人なら朱色と表現すべきかな。

 自然に「うわー」と、声が出ていた。

 以前の家も割と高い位置にあったが、そこでの景色とはまた違った印象を受けた。

 

 昨日のように「あっちの山の向こうに何がいる」とか、「あっちに湖がある」なんて話を聞きながらしばらく空を楽しんでいたけれど、クロ丸達が呼びに来たので戻ることにした。どうやら母さん達が心配して呼んでいるのを伝えに来てくれたようだ。クロ丸達は近くを飛んでいたので、一日経ってヨシヒラ達にも若干慣れたらしい。


 地上に降りると、早速母さん達に感想を伝えた。

 すると母さんも興味を持ったようで、乗せてもらうことにしたようだ。

 僕が乗っているのを見て、安全だと認識したというのもあるかもしれない。

 シエンナは、母さんを止めていたが無駄だったみたい。



 その後いつも通りの朝食を終え、少し休んでから町へ向かう準備をする。

 今日は珍しく一家揃っての外出。祖父母もいる。

 母さんや祖母は普段ほとんど町に行かないので、今日は張り切っている。色々買い物もするようだ。

 パン太達もそうだけど、ヨシヒラ達もお留守番。乗っていければ楽なんだけど、人数的にもさすがに無理だし、他の人達を驚かせてしまうからしょうがないね。


 いつものように馬車でゆっくりと進む。

 道中なんとなく、荷車に乗って移動していたことを思い出した。この辺りで小石に乗り上げて落ちそうになったとかね。

 以前の家への道は整備され少し広くなり通りやすくなっていて、今も荷馬車が横を通り過ぎていった。

 家族と町に行くと毎度のことながら「変わったね」って話題がでる。

 空から以前の家や鉱山の方を見ると、面白いかもしれない。


 町へ到着し、門から中へ入る。

「今日は一家そろってか。珍しいな!」なんて声をかけられた。

 以前ならもっと世間話もあったのだけれど、鉱山関連でこちらの門を利用する人も増えているので以前ほど暇ではないらしい。たまに愚痴ってくるので、愛想笑いを返すようにしている。



 まずは大切な用事からということで、お祈りへ向かう。

 今日も話の長い役人さんはいるのだろうか。

 少し楽しみな気もするが、話を聞き始めると面倒に感じてしまうのだろう。

 あの人の話には、それくらいの力がある。

 もしかしたらスキルかもしれない。

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