第86話 謎の玉

 相変わらず休暇中のジジイは出勤してこない。

 長命種なので一年くらい休んでしまうかも。異世界に、産休、育休はないだろうから基準も存在しないだろうし。

 そのうちエルマさんが気付いて「一回顔を出してきなさい」とか言ってくれると信じよう。


 塔と貯水池の建設は、今日はお休みにした。

 数人でやってると寂しくなっちゃうんだよね。

 もうすぐ大人の身長くらいの高さかな。趣味みたいなものだし、このままゆっくり進めて行く予定。

 祖父は、ブランコで遊べてるし急がなくてもいいよね。


 昼食後、庭に出るとあんみつトリオが木の上にいた。

 簡単に上がれるように、木の板を配置しておいたけど使ってくれてるようでうれしい。でも上から見下ろされるのは、悔しい。飛び降りて来られると、受け止めるのは難しそうなので、少し離れておこう。

 リリーは日陰で子供たちの監視かな。お疲れ様です。


 部屋に帰ると、クロ丸ちゃちゃ丸にパン太がいた。

 クロ丸たちにお肉をあげていると、パン太も近づいて来た。どうやら二匹の食事風景を見て、加熱した肉が食べたくなったらしい。

 赤熊のグローブを装着して、加熱してあげる。

 匂いに釣られてリリー達も戻って来た。はいはい、順番ね。


 

 みんな満足したみたいなので終了。子供たちは、お腹ぽんぽこりんだ。

 グローブを外そうとした時に、例の気味の悪い卵が目に入った。

 悪戯心で、そーっと卵を温めてみる。

 すると卵にヒビが!


「ちょっ! うわー! 待って待って!」


 慌てて手を放したが、ヒビが広がっていく。

 大きな声を出したので、オスカーが部屋に入って来た。


「若様! 何かありましたか⁉」

「ええっと、ごめんごめん。でもほら、なんか卵が!」


 卵を指差し、大声の原因を知らせる。

 確認したオスカーは、室内なので短剣を手にして警戒モード。

 ピキピキと割れていく様子を、皆で見守る。


 一部が剥がれ落ちると、バラバラと一気に欠片が剥がれて行った。

 出てきたのは、黄色の鳥?

 翼で身体を包み込むような形で、卵の中に入っていたようだ。

 そして、まるで天使が現れるような感じでゆっくりと翼を広げていった。


「ピエッ!」


 声聞いて、ビクッとしてしまった。

 鳴いた後、止まっているので大丈夫そうかな?

 うん。鳥だね。なんか普通。ちょっと大きいけど。

 挨拶された気がするので、まずは「いらっしゃいませ」と会釈。

 混乱して、僕もおかしくなってきている。


 鳴いた後、こちらを見つめている。

 知らない相手に、そんな感じで見られてもどうすれば良いのかわからない。

 いきなり暴れたり、襲ってきたりしないだけ良かった。

 

 クロ丸、ちゃちゃ丸が近づいていった。

 止めようと思った時には、行ってしまっていたので見守るしかない。

 しばらく眺めていたけど、喧嘩するわけでもなく問題なさそう。

 なるほど。鳥だから二匹とも気になってたのかな?


 僕もオスカーもパン太達も、警戒を緩める。

 何と言うか、ツッコミどころ満載だ。

 まず「鳥だったのね」から始まり「ひよこじゃないんですね」となり「ワイバーン貴様! なんで守ってたんじゃい!」といったところか。

 托卵とか、そういうことなのだろうか。


「賢そうな子ですね」


 静かな空間にオスカーの声が響く。護衛の人は、こんな時も冷静ですごい。

 たしかにオスカーの言う通り賢そうなんだけど、この子は何者なのだろう。

 考えたところで、わかるわけもないか。


 何か食べ物を与えてみよう。食事は外交の基本だし。

 この場は、オスカーに任せて食べ物を取りに行く。

 木の実に野菜類、それから肉。あとは、虫もあったほうがいいかな。どれかは食べることができるはずだ。

 

 部屋から出たことで、少し冷静になれた。


 部屋に戻り、黄色い鳥の前に持って来た食べ物を置く。

 食べ物を見た後、こっちを見て会釈するように頭を下げ、虫を食べ始めた。

 さっきの僕の仕草を真似たのか、そう見えただけなのか。

 こちらが考え事をしている間に、次は野菜を食べ始めた。


 結局、黄色い鳥は全部少量ずつ食べて満足したのか、動いて敷いていた毛布をつつき始めた。

 寝床を作っているのかと見ていると、毛布の上にピンポン玉サイズのド派手な色の玉を見つけた。こういう色って極彩色っていうんだっけ。

 

 これ何だろう。 

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