第87話 暁

 恐る恐る近づき、極彩色の玉を見る。

 攻撃されないで良かった。大切な物ってわけでもないのかな。

 宝玉、もしくは魔石っぽい感じがする。

 色的にもヤバイ物に見えるけど、どうしよう。

 黄色の鳥を見ても平気そうにしているし、この鳥自身の魔石って可能性はなさそうかな。

 鳥が怒らないなら、棒で転がして隔離しておこう。

 


 黄色の鳥は、光に当たると赤っぽくも見えるので『アカツキ』と名付けた。

 刷り込みの影響なのか、すごく甘えて来る。

 かわいいのだが、でっかいんだよね。

 今のところ、形的には丸みのあるオオワシなんだけど、立つとペンギンくらいありそう。

 まだ幼い感じは受けるので成長していくんだろうけど、どこまで大きくなることやら。ワイバーンの卵と間違われるくらいだから、乗れるくらい大きくなっちゃうんだろうか。


 家族や従業員にはちゃんと報告しておいた。

 するとシエンナが、アカツキを気に入ったようで積極的にご飯を用意してくれている。

 基本怖がりなのに「色が自分の髪色と似ている」ってだけで、受け入れることができるらしい。なんとなくわかる気もするかな。

 前からいるみんなは、もう生き物が来るのも慣れちゃってあまり気にしないみたい。新しい従業員のみんなも割と普通にしてる。

 異世界生まれの人達だと、こういった大きな鳥も見た事あるんだって。

 ただ、アカツキがどの種類なのかはわからないそうだ。僕だって鳥を並べられても数種類しかわかりそうにないし、そんなもんだよね。


 アカツキは数日もすると、ヨチヨチ歩きで僕に付いてくるようになった。

 さすがに室内程度しか無理なので、そこからはベビーカーに乗せている。ジジイの子供用に作成したノウハウが役に立った。

 自分で押すのは少し面倒だけど、他の人に頼めない。

 だってそれだけのためにだれか呼びつけるのも申し訳ないし、パン太たちに引っ張ってもらうってのは無理だもん。すごい勢いで走って、アカツキ落っことしそうだし。


 アカツキを連れたまま高所で作業というわけにもいかないので、しばらくはいつもの売り物作りと貯水池のみの作業とした。

 貯水池なら、最初から窪地に一緒に入ってしまえば落ちる心配もないからね。なんならパン太一家も走り回ってる。運動場じゃないんだけどな。



 新しい家族であるアカツキの世話で大変な日々を過ごしていたある日、ジジイが赤子を抱いたエルマさんを連れてやってきた。


「先生! 少し成長したんじゃ!」

「ジジイ久しぶりだね。エルマさんもおめでとうございます」

「伺うのが遅くなりました」


 エルマさんは、母親になったからか落ち着いた雰囲気に変わった気がする。ジジイは、変わった感じなさそう。

 引き続きしばらく休みたいということなので、当然許可する。


 それから、子供の紹介もしてもらった。

 名前は『シャバ』だそうだ。

 後ろの『バ』は『バウ』からだって。漢字じゃないし、言われないと絶対わかんない。こういうの恥ずかしいものなのかと思っていたが、さすがに『バ』だけじゃ何ともないな。

 あと、ジジイみたいな長い名前もあるらしいけど、そっちは秘密だって。この子が大きくなって自分から伝えてくれれば知ることができるようだ。


 許可をもらって、シャバくんの手に指を差し出すと握ってくれた。

 なるほど。この壊してしまいそうな怖さと、命を感じる体温等が合わさって「尊い」という感覚になるんだね。

 それにしても、すごくこっちを見てくる。怪しい人じゃないですよ。



 そんなこんなで、お世話になった女性陣に挨拶したりしてジジイ達は帰って行った。またそのうち報告に来るってさ。なんか種族的な儀式とかあって忙しいんだって。

 とりあえず、ちゃんと出産祝いも渡せたし満足。


 あー。いろいろ聞きたいことあったんだったな。まあ、いいか。急いでないから。

 幸せそうな感じだったし、違う話をするのも野暮だよね。


 アカツキも一緒にいたけど、二人とも何も言わなかったな。

 案外見慣れた鳥だったりするのかもね。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る