第88話 アカツキの成長

 そろそろ十一歳の誕生日を意識するようになってきた。

 今年は、兄さん帰って来れるんだろうか。無理でも手紙くらいはありそうかな。


 以前下流の調査をお願いした冒険者経由で、とある話を知ることが出来た。

 なんでもオストロイ下流近くの森で、蛇の魔物が複数目撃されているらしい。しかもかなりの大きさなのだとか。

 ギルド長のヤーレンさんは「以前の大量発生の影響が疑われる」と言っていたみたい。

 たしかに当時カエルも多かったし「食べて大きくなった」とか「餌を追って移動してきた」と考えることが出来る。見えないところでは、未だにあの時の影響が残ったままなのかもしれない。

 ギルドとしても、討伐依頼を受けたら本格的に動き出すんだって。今は調査段階だとか。まあそりゃそうだよね。自主的に討伐しても報酬貰えるかわからないし。

 こういった場合、領主様がお金を出すのか、その付近の人が出すのかどっちなんだろう。魔物の脅威度にもよるのかな。


 とにかく「注意してください」って事みたい。

 以前は「地図わかりにくい」って思ってしまったけど、いい人だったようだ。少しばかり申し訳ない気持ちになってくる。今度会う機会があれば、何かお礼をしよう。


 僕らに出来ることといえば、下流に近づかないことくらいか。

 少し離れた場所の話みたいなんだけど、念のため貯水池作りもしばらく休んで塔の方を進めよう。蛇の行動範囲知らないしね。


 

 最近、アカツキが大きくなりすぎて困っている。

 すでに僕の身長と同じくらいになった。もう少しすると、僕より先に母さん達を超えていきそう。なんだか悔しい。

 食事は毎日モリモリ食べている。好き嫌いもしない。そこは立派。

 でもこのままじゃ、壁を壊して拡張しないと出入り出来なくなるぞ。


 もうすでに少し飛べるのだが、割と歩いたりもしている。よくわからない子だ。

 以前はずっと一緒にいたのだが、最近は敷地内だと単独行動もする。


 大きくなったとはいえ、まだ心配なので探してみると倉庫にいた。

 今日は、換気のために開けていたから入ってしまったみたいだ。

 どうも何か突いているようで、コツコツと音がしているので急いで向かう。

 確認すると、なんと大切に保管していた世界樹の一部を突いている。


「あー! こら! ストップ、ストップ!」


 以前からつい癖で「ストップ」を使ってしまっていたのを覚えていたようで、突くのをやめてくれた。

 しかし、時すでに遅し。

 一部欠けてしまい、穴もあいていた。


「はー。どうしよう。今度エルマさんに会ったら謝らないといけないな」


 ため息をつきながら、アカツキを倉庫から押し出す。

 賢いので、外に誘導されていることはわかっているようで、素直に退出してくれた。けど、正直それだけ賢いなら悪戯は勘弁してほしい。

 あんみつトリオが落ち着いて来たと思ったら、今度はアカツキだ。ため息もでる。



 数日後、丁度良いタイミングでジジイがやって来た。

 気持ち的には、謝る必要があるので丁度よくなかったりもするが、こういうことは早めに謝った方が良い。


「ジジイ今日はエルマさん一緒じゃないの?」

「今日は、来ておらん。何か用でもあったかの?」


 正直に、エルマさんに貰った世界樹の一部が欠けてしまったことを話した。

 ジジイはその話を聞くと、すぐに伝えに行ってくれた。

 しばらくして、二人でやって来た。シャバくんは寝ているのでメイドに任せて来たのだとか。

 先程と同じ説明をして頭を下げると「現物を見たい」と言われた。

 倉庫に行き、確認してもらう。


「なるほど。大きさ的に、装飾品とすると良いと思います」


 エルフの中でも、そういう使い方をされているようで、一度エルマさんに穴の開いた欠片を預けて加工してもらうことになった。

 そして、そのままジジイとエルマさんは帰って行った。


 

 ジジイが何しに来たのか、聞き忘れていたので待ってみたが来なかった。

 大した用事ではなかったみたいだ。


 なんとなくモヤモヤするので、アカツキの晩御飯を少しだけ減らしておいた。

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