第89話 天からの贈り物

 十一歳の誕生日の前日、アカツキやクロ丸達が騒いでいたので庭へと出てみた。

 すると、少し遠くの空から何かが飛んでくるのが見える。

 すぐに「ヨシヒラ達に乗った兄さんかな」と思い、迎え入れる準備をする。

 地面へと降り立ったヒッポグリフ二匹には、乗り手がいなかった。

 大きい方のヒッポグリフは、ヨシヒラに似ているが色と柄が少し違う印象を受ける。ジュンの方は、たぶん間違いないかな。


 ジュンに着けられた荷物を確認すると、手紙が何通か入っていた。

 家族も集まって来たので、父さんへ手紙をまとめて渡す。


 その内一通が僕宛てだったようで、父さんから手渡された。家族それぞれに用意されてるらしい。

 手紙の内容は、こんな感じだ。


「バウ君誕生日おめでとう。この手紙を書いた後に、俺は山脈の向こうへと移動することになっている。だから、今年も帰れない。ごめんね。今年のプレゼントは、ヨシヒラの兄弟、ヒッポグリフの『ハルジ』だ。大切にして欲しい。きっと今後役に立つと思うから。君ももう十一歳か。この先大変なことがあるだろうけどがんばってね」


 兄さんにしては、ものすごくまともな文面。大人な感じ。

 ただヒッポグリフの名前が、覚えづらい。モンゴルっぽいと記憶しよう。


 手紙から視線をヒッポグリフのハルジへ向けると、いつの間にかアカツキ達とコミニュケーションを取っていた。

 見ていると大人しそうなので、そろりそろりと近づき触れてみる。

 ヨシヒラの様に、しっかりとしていて羽も堅い。安心して乗れそうだ。


 ペタペタとハルジを触っていると、後ろから父さんに声をかけられた。


「そっちは、バウへのプレゼントらしいな。良かったじゃないか。こっちのジュンの方は、俺と母さんが面倒を見ることになった」

「そうなんだ。大切にしないとね。よろしくハルジにジュン」


 二匹は、鞍もそのままだったので屈んでもらって乗ってみることにした。

 一人で乗ってみると、ヨシヒラの時とはまた違った印象を受ける。「飛んでみたい」と思ったが、マニュアルが無くどうすれば良いのかわからない。賢そうなので、手綱の操作か馬みたいに踵で合図すれば理解してくれそうではある。

 でも、この子達どこから飛んできたかわからないし、疲れてるかもしれないので今日はやめておくことにした。


 まずは、食事。

 水とお肉を用意してあげればいいのかな。一応野菜も添えておこう。


 食事を終えると、家へと案内する。

 幸いなことに、歪な形の我が家は庭が広い。そして、不安だった上空の防犯面もハルジのおかげで解消できそうだ。

 寝床は、専用スペースとして部屋の近くに、東屋のような場所を用意することにした。

 とりあえずはブロックで柱を立てて、木材とカエル素材で屋根を作る。

 出来上がると、サイズ的に馬用シェルターに見えた。半分くらい馬だし、合ってるか。

 床部分に寝藁を敷いて、完成。毛布も敷いて、反応を見ようかな。


 ハルジ用に作ったスペースなのに、パン太含む他の奴らがくつろぎ始めた。みんな新しいスペースに興味があったようだ。ついでに僕も混ざっておく。寝藁って飛び込みたくなるからしょうがないね。



 翌日、十一歳の誕生日を迎え、みんなにお祝いをしてもらう。

 久しぶりにジジイ一家も顔を出してくれて、とても賑やかな誕生日会となった。

 今年もプレゼントは、成長に合わせた服などがメイン。

 エルマさんとジジイからとして、例の世界樹の欠片を加工した装飾品を受け取った。勾玉みたいな形に整えられ、穴の部分に紐が通してあって身に着けられるようになっている。


 そして、最後に父さんと母さんから重大発表。

 なんと、弟か妹が出来るというのだ!

 聞いた直後は「えっ⁉」となったが、母さんはまだ三十代前半だし、元の世界を考えるとありえなくもない。

 僕が家を出たのは、結果的に良かったようだ。

 

 このおめでたい話を聞いて、祖母は手を叩いて素直に喜んでいたが、祖父は怒りだし父さんを追いかけ始めた。みんな止める気もなく笑っている。


 もし兄さんがここにいたら、どういう反応をしていたんだろう。


 騒がしくも幸せな時間を過ごしながら、僕は山脈と空を眺めてた。

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