第41話 先生

 ジイさんが消えて数日が経った。

 僕は何していたかと言うと、主に売り物の魔道具の作成。ホットプレートに、ひかる角改め光る魔道具だ。自分用に氷の発動体を作りたいところだが、頼んでおいた素材はまだ届いていない。

 自分でも魔法の使える発動体が作れるとわかったことを考えると、ジイさんとの出会いは良かったと言えるのだが、本来の目的は助手の確保であったので、また面接からかと思うと若干気が滅入る。


 どうやって助手候補を集めようかと考えながら作業の休憩をしていると、ジイさんは帰って来た。しかもエルフの女性も一緒だ。

「先生! やっと見つけたんじゃ!」

「先生ってこの子供がき⁉ アンタのせいで私、この男と一緒にならなきゃいけなくなったじゃない! どうしてくれるのよ!」

 急に戻って来たかと思えば、呼び方が『先生』に変わっていた。

 そして先日の話から想像するに、このエルフの女性が告白されて無理な条件を出した人なのだろう。だとすると、見た目は若いが少なくとも二百歳以上ということになる。


 ジイさんがいなくなってからも少し考えていたのだが、このエルフ女性の条件ってどういう意味だったのだろう。

 絶対無理とわかって言っていたなら、単純に諦めてもらうためだったかもしれないし、性格の悪い人で意地悪で言ったのかもしれない。

 初対面でこの言い草。どっちだろうか。

 それとも、また違った意味なのか。

 ツンデレの可能性もあるかとも思い、どう答えようかと思っていたら、ジイさんが突然数日いなくなった理由を語り始めた。


 氷魔法が使えるようになり嬉しくて、僕に紹介するためエルフ女性を迎えにいったが、以前住んでいた場所からいなくなっていたそうだ。

 元々は、すぐ戻る予定だったらしい。

 転移の魔法で探し回り、やっと見つけたのが今日なんだとか。

 とりえあず「しばらく休みを貰いたい」と告げて、エルフ女性を連れて消えていった。

 先日も、説明してから行けばよかったのではないだろうか。

 真面目なのか、なんなのか。


 そういえば、長命種のしばらくはどれくらいなのだろうと考えていたら、ジイさんは一人で戻って来た。

 いきなりエルフ女性と別れたのかと思ったが、悲壮感がないし違うようだ。

「そうそう。言い忘れておったけどな、先生の作ったこの発動体あるじゃろ? これ世に出さん方がええと思う。これがあれば多くの者が氷魔法を使えるようになるじゃろうが、恨まれることにもなる。氷魔法の使い手は貴重なんでな。しかも先生の作った物は魔力効率がすこぶる良い。こっちの方がより問題じゃ。うまく使いこなせれば、一つ上の魔法を発動できるようになってしまう。それがバレてしもうたら、取り合いじゃ」

 ジイさん戻って来たかと思うと、恐ろしいことを伝えてきた。

「恐らく、先生の魔力制御はワシ程じゃないにしても人間の中じゃ上位じゃ。スキルにそれも影響しとると思う。ワシの予想じゃがな」

 ジイさんぐらいになると、魔力制御のレベルもわかるらしい。


 製氷機を売る予定なので(今更言われても……)と思ったが、一般的な魔法陣で作られた魔道具なら大丈夫だろうとのこと。

 自分用に発動体を作ろうとしていることを伝えると、使用者登録の魔法陣を教わった。

 それが終わると、今度は「十日以内に戻る」と伝えて、またどこかへ行ってしまった。



 子供の頃からやっていた、魔力トレーニングにちゃんと意味があったと思うと嬉しくなった。

 それにしても、ジイさんは『先生』と呼ぶが、むしろこちらが色々教わっているし、あちらが先生ではないだろうか。

 ジイさんが先生だとすると、やはり助手となる人を探さなければならないだろう。

 今度は、ちゃんとそれなりに若い人を採用しようと思う。

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