第72話 時間の流れ

 子爵家の依頼をこなしたりしているうちに、気付けば十歳の誕生日まで後三十日くらい。

 チビ達は乳離れをして、中型犬くらいに大きくなった。もう僕の身体では、一匹ずつしか抱えることが出来なくなっている。ついでにいうと、寝ている時にお腹の上に乗られると「グェ!」って声を出し死にそうになるくらいには重い。

 まだ子供の顔に、アンバランスな大きく丸みを帯びた手もとい前足。この愛らしさに前足を握ってしまうのだが、サッと外されてしまう。こんなことでも遊びになってお互い楽しかったりもする。


 開発関係はあまり上手くいっていない。

 二属性に負金属を合わせても、思い通りにいかず困っている。相性みたいなもので反発しあったりでもしているのだろうか。

 まあ焦らずやっていこうと思う。

 何だかんだで元の世界換算で年間数億以上は稼げているし、従業員にもそれなりの報酬を渡せている。十分成功しているだろう。特別高価な物を買わない限り、周りの人達を養っていけるくらいにはなっている。


 ブロック建材の発動体については、とりあえずということで二つ売れた。大金貨二百枚。この取引のすごいところは、材料費の大部分を占める負金属を子爵家が負担していることと、物としては小さいし数も少ないので輸送関連のコストもかなり抑えられている点だ。よってヘイル商会の利益は普段と違い、一つ売れただけでも大金貨七十枚近くになる。元世界で言うと約七億円だ。知らない人に話した場合「三億もどこにいったんだ!」って言われてしまいそうだけど、ほとんどが税。子爵家相手の取引だろうと、いつもと同じ四分の一を払う必要があった。

 ちなみに一つ作るのに必要な負金属の量だが、凡そ大金貨十枚分。約一億円。で、税が二億五千万円。少し不思議な気持ちになった。

 単純に「相手が一億円分負担してくれた」って思うと、ありがたい気持ちになる。貴族との取引って、やはり少し特殊なようだ。

 商品としては良い評価を頂けているので、子爵家の保有する負金属の量次第では追加注文もありえる。そういえばレンガのブロックを作れる人員の心配をしていたけれど、優秀な人を複数抱えているようで問題なかったみたい。さすがお貴族様だ。


 最近オストロイの町に行く機会も増えたので、こんな話も聞いた。

 蝗害で大変なことになっていたパーノポーだけれど、戦国時代みたいな状況から少し変化があったらしい。今は、三國志みたいになっているようだ。アクース教勢力、周辺国が支援する勢力、そしてどちらでもない勢力の三つ。

 個人的には、もっと戦国時代が続くのかと思っていたが、意外とその期間は短かったようだ。

 今後も情報は集めていこうと思っている。



 さて、十歳になった時に神殿でお祈りするつもりなのだけれど、その際神に確認したいことがある。神の啓示の件だ。


『まもなく 災い 芽吹き 大地 荒れる』

『多く 小さき力 集いし刻』

『安息の地へと 変わる』

 これって、パーノポーの件だったりしないだろうか?


 戦争が起きそうになったのが災いの芽吹き。

 蝗害で大地が荒れる。

 多くの小さい力。これが蝗害のことか、人間のこと。

 そしてこの後争いが収まると、安息の地に変わったことになる。

 なんとなく辻褄は合いそうかな?


 でもこの場合「あまり僕に関係なかったのになぜお告げが?」って感じもするんだよね。たしかに隣接する国だったので「注意しなさいね」程度ならわからなくもないけど。

 最後のところは「落ち着いたらあちらに移住をオススメする」って意味にもとれるか。

 まあそれ以前に、お返事が頂けるかもわからないんだけどね。



 そういえば、そろそろ兄さんも帰ってくる頃だろう。

 色々話したい気持ちになっているが、その内容ってなるとすぐには思い浮かばない。

 ヒッポグリフに乗って帰って来るのかな。仲良くできそうなら乗ってみたい。

 僕からは、チビ達やクロ丸達を紹介しよう。

 楽しみだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る