第73話 ヒッポグリフ

 誕生日の前日。

 いつもは、割と静かな昼下がり。

 クロ丸、ちゃちゃ丸が鳴きながらすごい速さで戻って来た。

 当然「何事だ!」って、僕や警備の人達も警戒する。

 見上げた空には、大きな生物。

 事前情報が無ければ慌てていたところだけど、すぐに(兄さんだろうな)と思い浮かべることが出来た。


 敷地上空を一度旋回し庭に降り立ったヒッポグリフは、僕の想像より大きかった。

 馬をベースとして大きさを想像していたのだが、実際に見てみると軽自動車くらいありそうだ。括り付けられている荷物も多い。

 ヒッポグリフから降り立った兄さんは、また少し大きくなったように見える。


「ごめんごめん。あいつらバウ君のか。うるさいから捕まえて素材にするところだったよ。あぶないあぶない」

 冗談か本気かわからない言葉に「あ、おかえり」とだけ、自然と発せられていた。

 クロ丸達は、近くの木からこちらの様子を窺っている。

 どこかに引っ掛けてしまっては危ないと、目印となる物を付けていなかったが今後は何か考える必要があるかもしれない……。少し冷や汗をかいた。


 兄さんの帰郷に、家族が集まって無事を喜んだ。

 少しして、もう一匹のヒッポグリフと共にロビーニョさんも帰って来た。

 こっちのヒッポグリフは、馬より少し大きい程度。兄さんの個体が特別大きいのか、こっちが小さいのかどっちなのだろう。あとで、聞いてみようと思った。



 母親っていうのは、世界が変わっても同じようで「お腹空いたでしょ!」ってすぐに何かを食べさせようとする。

 元々僕の誕生日前日ということもあり、食材は揃っている。今日は豪華な食事になりそうだ。


 色々と兄さんと話したいことはあるのだけれど、まずは他の家族に譲ることにして僕は料理をしようと思う。

 料理と言っても簡単な物だ。

 今日はオープンサンドにするつもり。自分で選んでのせて食べるのって楽しいからね。

 助手は、カーマイン一家のチェリーとアリザちゃん。

 挽肉を大量に作り、形を整え小型ハンバーグに。それから、近所の牧場で譲ってもらった卵をゆで卵にしてスライス。マヨネーズ代わりに、ビネガーと油に玉ねぎを入れて適当に味を付ける。

 揚げ物も欲しいので、鳥やイノシシを揚げる。味付けは、塩や香草。濃い味が良ければ、ドレッシング類から選んで付ければいいだろう。

 あとは、パンに乗せる用の野菜を用意して僕の作業はおしまい。母さんや祖母、もちろんエヴァやシエンナも料理を作っているので、これ以上は多すぎてしまう。

 パン太達には、挽肉と骨付き肉。リクエストに応じて加熱。



 この日の夕食は、当然兄さんが主役。

 旅での話で盛り上がった。どこにどんな生物が居ただとか、あの町では治安が悪く襲われただとか、あまり外出しない僕でも外の世界に興味を持つ話ばかりだった。

 普段ひっそりとしている父さんも倉庫から秘蔵の酒を持ってきていたし、やはり一家揃うのはうれしいらしい。


 僕からは、新しく加わった家族の紹介。

 クロ丸、ちゃちゃ丸にあんみつトリオ。

 クロ丸とちゃちゃ丸は、お昼のこともあり警戒モード。ついでに、パン太とリリーも似たような感じ。

 それに対して好奇心旺盛なあずきとしらたまは、兄さん相手でも平気なようで近づいてクンクンしている。あんずは気になるようだけど近づかずに僕の傍にいる。個性が出ていておもしろい。


 食事が終わったので外に出て、兄さんからヒッポグリフの紹介をしてもらった。

 大きい方が『ヨシヒラ』で、小さい方が『ジュン』だって。相変わらずよくわからないネーミングセンスをしている。

 ヨシヒラだけ大きな理由は「飛竜」所謂ワイバーンの素材を手に入れて混ぜたらこうなったらしい。

 こんな大きな生物もスキルの対象になっているなんてすごい。

 

 ヨシヒラは、クロ丸達に比べるとやや目が怖い。

 恐る恐る近づこうとしていると、兄さんが肩に手を回してきた。

「大丈夫。躾はちゃんとしてあるから。俺の敵以外は、むやみに攻撃したりしないさ」

 兄さんに押されるように近づいて撫でることが出来た。

 とても大人しい。

 パッと見た感じ、どこにワイバーン要素があるのかわからない。

 兄さんに聞くと、皮膚部分が変質しているのだとか。

 乗せて貰えるか確認すると、今日はもう暗いので明日ということになった。

 

 

 お風呂から出て、部屋で横になりながら考える。

 明日で十歳になる。

 元の世界では、この年齢の頃何をしていただろうか?

 曖昧な記憶が、僕の脳を疲労させ眠りへといざなった。

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