第63話 乗り物

 炉の完成により、以前より欲しかった強度のある筒とプロペラをドムさんにお願いした。とりあえず直径十センチメートルくらいから。

 製造過程を見てて思ったが、色々足りない。

 まず、プロペラを固定するための軸。

 そこから車輪を回すために必要なギア等々。

 妄想の時点では、もっと簡単なはずだったが真面目に作り始めると大変。

「いっそ空中に浮いていれば楽なのにな」と呟いてしまったのも当然と言えるだろう。最初からミニ四駆を想像していればよかったかもしれない。


 出来るだけシンプルにする為にプロペラは横向きにして、軸部分に車輪を直接つけることにした。これで、回転するエネルギーをそのまま利用できる。

 二輪バイクを想定していたのだが、このままだと最低でも三輪になりそうである。

 ちょっと想像しながら地面に絵を描いてみたが、見た目としては案外悪くなさそう。しかし、三輪の場合って安定性に難があったはず。であるならば、もうここは突き抜けて四輪にしてしまった方がいい気がしてきた。バイクでなく、車になってしまったが仕方ないだろう。

 あとはプロペラ部分を横にしたので、後ろ向きに竹やりマフラーの様なものを配置する必要があるだろう。プロペラで受け止めきれなかったエネルギーを、上空へと逃がさなければならないからね。こちらの技術でも作れるものを考えなくてはいけない。


 そんなこんなで子供用のソリくらいの車を試作してみた。

 単体ならば動くが、上に乗ると少々厳しい。

 ならばと、プロペラのサイズをいくつか試す。

 耐久性も加味したところ「プロペラは直径三十センチ程の大きさが無難」ということになった。今後新たな金属や、施設の規模が上がればもう少し大きな物も作ることが可能になるかもしれない。今現在この部分で出来ることは、プロペラの形状を変えて効率を上げる事くらいだろう。


 プロペラのサイズが決まってわかったことがある。

 手に入りやすい素材で作成した場合「風力が足りない」ということだ。

 動かないわけではないのだが「これだったら馬や馬車でよくない?」といった感じになってしまう。

 そこで、ジジイから教わった魔法陣を用いて、動力部分を発動体として動かす形にした。魔石で運用出来た方がよかったが、仕方がない。

 こうなると魔力制御の問題で、現時点でまともに動かせるのはジジイと僕ぐらいになる。元々、自分用に作るつもりだっただけなので困りはしない。



 一先ず完成した車は、六輪になってしまった。前四輪、後二輪だ。見た目は、ベッドサイズの荷車。試作品であるため当然屋根は無い。かっこよく言えばオープンカーかな。

 手元で魔力制御するために前輪に動力をつけようとしたのだが、僕には回転中の軸を曲がる為に動かす方法が思い浮かばなかった。その為、動力部分よりも前に車輪を取り付け、そこをハンドル操作で角度を変え曲がる方法とした。ハンドルは、低速の場合操作に力が必要なので自転車タイプのやや幅広な物を採用。魔力制御は、足で行う。これもまた操作を難しくさせるだろうが、僕には問題ない。


「よしっ! 試乗だ!」というところで気づく。

 タイヤが完成していない……。

 試作段階では、動く動かないレベルのテストだったので問題としていなかった。このまま乗ることは出来なくもないが、速度を上げた際に壊れる心配もある。


 一旦諦めて、タイヤ完成を待つことにする。

 車は、少し大きいのでジジイに収納しておいてもらうことにした。



 しばらく車に集中していた為、自分自身の仕事も若干滞っている。

 こちらの作業はもう慣れた物。サクサクと終わらせる。

 気を抜いたところで、集中していた反動か一気に疲れがきたのでパン太達に癒されに行く。

 おやつを与えながら撫でていると、リリーのお腹が若干膨らんでいる気がする。たぶんだけど、太ったわけじゃなくて妊娠の方だろう。

 パン太に近づき「お前ら僕が知らない内によろしくしてたな!」と捏ねる。パン太は遊んでもらってるつもりで、大きな手と甘噛みで反撃。しばらく一緒にじゃれた後、リリーを見つめ生まれてくるだろう子を想像する。

 地面に座り込んで「何匹なのだろうか、色はどっちか」なんて考えているうちに涙が浮かんできた。

 

 僕の子供ではないけれど、僕の子供だ!

 気分はすっかりお父さんになってしまい、新しい子たちの為に何が作れるかを考えていると、疲れは吹き飛んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る