兄さんは転生者

鈴寺杏

第1話 神の啓示

 口元を隠しながら、後ろを振り向き欠伸をする。

 昨日までの宿泊客は、チェックアウトを終えており少しばかり気が緩む。

(本日の予約は、修学旅行生なので来るまでは割とゆっくりできるな)

 なんて考えながら、フロント業務に勤しむ。

 やっと、このホテルの仕事にも慣れてきた。


 少々騒がしい、もとい元気な学生達のチェックインが終わる。

 ベテラン教師が、慣れた様子で素早く手続きを行ってくれた。


 荷物を置いてすぐ出て行く学生のグループを教師たちと見守りながら、かわいい女子生徒にだけ声をかけている中年男性教師を見てにやけてしまう。

 あまりにも態度が露骨なのだ。


 半分程の生徒が外出していっただろうか。

 次に出て来る学生の姿を求めて、エレベーターホールの方へ顔を向けた時、突然の揺れを感じた。

(地震か⁉ ス、スマホ⁉)

 近年は揺れを感じる直前にスマートフォンが鳴ること、そして何かあると情報を得る為に利用していたため、反射的に探してしまう。

 ズボンの右側にいつもの感覚があるのを確認し、少し安心したところで周囲の悲鳴が聞こえるようになりホールに意識が戻される。

 周囲の人達に声をかけようとしたところで、強烈な光に襲われ反射的に瞼に力が入った気がした。



『まもなく わざわい めぶき だいち あれる』

『おおく ちいさきちから つどいしとき』

『あんそくのちへと かわる』



 聞こえたのは、三人の声。

 ぼんやりとした意識の中で、語り掛けてくるような声が脳を刺激する。

 優しいような、重いような。

 起きろと言われているようで、まだ寝ていろと押さえつけられているような。


『まもなく 災い 芽吹き 大地 荒れる』

『多く 小さき力 集いし刻』

『安息の地へと 変わる』


 意識が渦に飲み込まれたかのように、ゆっくりグルグルとまわるような感覚。

 何度も同じ言葉が意識を染めていく。

 時々流れが変わったような気がしても、また元の流れに戻って行く。


 少しだけ悲しげで、戸惑っているようなだれかの気持ちが見えた気がした。

 そちらに手を差し出そうとした時、僕の意識は目覚めた。

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