第66話 負金属

 いつものように馬車でオストロイに移動する。

 本当は車で行けると楽なのだが、まだ完成していないし仕方がない。

 今回向かうのは、祖父と僕とオスカーにグレイだ。僕については「孫を勉強のために連れてきました」ってことにするみたい。


 町中で一度、商会の店舗に寄って身だしなみを整えた後、領主様の敷地に向かう。

 ついでに先触れも出しておいた。

 門衛さんに要件を伝えると、本館ではなく離れた場所にある倉庫に案内された。

 

 倉庫内で使用人と共に出迎えてくれたのは、子爵様の次男『デバン』様だった。

 こちらが緊張し畏まってるのを見ると、微笑みながら軽い挨拶と共に魔道具の感想を述べながら奥の部屋に案内してくれた。こういったことにも慣れているのだろう、非常にスマートでかっこよく見えた。

 室内に入り席に着くと、すぐに使用人さんが箱を持ってきて、テーブルの上に置いた。


「見せたい物ってのは、これだよ」

 そう言いながら箱を開け、中の物をみせてくれた。

 取り出された金属は、やや青っぽく見える。

「職人達の間では『負金属』と言われている物。これは通常の金属と違って魔力を通しにくくする」

 先程までは(青っぽい金属といえばミスリルかな)なんて思っていたが違ったようだ。

「だから基本的に、我が国では貴族が管理していている。まあ、国外からも入って来る物もあって、全て把握できているわけではないけどね。それだけ価値のある物だと思ってくれればいい。今回そちらのヘイル商会に声をかけたのは、先日の件もあり父上が期待しているからだ」


 どうやら領主様は、製氷機や先日の熱風の杖の活躍もあって「試しに少し渡してみるか」ってことを思いついたらしい。建設の補助金の件も含めると、思っていた以上に気にかけて下さっているようだ。

 この負金属なのだが、基本的には防具なんかに使われているらしい。貴族が管理し職人に防具作成を依頼、当然自分達でも使うが褒美として騎士に渡されたりするのだとか。


 渡されてすぐに使い方がわかるわけもないので、少量譲って頂き後日報告することになった。ついでに領内の鉱山から手に入れる事のできる金属のサンプルや、鉱石そのものもいくつか頂いた。

 お気持ちに応えるためにも、負金属のことは別として何かしら完成させてお見せしたいところだ。



 せっかく町に来たので、チビ達にお土産でもと思ったのだがまだリリーからの乳で育っているので食べ物はなし。おもちゃがてら骨を与えるのも、割れたかけらが刺さるのも怖いし当分は無理だ。

 今後もしばらくは暴れてくれそうなので、布類をいくつか買って帰ることにした。


 帰宅して、すぐにお風呂に入る。

 チビ達相手だと、もうしばらくは衛生面にも配慮が必要だろう。

 綺麗になったところで、見に行くと三匹とも寄って来た。珍しく長時間いなかったので心配でもしてくれたのだろうか? お風呂から出た直後で、体温が高いからとかかもしれないがなんとなくうれしい。

 しばらく抱いたり、指で突いたりしてると眠ってしまった。まだまだ寝ている時間が長い。

 リリーのお腹に戻してから、工場に向かう。


 負金属についてジジイに聞きたかったのだが、今日はもう帰ったみたいでいなかった。

 ジジイへの相談は明日となったので、帰りの馬車の中で考えていたことを思い出す。

 僕のスキルの特徴って数学で習った「マイナスにマイナスをかけるとプラスになる」に何となく似ている部分があるなと思っていたのだが、赤熊のグローブの件で迷いも生じている。ただやはり疑いながらも、単属性と負金属を合わせたら上手くいかないかなと期待していたりもする。

 スキルは完全にマイナスになっているわけではなく、効果が下がっている場合が多いのでマイナスと違うのは理解しているのだが……。


 きっとこの世界のみんな思っているのだろうけれど、スキルの説明書が欲しい。



 試した結果が気になるけれど、ジジイのいないところで実験して何かあっても対処できないかもしれないので、我慢して明日にする。

 以前なら一人でやっていただろうに、意識しない内にジジイにも結構依存していたようだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る