第65話 リリーの出産
ついにリリーとパン太の子供たちが生まれた。
自然に近い環境を用意したつもりだったのだが、例の穴は利用されず結局僕の部屋で産むことを選んだようだ。僕の近くの方が落ち着くということならうれしい。
子供は三匹で、黒に白にクリーム色っぽい三色だ。もちろんどの子もヒョウ柄。クリーム色の子は成長すると色が濃くなるのかな?
鳴き声は「ミーミー」かと思ってたけど違った。なんか表現しづらい感じ。真似しようとして、少しのどを傷めてしまった。
とにかく母子ともに無事のようでよかった。
何匹生まれるのかわからなかったので、名前はこれから考える予定。
環境を整えるのに必死で、考える余裕がなかったとも言う。
パン太が子供達に近づこうとするとリリーが怒るので、彼は少し離れたところで眺めるしかない。少し可哀そうに思う。
完全なる拒絶というわけではなさそうなので、そのうち許可がでるのだろう。
ちなみに僕も抱いたりはしていない、パン太に申し訳ないからね。配慮というやつだ。
近いうちに迷子防止用の低い囲いを設置しようと思う。
何日くらいで目が見えるようになるのかわからないけど、三匹もいると管理する方も大変だろうからね。
数日もすると、少し大きくなり目が見えるようになった。魔物の子だから早い。
ティッシュの箱より少し大きいくらいかな。やっぱりどの子も手が大きい。
これくらいになると、パン太が近づいてもリリーが怒らなくなった。というか、預けてお出かけの時間が増えてきた。
もういいかなってことで、持ちあげてオスメスの判断をする。
白とクリームがオスで、黒がメスのようだ。白と黒は親と真逆。
今のところ白と黒はヤンチャで、クリームは少し大人しい感じ。
そんなこんなで少し落ち着いた頃に、ジジイから報告が上がった。
エルマさんがコンクリートっぽい物を完成させたらしい。なんだかんだであの人優秀だ。
配合については教えてくれなかったが、売ってはくれるらしい。
こっちとしては、使えればいいのでありがたい。
(もう少し早く完成させていてくれたら家を作る時に利用出来たのに)と思ってしまった。まあ世の中こんなことの繰り返しだ。
せっかくなので家の補強にと、外壁で使わせてもらうことにした。
そこから更に十日が経過。
三匹の名前が決まった。
黒色の『あずき』に、白色の『しらたま』と、クリーム色の『あんず』だ。
かっこいい横文字の名前も考えたのだけれど、三匹が固まっている姿を見てあんみつが思い浮かんでしまった。
日本っぽくていいんじゃないだろうか。個人的には、気に入っている。
どんどんヤンチャになり、最初に作った囲いもすぐに意味が無くなってしまった。
服などの布を噛むようになってきたので、綺麗に洗濯した安物を着るようにしている。これも将来の狩りの練習なのだと思うと、かわいいものだ。
パン太もよく噛まれて困った顔をしている。痛くないからか、基本は放置みたい。
布団以外の家具は別室に移した。壊されて怒るくらいなら、そうしたほうがいい。
ぬいぐるみのような物があればいいだろうと、母さんたちに依頼する。喜んで引き受けてくれた。先日覗きに来た際に、警戒されてたのが少しショックだったらしい。「匂いで覚えてくれるといいわね」なんて話していた。
半日ほどで仕上げてくれたので、部屋に設置してみた。取り合ったりしながら遊んでいるのだが、これ匂いを覚えたら母さんたちも同じようにおもちゃとして噛まれるのだろうか。少し心配になった。
そんな平和な日々を過ごしていたら、領主様より我が商会に連絡が来た。
新しい注文かと思ったがどうやら違うようで「鉱山で珍しい鉱石が発掘されたので一度見に来てはどうか?」ということのようだ。
まだ本格的に炉を利用できていないとはいえ、最近開発が行き詰っていた感もあるのでありがたく招待を受けることにした。
それにしても、わざわざ声をかけてくれるなんて、そんなに珍しい物なのだろうか。我が家の設備で加工できる物だと良いけれど……。
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