第62話 炉の完成

 大量発生の際に熱風の杖を開発、販売した功績で、領主様より大工さんや炉を作る専門家を優先的に雇う権利を頂いた。費用も一部負担して下さるらしい。恐らく、今後も役に立つものを開発し報告しろということなのだろう。

 ついでに、工場も拡張することにした。補助金ワッショイ!


 炉の周囲は熱が発生してしまう為、工場からは長めの渡り廊下で繋げることとなった。学校の校舎と体育館、もしくは別棟みたいな印象を受ける。

 渡り廊下の幅は広めにお願いしたので、場合によっては壁を取り付け違った形で使用することも可能となっている。



 職人さん達が作業を始めて凡そ三十日。

 ついに炉を含む建物が完成した。

 なんというか、思っていたより小さいような気がするのだが、これが一般的なサイズのようだ。ドムさんからオッケーも出ているし、考えてみるとそんなに大量の精錬を行うわけでもないのでこれで十分みたい。


 これで今後は、今まで手を付けることが出来なかった加工にも挑戦できるようになる。熱に強い素材を金属と混ぜることにより、作成出来る物にも幅が出るだろう。


 そういえば以前に拾ってきた森林赤熊の素材なのだが、手の部分の一部は僕専用のグローブになった。この赤熊さん、非常に熱に強い。というか、緊急時の攻撃では熱をもった攻撃を行い相手を燃やしてしまうそうだ。森にいる癖に、高熱で火を熾すなんて非常に危ない奴である。あの時、火災にならなくて良かったと思う。

 それで今回「ほんのり暖かくなる耐熱グローブになればいいな」と魔法陣を刻み発動体にしてみたところ、なんと初めて単体で効果が強化される発動体が完成した。未だ検証中ではあるが、魔力によって熱を発生させることが可能になる発動体だ。


 これで何ができるのかというと、当初の目論見通りの耐熱グローブとしても利用可能であるし、扱い方によっては対象を燃やすことも可能だ。

 ただし、効果が強化されているためにコントロールが非常に難しい。木で練習すると発火して危ないので、肉を用いたのだがいくつか炭にしてしまった。その後練習を重ね、うまく熱を入れることが出来るようになった。これには、パン太達も大喜び。たまには血生臭い加熱した肉も彼らには良いらしく、時々持ってきて強請るようになった。それぞれ加熱の加減に好みがあるようで、ストップの指示として鳴くのが可愛かったりもする。


 さて、なぜ今回赤熊の手だと単体で効果的な発動体を作ることが出来たかなのだが、ジジイと僕はいくつかの仮説を立てた。


 まず単純だが「僕のスキルと相性が良かった」という説。はっきり言って、この場合だと今後も試してみなけりゃわからない状況が続くこととなる。

 二つ目に「熱というのが特殊だった」という説。熱はイメージ的に火と似たような印象を受けるが、冷える場合にも当てはまらなければおかしいだろう。ちなみに、赤熊のグローブでは冷やす方は出来ていない。謎である。

 次に「元々赤熊の手からは二つの効果が発動していた」という説だ。視覚的に判断出来る部分では「発熱し対象を燃え上がらせる効果」しかわかっていなかったが、もしかすると別の効果もあったかもしれない。

 最後に「あの赤熊が特殊な個体だった」という説。外見的には、大き目ではあるが一般的な個体だとジジイは言っている。見た目では判断がつかないようだ。まあこれに関しては、今後何匹か森林赤熊の素材を手に入れる機会があれば答えを知ることができるだろう。


 

 我が家での作業を終えた職人さん達は、数日休んでまた鉱山方面での仕事となるようだ。今回、大量発生の影響で広範囲におよぶ調査の結果、新たな鉱床が発見されているらしい。子爵様も大忙しだ。

 例の大量発生の被害も少な目で鉱山関係もとなると、オストロイは景気が良くなりそうと見られているようで、前より人が増えてきている。その中には、スキルを持った職人もいるらしく、以前よりは人に余裕が出ているのかもしれない。

 以前に見つかっている所からの採掘も一部すでに始まっているようで、少しずつ市場に鉱物が流れてきているみたい。ただ購入するのに許可が必要なようだが、ヘイル商会は当然許可を貰っている。開発に必要ってことで、わりとあっさりと申請は通った。

 

 賑わいを見せ始めている町や鉱山からは少々外れた場所にある我が家は、今のところ以前とそれ程違いは感じられない。まだまだ長閑な田舎と言えるだろう。

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