第38話 助手のジイさん

 採用を告げてから五日が経ち、老人男性のジイさんはやって来た。

 しかも手ぶらで。

 従業員用の別館に案内されるのを見て思った。

(五日間何してたんだこのじいさん)と。

 部屋まで同行して「仕事は明日からで、今日は自由」だと伝える。

 ベッドや机などの最低限の物は用意されている。

 持参した物の整理の時間を取ったつもりだったが、必要なかったかもしれない。

 まあ、来て初日だしゆっくりすればいいだろう。


 今日は、僕も自由とした。

 これでグレイさんやオスカーさんも休めるはず。

 最近僕の手を離れたトカゲ園で、訓練の様子を見守る。と言っても、オータロウ一家の子供達もまだ小さいので、触れ合う時間を増やして慣れている段階。

 あいつらかなり素早いんだよね。アルロさん達、苦労しているようだ。

 気づいたら、ジイさんも近くで見ていた。暇なのだろう。


 家に帰ると、今日も祖母が来ていた。

 屋敷より、こっちの狭い方が落ち着くらしい。

 うちの食堂は、女性陣にとって会社の給湯室みたいなものなのだろうか。

 

 祖母もいることだし、おやつを作ろう。

 昨日作って冷やしておいた酸っぱいリンゴを砂糖とバターで煮詰めたものと、これまた作っておいた生地を用意。

 凍くんのおかげで冷やすのはバッチリ。


 そう、アップルパイを作るのだ。

 よさげな入れ物を借りて生地を敷き、煮詰めたリンゴを並べる。

 女性陣も暇だったのか手伝ってくれた。

 後は、網状に生地を上からのせて、玉子を刷毛でぬりぬり。

 窯で焼くんだけど、任せてしまおう。

 みんなで監視。

「いい匂いがしてきたわね」

「バウちゃんは、お料理も上手ね」

「お嬢様より、お上手なのでは?」

「シエンナ。あなた屋敷の掃除に行きなさい」

「お嬢様、ひどい!」

「ふふっ。冗談よ」

 

 いい感じに焼き色が付いて来たので、取り出して切り分ける。

 今って、何人分必要なんだっけ。

 十二じゃ足りなさそうだし、がんばって二十四に分けてもらった。余ったら僕らで分けよう。

 それにしても、小さくなってしまった。二つ作ればよかったな。

 

 匂いに釣られたのか、エヴァさんが来た。

「アネットちゃん、私のいないところでずるいじゃないかい!」

「エヴァ姉さんのところにも、今から持って行くつもりだったのよ」

「あら。そうなのかい?」

「そうよ。バウちゃんが作ってくれたの。エヴァ姉さんもここで食べていったら?」「出来立てだものね。そうしようかね」


 久しぶりに食べたアップルパイは、何か物足りない感じがした。

 だけど女性陣は「おいしいおいしい」って褒めてくれた。

 エヴァさんもティータイムを楽しむことにしたらしく、屋敷の分はシエンナさんとジムくんが持って行った。飲み物は、氷を入れたアイスティーでよかったかな。

 


 しばらくして、ジムくんが走って帰って来た。

 アップルパイとアイスティーを見て、ジイさんが騒ぎ出したらしい。

 理由がよくわからないけど、急いで現場に向かった。


「まだなんか!」

「すぐに若様が来てくれるから、落ち着け」

 屋敷の食堂に付くと、落ち着きなくうろうろするジイさんを護衛の人達が包囲していた。カーティスさん達も入り口で見守っている。

 どうやら僕を待っているようなので、声をかけながら入室する。

「どうしました? 何か料理に問題がありました?」

「おお! 来たか! 来たか! 坊主がこれを作ったんで間違いないんか?」

「アップルパイですか? そうですよ。母さんたちと作りましたが」

「違う! こっちの氷の方! 氷!」

「氷ですか。氷を作ったのは魔道具で、その魔道具を作ったのは僕ですけど」

「見せろ! いや、見せてくれ! 頼む!」

 料理に問題があったのかと思えば、氷が気になっていたらしい。

 すごく必死なので、ジムくんに製氷機を持ってきてもらう。


「ははっ! ほんまに氷が出来とる……。坊主! これを魔道具じゃのーて、発動体で作れんか?」

「ん-。発動体って小さくて難しそうなので、まだ作ったことがないんですよね」

「ワシが! ワシが教える! 坊主! 作ってくれ頼む!」

 

 仕方がないので、工場に向かうことに。

 なんでこんなに必死なんだろう。

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