第3話 一歳になりました

 異世界に転生して、およそ一年が経過した。

 もうすぐ僕は、一歳らしい。


 文化レベルは、元の世界に比べるとずいぶんと劣っているのだが、時を知ることができる。

 時々うるさいと感じていた定期的に聞こえて来る鶏みたいな声が、実は時を告げる鳥によるものだったのだ。割と大人しい魔物らしい。

 鳴き方で時間だけでなく、年明けから何日目かがわかるのだとか。


 嫌悪感を抱くゲジゲジさんが益虫だと知った時の様に、今では優しい気持ちで見たり聞いたりしていられる。



 こちらも先日知ったのだが、この世界には『スキル』と呼ばれるものが存在する。

 自分のスキルが何かは、知らない。

 三歳になる年に、スキル告知の儀式で知ることができるのだとか。


 そして魔法も存在する。

 それを知ってからは、異世界の物語でお約束ともいえる魔力トレーニングを試している。


 体内に何か動かせる物がないかとお腹に力を入れ、お尻からアレが出てしまい何度も母に迷惑をかけたが、今では体内の魔力を感じ動かせるようになった。

 しかし魔力を感じられた、動かせたからといって発動は出来ない。魔法系のスキルを持っていない場合、『発動体』と呼ばれるアイテムが必要らしい。

 これは、魔物の素材や鉱物などで作れるようで、値段と効果はピンキリなのだとか。

 先日、空き部屋を借りに来た冒険者達が話していたのを耳にした。


 そうそう、お約束の冒険者も存在する。

 昔、田舎に存在していた『なんでも屋』みたいな存在のようで、狩りから雑用なんでもやるらしい。

 父も素材を売ったりする為に、冒険者登録しているみたいだ。


 まだうまく言葉を発することが出来ないが、いろいろな知識を得ることが出来る毎日が楽しい。



 誕生日当日は、家族がお祝いしてくれた。

「もう一歳か。最近は少し歩けるようにもなった。早いものだな」

 そう言いながら父は、積み木をくれた。


「私からはこれね」

 母は、革で出来たサンダルを履かせてくれた。


「じゃあ、最後に俺ね。はい、マツナガさんだよ。可愛がってあげてね」

 兄は、小指の先程の黒い蜘蛛を差し出してきた。

 どうしたらいいのか固まっていると、服に乗せられた。

 兄だけでなく父と母も笑顔なので、毒の無い安全な蜘蛛なのだろう。


 というか、蜘蛛に『マツナガさん』というネーミング。歴史好きなら嫌な予感しかしない。

 先日行方不明になった、バッタの『ヒロシ』に次いでの日本っぽい名前。

 前々からそんな気がしていたが、どうやら兄も転生者のようだ。

 ついでに言うと、おそらく『元日本人』だろう。 

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