第11話 マツナガさん死す

 朝起きると、一歳の誕生日に兄さんからもらった蜘蛛の『マツナガさん』が仰向けになり死んでいた。

 先日まで元気で、手に乗せて糸で降りてもらう特殊部隊ごっこをやっていたので、非常に驚いた。

 蜘蛛の寿命は知らないので、これが早いのか遅いのかわからないが、四年ちょっと一緒だっただけに悲しかった。


 兄さんにも報告する必要があるだろうと思い、亡骸を見せに行く。

「兄ちゃん。マツナガさん死んじゃったみたい」

「どれどれ。うん、死んじゃってるね」

「お庭にお墓作ろうか」

「ん-。今、ストック無いんだよね。どうしよう。ちょっとこれは預かっておくよ」

 そういうと兄さんは、マツナガさんを受け取り去って行った。

 兄さんは時々、話を聞いているのかわからなくなることがある。会話の内容から外れた返しをするのだ。

 いつものことかと思い、呆れながら庭で文字の勉強をする。

 昼までは、自習時間と決めた。



 昼食を終え少々眠くなってきたころに、兄さんから庭に呼ばれた。

 やっとお墓を作るのかとついて行くと、物置の裏でしゃがみこんだ。

「見ててごらん。この死んでしまったマツナガさんと、こっちの生きてる蜘蛛。これを俺のスキルで混ぜる」

 突然のことに戸惑っている僕を横目に、微笑みながら兄さんは続ける。

「するとこうだ。はい、合体。どう? これが僕のスキル『混』だ」

 兄さんが合成した蜘蛛? 生物は、見た目蜘蛛っぽいが足の数が増えていて少々気味の悪い姿になっていた。

「どうも普通に混ぜちゃうと記憶があったりなかったりするんだ。こいつはどうだろう。今までみたいに飼ってみてよ。危なくはないはずだから」

 そういって、一回り大きくなったマツナガさんだった生物を僕に差し出し、日本語でこう付け足した。

【バウ君さ、『転生者』でしょ? しかも『元日本人』。どうしても仕草にでるよね。わかるわかる。君も気づいてたでしょ? 俺の事】

 兄さんは、固まったこちらの反応を見て笑いながら去って行った。

 眠気は、すっかり飛んでいた。



 しばらくぼーっとしていたが、頭の中を整理するために家に入る。

 兄さんによる突然のスキル告知。

 そして『転生者』さらには『元日本人』であることのカミングアウト。

 一度に多くの情報が齎され、若干脳内がパニック。

 なぜこのタイミングだったのか。

 普通に考えると、スキルを見せる良いきっかけだったからだろうか。

 しかしあの兄さんである。何か他の理由があるのではないかとも考えられる。

 そういえば、これで兄さんに神の啓示について聞くことができるという事にも気づいた。


 いろいろと頭を悩ませているところに、小走りで近づいてくる足音が聞こえ、兄さんが目の前に現れた。

「名前決めた! シンマツナガさん! じゃ、よろしく!」

 それだけ告げると、また走って去って行った。



 今日はもう考えるのをやめ、パン太と遊ぶことにした。

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