第53話 ダーツとエルフ女性

 ダーツを設置して数日。周囲の多くが熱中した。

 アリザちゃんやラズくんがやっているのを見て「子供達でも出来るのなら」と、母さんや祖母もやり始めた。

 そこからあれよあれよと皆が巻き込まれ、空き時間を見つけては各自練習するようになってしまった。

 こうなれば、そのうち身内で大会を開き練習の成果を披露してもらうべきだろう。もちろん商品もしくは賞金を付ける。


 こういった物が流行すると、自分専用のアイテムが欲しくなってくる。

 元世界の友人の父は、ボーリング用のマイボールを持っていたりした。

 ダーツなら、マイダーツ。

 そんな話をしたら、何人かが職人達に作らせ始めた。

 売り物作りで忙しいのに困ったものだ。

 ジジイもマイダーツを作ってエルフ女性に自慢したら、取り上げられたらしい。

 可哀そうだが、投げつけられるより良かった気もする。

 今度は、もっと良い素材で作ると言っていた。

 たぶん、また取り上げられそうな気がする。


 

 ジジイがマイダーツを取り上げられた翌日、エルフ女性からという手紙を受け取った。今更ながら、そこで名前を知った。『エルマ』というようだ。

 ダーツ関係で苦情でもあるのかと思い読んでみると「例の偽ポーションが出る魔道具で知り合いのエルフの症状が良くなった」というお礼の内容だった。

 高価なポーションでも治らなかったものが治ったらしい。なにそれこわい。

 というか、ジジイが表に出せないと言っていた気がするが、これはいいのだろうか。

 その辺りをジジイ本人に聞いてみると、エルマさんとの関係を良くする為に家で使うように勧めたのだとか。「しかたなかろう!」とジジイは言うが、なんというかダメな人だと思った。

 

 広まってしまった場合の対処を、今から考えておくべきだと思う。

 今のところ、我が家以外ではエルマさんとその知り合いのみにしか伝わっていないならなんとかなるかもしれないので、ジジイに一度戻り確認させる。

 数分後、ジジイはエルマさんを連れて来た。


「申し訳ありません!」

 

 いきなりの謝罪だった。

 よくわからないので混乱していると、彼女は頭を下げたまま話始めた。


「知り合いってのは嘘です。本当は、私の肌が綺麗になったのですが、恥ずかしくて他人ということにしてしまいました!」


 とのこと。

 そんなに真剣に謝ることなのだろうか?

 よくよく聞いてみると、他人に自慢したいので今後も使っていきたいという内容だ。

 ジジイにあげた物だしそれはいいと思うのだけど、問題は世の中に広まってしまった場合だ。三人で、いくつか案を出していく。

 

 結局ジジイが転移で行ける、孤島の別荘のみで使用するということで決着がついた。

 もし他人に何か聞かれても、孤島でたまたま見つけた泉ってことにするようだ。

 案内するかしないかはジジイの問題だし、我が家の関与は疑われない。


 ついでとばかりに、以前から気になっていたことを聞く。

 その内容は「氷魔法が使えるようになったからといって、なぜ素直に一緒になったか」であるが「エルフは約束を破らない!」という答えだった。

 しょうがなく一緒に生活を続けているが、最近は「悪くないかも」という気持ちもあるという。思ったより、うまくいっているようでよかった。

 今度お礼に、エルフの里で手に入る珍しい素材をくれるとのこと。

 だいたい話もまとまったので、ジジイはエルマさんを送って行った。


 初対面の印象が酷かったのですごく嫌な人だと思っていたが、思ったよりはまともな人かもと考えを改めた。

 ジジイが戻って来たので「なんとかなってよかった」という話をした。

 ジジイは今まで、エルマさんから何もお礼やお返しを貰ったことがないらしく、ブーブーと文句を言っている。素材を分けてもらう場合は、代金を払うらしい。


 それにしても、エルフの素材とはどんな物なのだろうか。

 貰ってからのお楽しみということで、今は聞かないでおくことにした。

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