第52話 ヤバイ物

 目の前でジジイが呆れている。

「先生、これはダメじゃ。表には出せん」

 自分でもわかる。今回は、本当にヤバイ物が出来てしまった。

 完成したのは、ポーションの出る魔道具。

(治癒と水を合わせればいい感じになるんじゃ?)という安易な発想が本当に上手くいってしまった。いや、上手く行き過ぎてしまった。

「とりあえず表には出せんけど、ワシも欲しいから一つ頼むぞ」

 材料を取り出し、僕に差し出してくる。

 ジジイ相手なら断る理由もないので、作成し渡す。


 ポーションの魔道具は、僕とジジイが直接検証することにした。

 その間新しく来た三人は、ドムさんが面倒を見てくれている。作業をやって見せ、その後に真似をさせ技量を確かめているようだ。

 リアはスキルもある為か、簡単な作業なら問題なくこなす。

 クレアは木工関係は合格。

 オーリーはどれも程々といったところだ。

 それぞれに得意な作業を割り振り、仕上げをドムさんが行えば随分と効率よく進みそうだ。

 これで当分の間、売り物の魔道具の方はなんとかなるだろう。

 考えてみれば、最悪外側だけなら外注でもいい。


 カーマイン一家は、一時的にエヴァさんに預けている。彼女は、元教育係なので基本的なことはしっかりと教えてくれるだろう。

 厳しい人だと聞いていたが、カーマイン一家には優しく接している。今まで苦労してきた話を聞いているので、そのせいもあるのかもしれない。子供二人には特に甘い。

 


 魔道具で出来たポーションの検証が、いち段落した。

 結果としては、売られているポーションとは違う物であった。

 温めると若干変質することもわかった。

 治癒の効果を持った水は、日が経つにつれて効果が落ちていくようで「十日もすればほぼ劣化した水」となってしまうという結果も出た。

 実験に使用されたゴブリンくんは、解放されるとすごい速度で逃げていった。近くで犠牲になった仲間を見ていたためだろう。科学の発展には犠牲が付き物なので、しょうがないのだ。彼には助かっただけでも運がよかったと思ってほしい。

 


 カーマイン一家に、偽ポーションの水風呂を利用させること数日。

 水分が体内に浸透した結果か、痣はほとんど目立たなくなってきた。

 ついでに毛の剥げていた部分も、若干だが回復傾向をみせている。

 これを見た母さんと祖母は「肌に効果があるかも⁉」ということで、積極的に水風呂も利用し始めた。

 今のところ、なんとなく効果があるような気がする程度だが、本人たちが喜んでいるので見守ろうと思う。


 水風呂後の偽ポーションだが、もったいないのでトカゲ園の池に混ぜることにした。

 近づいてみると、結構怪我をしていたりするので治ることを期待している。

 オータロウ達の方が、母さんたちより肌に効果がある気がするのは内緒だ。

 

 

 クロ丸達はパン太達とうまくやっている。狩りにも一緒に行っているようで、狩って来た獲物の肉を仲良く分けているようだ。

 新しい従業員達も慣れてきたとはいえ、今までと違う環境での生活に疲れているだろうし、明日は一日休みにしようと思い各自に通達。

 そこで気付いたが、ここには娯楽らしい娯楽がない。

 アルトピに出かける前に考えていた物など含め、作らなければいけない物がたくさんあるのだが、せっかく従業員に休みを与えても娯楽がなければダメな気がするので何か開発したい。


 ウンウン唸りながら考えを巡らせる。異世界らしい娯楽とはなんだろうか。

 クレアなら弓で狩りとかできるみたいだし、練習用の的を用意してあげよう。

 そんな考えから弓の的の他に、ついででダーツのような物をドムさんに作ってもらい設置することにした。

 これなら子供達でも楽しむことができるかもしれない。

 なぜかジジイも欲しがってワンセット持って帰った。

 彼も娯楽に飢えているのだろうか。それとも、エルフ女性と遊ぶためだろうか。

 ジジイがダーツの的にされる姿を想像をして、少し笑ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る