第35話 今後のご活躍をお祈り申し上げます

 おやつが欲しくなる頃に、工場に戻る。

 結果を記入したものを受け取り、本日はお帰り頂く。

 まだ馬車に乗れば町まで戻れるからね。

 結果は「後日商会が用意した宿に連絡いたします」ってことで別れた。


 さてさて、まずは各自提出してくれたデータを確認。

 若い二人は「昼食前と昼食後共に異常なし」みたいな報告。

 中年の内二人は「異常なし」のみ。

 残った中年の人は「入門書や販売店の結果と同じ」という内容。

 最後に老人の男性だけど、自分の分だけじゃなく他者の魔道具も見ていたようで、経過観察のみならず比較もされているし、経験からくる魔石の状態の予想等、いろいろと書かれていた。


 次に、ドムさんに作業中の様子を聞いてみる。

 若い二人の内一人は真面目にやってたけど、もう一人は不真面目で最後にコソコソと結果を写してたらしい。

 中年三人は、試験官が子供だと知ってから雰囲気変わったみたい。経験とプライドもあるだろうし、子供の出した試験となるとなめるのもわかる。簡単な作業だしね。ただ「あんな子供と一緒に」みたいなことを口にしていたらしいので、ダメだ。

 老人は、話してる時ぼーっとしてて無気力な感じだったけど、結果をみるとちゃんとやってくれてる。最初「このじいさん大丈夫か?」なんて思ってしまったのは申し訳なかった。


 データ取りに関しては、書式を指定していなかったので、カンニングの人以外は最低限やってくれてるという評価にしておく。求めていたものとは違ったけどね。

 しかし、ドムさんの話や態度を見ると中年三人は採用しない方がお互いのためだと思う。勝手な想像だけど、あの年齢でここに来るって問題ある人な気がするし。でも、海外だと転職当たり前らしいから、そうでもないのかな……難しい。

 真面目な人は、もう一度話をしてみてかな。

 問題は、老人男性。能力的には問題ないどころか、優秀だろう。引退したベテラン魔道具職人ってことなんだろうけど、老後の資金が無くなって来た感じなのだろうか? あと年齢的に大丈夫かどうかってところ。


 結局二名にもう一度来てもらって話をすることにした。

 二回目だし、こちらから伺うべきだろうと相談したんだけど、雇われる側が出向くのが基本って言われた。うーん、元世界で考えてもそうだったような、違う場合もあったようなはっきりしない感じなので、そういうものと受け入れた。

 残りの人には、必殺「今後のご活躍をお祈り申し上げます」を伝えてもらう。


 翌日、二人が到着したので面接。

 まずは、若い人の方から。名前は『ポール』さん。

「昨日に引き続き、ありがとうございます」

「いえいえ」

「採用された場合、私の助手ということは聞いていると思いますが、それ以外にやりたいこと等ありましたら、お聞かせください」

「え、えっと。一人前の職人として、有名になりたいと思ってます」

 この後も「しっかり練習してきました」みたいな返答で、さすが真面目。

「ずっとデータ取りかもしれませんが、問題ないですか?」

 この質問には、少々戸惑ったようであたふたしてた。


 次に、老人男性。名前は『ジイ』さん。

「昨日に引き続き、ありがとうございます」

「うむ」

 というお約束の流れから入る。

 結局、新しいことができればデータ取りでもなんでもやるし、それが当たり前ってスタンスのようで、この部分は合格。

 最後に、何でここに来たのかだけど「暇だから」らしい。前にいたところは、いつも同じものを作っていてつまらなくなってやめたんだって。おもしろければ、上司が子供だろうが関係ないみたい。



 結局、採用したのはジイさんのみ。

 一応、新しい物を作る予定だし、それがおもしろいかは本人次第。気に入らなければやめてもらえばいい。

 ポールさんは「一人前の職人」を目指すなら、うちじゃなくて余所の方がよさそうだからね。あと、面接の感じからしてずっとデータ取りさせてると、不満をためて何かしでかしそうな感じがした。

 若い人も欲しいけど、そのうち良い人が見つかるだろう。

 

 また一旦お帰り頂いて、ポールさんには「お祈り」を、ジイさんには「必要な物を揃えてから数日後に来てほしい」と宿で伝えてもらうことにした。


 採用する方になってみると、結構大変だった。

 簡単に求めている人材を判別する方法があればいいのにな。

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