第95話 討伐

 包囲した冒険者達は、慎重に行動している。

 家の中が静かになっているので、大蛇は包囲されていることを感づいて身を潜めているのだろう。ここからは角度的に、一部しか見えないんだよね。

 アカツキは大蛇を気にして、上空を旋回中。邪魔しないといいけど。


 僕たちに出来る事は、あちらは主力の冒険者たちに任せて、一緒に侵入してきた魔物の処理かな。といってもそれ程数はいない。

 本当は隠れているのが正解なのかもしれないけど。

 大蛇との戦闘に、影響が出ない程度に出来る事をしよう。


 牙の鋭い猪や、歪な形をした角を持つ鹿。獲物を追って来たのか、混乱して迷い込んできたのか、どちらかわからないが人型の魔物もいる。

 動物系の魔物はまだマシ、問題は人型のオーガ。

 塔の上にいる僕たちを見て本能的に弱者と判断したのだろう、目標をこちらに定めて襲ってくる。

 大蛇の包囲に参加してない若手の冒険者が牽制したりしてくれているが、数人で一体相手するのがやっとのようで、どうしてもこちらに向かってくるオーガを止めきれない。


 アルロさんやクレアが弓で攻撃するが、あまり苦にしていない。急所に当たらなければ、効果は薄いようだ。

 オスカー達の槍も、今の距離では牽制程度にしかなっていない。

 カーマインによる熱風の攻撃も、致命傷にはならない。短時間の攻撃では軽い火傷程度。当然相手も動いているので、顔面に当て続けられるわけでもなく上手くはいかない。


 塔の入り口を破壊しようとする者と、外壁を直接登ってこようとする者がいる。

 位置的に他の人が攻撃しづらい、入り口のオーガに向かって上空から氷の塊を落とす。

 見事命中!

 人間なら首が折れて死んでいそうなのに、倒れてはいるが動いている。脳震盪程度なのだろうか。

 こうなれば、今のうちに氷漬けにするしかない。

 直接凍らせる自信はない。集中しオーガの周りに氷の塊を発生させ囲んでいく。

 周囲を徐々に覆う氷、更には冷気を浴びて相手も危機は感じているのだろう、先ほどより激しく藻掻いているようだが、生憎とまだ脳震盪の影響から立ち直っていないのか上手く逃れることが出来ない。

 

 しばらくして、氷越しにはオーガは動かなくなったように見える。

 倒せていないにしても、しばらくは動けないだろう。

 集中していたので、それほど時間は経っていないのかもしれないが、精神的疲労は結構大きい。


 周囲の状況を確認しようと振り向いたら、顔の近くを石が通過した。

 直撃コースではなかったが、反射的に身体がピクリと反応する。

 一瞬、死というものを意識させられ、呼吸が止まった。


 一拍置いて、周囲を見渡す。今のところ、大きな怪我をした者はいないようだ。

 ただ、胸壁だけを頼りにするのではなく、盾を用意しておけばよかった気がする。オーガなんて想定してないよ……。


 先程の石の出どころだが、入り口とは別のオーガが敷地内の石や岩を、塔や僕たちに投げつけているようだ。


 登って来ていたオーガも途中で落とされた後、投石に参加を始め酷い状況になってきた。

 塔からは衝撃を感じ、壁の一部はすでに破壊されている。

 僕たちは直撃するとほぼ即死しそうなので、一部を残し塔の内部へと逃げ込む。


 入り口側のオーガは動けない。

 このまま塔にいるとジリ貧だと思われる。

 ならば、ここから出るのが正解か?

 しかしそれにもリスクはある。


「若様!」


 僕が悩んでいるうちに、護衛たちはすでに決断していた。

 塔を捨てる判断をしたようで、アルロさんが再度上から牽制しているうちに、僕らを逃がすことにしたようだ。


 入り口を開き、オーリーを先頭に屋敷に向かって駆け出す。

 気付いたオーガの一匹が、こちらに向かって来る。

 僕や子供たちに近づけさせまいと、飛び出してきたリリーとパン太がオーガに立ち塞がり足止めしてくれた。

 そこへ上空からは、ハルジの攻撃。鋭い鉤爪がオーガの肩を抉る。

 

 このまま屋敷まで走れれば良かったのだが、あずきとしらたまがリリー達の戦闘に参加してしまった。あんずは、少し離れて様子見をしている。

 

「あずき! しらたま!」


 呼びかけても無駄。もう敵に集中している。仕方なく急いで戻る。

 隣でオスカーの顔が若干曇ったのが確認できた。


 危険な相手に心配もしたが、パン太以外はみんな魔物。上手く距離を取り戦えている。

 激しく動き回るリリー達に反応してオーガの意識が下に向いた時、ハルジが頭を攻撃し無事討伐。

 ほっと一安心。



 みんなに駆け寄ろうとした時に、突然ガラガラと音を鳴らし氷の中からオーガが動き始めた。

 最初のオーガを倒し切れていなかった!

 まずい! 近くには、あんずがいる!


 最悪の状況を想像しかけたところに、後方から何かが飛んできてオーガの首に刺さり、そのままゆっくりと倒れて動かなくなった。

 

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