第94話 襲来
なんだかちょっと、肩透かしを食らった感じ。
少し緊張感を持ちながら、各自が生活していたのだが魔物の襲来は今のところない。
当然、来ないでくれた方が良いのだけれど、がんばって準備したのだから何もないのも寂しい気がしてしまう。
とりあえず、必要な数の熱風の杖は用意したし、水車の塔を改良した避難所兼砦には槍や弓などの武器も運んである。
保存食も数日分は運び込んでいるので、緊急時に立てこもることも可能。
その際には、ヒッポグリフのハルジに乗って救援要請に向かう予定だ。
少し気持ちに緩みが出て来ていた頃に、馬に乗った冒険者が我が家に駆け込んできた。現在は、昼食の時間より少し前。
屋敷の入り口に向かい、居合わせた執事のカーティス達と対応にあたる。
まずは息を整えてもらい、内容を確認する。この人、以前に堀を作る時に作業してくれてた一人だ。
「お嬢からの指示で、急いできやした。どうやら、魔物の痕跡を見つけたようなんですが、鉱山方面に向かっているらしくて、すぐに坊ちゃんの家に連絡しろと言われまして……」
一瞬「お嬢」って誰かと思ったが、すぐにイースさんのことだと理解した。
逃げた魔物の痕跡を例の相方さんと探っていて発見。それが、こっち方面に向かっているということらしい。
来てくれた冒険者さんに礼を言うと、その場にいたメンバーで方々へ知らせに走る。
これより厳戒態勢だ。
来てくれた冒険者さんはそのままここに残り、連絡係として何かあった際にはオストロイへ走ってくれるらしい。
冒険者さんにも馬にも、休憩出来る場所と食事なんかを用意しないとね。
少しして、各自移動開始。
本当はみんな固まっていた方がいいのだけれど、基本戦える者は塔へ、母さんや祖母達女性陣は屋敷の地下へ移動することになった。子トカゲたちもここ。
祖父やカーティス達は最後の砦として屋敷をお願いする。
従業員については、カーマインは塔へ、残りの家族は地下へ。
ドムさんとリアは地下、クレアは弓が使えるので塔。
熊獣人のオーリーは、おどおどしながらも塔を選択した。少し槍が使えるらしい。オスカーに習ったりもしていたんだって。
塔の上で待っていると、偵察に出ていたクロ丸とちゃちゃ丸が鳴きながら旋回している。
ついに来たか!
カーマインやオーリーといった獣人たちは、耳を頻りに動かし状況を把握しようとしているようだ。
「見えました!」
最初に声を上げたのは、カーマイン。
彼の指す方を見ると、たしかに大蛇含めいくつか動くものが見える。
大蛇は周囲の物と比較すると、胴回りは子供用のトンネルや下水の土管より少し太く見える。そしてかなり長そうだ。
少しばかりオータロウ達に期待していたのだが、このサイズ差では分が悪い。
アルロさんも同じような判断をしたらしく、地上で待機していた警備の人にオータロウ達を連れ少し離れるように指示を出した。
小さいトカゲたちは、事前に地下へ移しておいてよかった。混乱して走り回られると、助ける余裕なんて無さそうなのだし。
大蛇のすぐ後ろにも動くものが見えたので視線を向けると、混乱した動物や魔物が飛び出してきた。
大蛇と冒険者だけを想像していたが、考えれてみれば当たり前の状況。
大蛇は追われているからか、想像以上に速い。
一瞬目を離しただけなのに、もう堀を超え壁を登ろうとしている。
そしてようやく、冒険者の姿を遠くに確認することができた。
堀手前の土塁が大蛇の移動の影響によって崩れ、ずいぶんと浅くなった。壁も大蛇の圧力に耐えられず崩れていく。もっと強度を上げておけばよかった。
大蛇はそのまま敷地内を移動しながら、僕のP字の家へとたどり着き壁を越えて上部より侵入していく。
思わず「なんでぇ⁉」と声を出してしまった。
隠れこみやすい形が仇になったようだ。
大蛇は動き回り、内側から家の中を破壊しているようで、メリメリと木製の部分が崩れていく。
今すぐ近づいていって殺してやりたい気持ちだが、そんなことをすれば危ないのはわかっている。
大蛇が壊した壁から、他の魔物と同じように冒険者が入ってきたので、塔から大蛇の居場所を指さしながら叫ぶ。
十人程で、包囲が完成した。
優秀な人達と聞いているので、これで逃げられる心配はほとんどないだろう。
まだ油断は出来ないが、ほっと一息つく。
大蛇を追い詰めることが出来たようで良かった。
僕の家は、今以上破壊されることが決まってしまったけどね。
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