第96話 討伐2
絶望からの歓喜!
絶妙のタイミングでの攻撃に心揺さぶられ、後方に振り向くと屋敷の屋根の上に人が見える。
「父さん!」
父さん。父さんだ!
屋根の上で、弓を撃ち終わった姿勢を保持する姿が見える。
すぐにこの言葉が浮かんでくる『残身』。
あまりにも美しい姿に、鳥肌が立つ。
次の矢を用意するわけでもなく、まるで時が止まったような父さんからは「確実に仕留める自信」があったことを強制的に感じさせる。そんな説得力があった。
少しウルっとしてしまったが、まだ全ての危機は去っていない。
塔の方へ意識を戻し、状況を確認する。
いつの間にか隣からいなくなっていたオスカーは、瞬時に近場の冒険者と連携して残りのオーガを倒すことに成功していた。
冒険者の中には、折れてしまったのか片腕がダラリと下がった人もいるが、幸い死人は出ていないようだ。良かった。
残るは大蛇。
そちらへ目線を向けると崩れた壁の隙間から一斉に襲い掛かる主力冒険者たちの姿が見えた。
胴回りが太いとはいえ、上手く切りつけることが出来れば大きく傷をつけることができる。
更に彼らは、オストロイ冒険者の中でも上位。
当たり前のように、同じ様な場所へと刃を導いていく。
大蛇は苦し紛れに口から毒をまき散らすが、冒険者たちは怒鳴るように声をかけ合い華麗に回避していく。
胴が切り離されそれでも暴れる大蛇だったが、最後は空に毒をまき散らした後、大地へと身体を横たえた。
ドスーンという音と共に、冒険者からの雄叫び! 歓声!
終わった。終わったんだ!
気付けば僕も自然と声を出し叫んでいた。
パン太達みんなに駆け寄り、抱きしめ生きていることを確かめる。
大丈夫、ちゃんと温かい。
さて、これからがまた大変だ。
まず僕の家。
壁は壊れてるし、部屋や倉庫もぐちゃぐちゃ。
庭の木は、一部が折れたり倒れたり。
幸い中心の大木は残っていたけど、無事とは言えない。
大蛇によって荒らされた部分を片づけるのに数日かかるだろうと思われる。更に言えば、蛇が毒をまき散らしたおかげで残った物も安全が保障できない。
いっそ必要な物だけ確認して焼き払うべきだろう。ただ、焼いた影響で付着した毒が気化してしまう可能性もある。冒険者さんに要確認かな。
他には、塔含めて工場なんかも大蛇以外の影響で壊れたりしてしまった。
しばらくは、生産活動もお休みだね。
屋敷は無事だったので、なんとか生活はできそう。
カーマイン一家は、また屋敷に戻ることになるだろう。でも別の場所に家を作り直せばいいだけだ、少しの間また我慢してもらう。
僕は、一時的に父さんと母さんのところに戻ることにした。パン太たち狭いけど我慢してね。
今回活躍してくれた冒険者たちを労う為、屋敷で食事の準備。
母さんたち女性陣も表に出てきて惨状を目撃すると、みんなが無事だったことにテンションが上がったようで沢山料理を作ってくれた。
祖父はカーティスと協力して、所持していたお酒を運び出して振る舞うみたいだ。
辺りが暗くなり始めた頃、例の伝令さんが呼んできてくれた冒険者や兵士、それに加えぽつぽつと周辺地域の人が、馬車や馬で来てくれて色々と手伝ってくれた。
報告用の現場の簡単な状況確認から始まり、処理の終わっていない大蛇や魔物を広場に移動させたり、解体手伝い。そして、運び出し。
瓦礫の片づけは、明日以降に何人か手伝ってくれるらしい。
さっきまで身内だけでやらなければいけないと思っていたので、非常に助かる。
気付けば小休止のはずが宴会へと発展し、一部伝令、報告のオストロイへ戻る人や兵士、地域の人以外の大勢はお祭り騒ぎ。酒に弱い人もいたみたいで、すでに地面で横になっている。早すぎ!
馬車で駆けつけてくれた人たちは、ちゃんとテントも用意していたようで準備はバッチリみたい。
汚れの酷い人や、女性冒険者さん達にお風呂を勧めると最初遠慮していたけど、入った後には「ここで働きます!」なんて言ってくれた。ほんとかなぁ?
みんなのお腹も膨れ、少し落ち着いた雰囲気になり始めた頃。
ふと屋敷の屋根の上に視線が向かった。
あの時の父さんは、本当に格好良かった。
思い出したので、父さんに突撃してお礼と共に思いをぶつける!
この話を聞いていた母さんが父さんに抱き着いたけど、祖父は怒らなかった。
怒るどころか、父さんのカップに酒を注いでいた。
今日は、最悪の日になりかけたけど、結果的に良い日になったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます